校長室
こどもたちのおしょうがつ
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第3章 暖かな空間 ログハウスでは、夕食の準備が進められていた。 すでに出来上がっているおせち料理の他にも、お汁粉やスープなどの温かい飲み物も作られていく。 「暴れたらダメですよ。お料理こぼしてしまいますから」 「はあーい」 「はーい」 料理を運んでいる桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)の言葉に、子供達が可愛らしい声で返事をする。 でも積極的にお手伝いや悪戯をする子供ばかりではなくて。 そんな鈴子や子供達の様子を、少し離れた位置で見ている子供もいた。 「おなか……すきました」 外でぽつんと皆を見守っていた神野 永太(じんの・えいた)のパートナーの外見5歳のザインちゃん(燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで))は、ログハウスの中に入っても、皆の中に入れずにいた。 外の子供達も、中にいる子供達も楽しそうにしている子が多いけれど、皆の中に入ることが出来ないザインちゃんは、とても寂しい思いをしていた。 いつの間にか、ザインちゃんの足は料理を運んでいる鈴子の方に向かっていた。 でも、自分から話しかけはせず、手伝おうとするわけでもなく。 ただ、鈴子の後をちょこちょことついていく。 「あら? どうかしましたか?」 無言でついてくるザインちゃんに気付いた鈴子は、膝を折ってザインちゃんと目線を合わせた。 「おなか、すきました……」 「もうすぐ準備できますからね。もうちょっと我慢しててくださいね」 こくりと鈴子の言葉に頷いた後、ザインちゃんは鈴子の目をじっと見ながら尋ねる。 「ざいんも、ママのお手伝いしてもいい……?」 ママと呼ばれたことにちょっと驚いた鈴子だけれど、すぐに優しい微笑を浮かべた。 「お手伝いしてくれますか?」 「うんっ」 ザインちゃんは淡い笑みを浮かべて頷いた。 「うにゅ……うにゅー」 外見3歳のひさめちゃん(鏡 氷雨(かがみ・ひさめ))は、誰もいない部屋でえぐえぐ泣いていた。 いつもより周りが大きくなり、なんだか上手く言葉も喋れなくなって、どうしたらいいのか分からず、不安で不安で泣いていた。 「ふぇ?」 少し落ち着いてきて、ようやくひさめちゃんは子供達の遊んだり、笑ったりする声に気づく。 「うにゅ……うにゅーーー」 ドアをちょっとだけ開けて隣の部屋を覗く。隣の部屋のこたつの上には、おせち料理をはじめとした料理がいろいろ並べられていた。 「動き回らないでくださいね。こぼれてしまったら、食べられなくなってしまいますわ」 そして、着物を纏った女性が、子供達に優しく語りかけている。 子供達は「はーい」と元気に返事をしていた。 「うにゅっ」 ひさめちゃんは、ドアを大きく開けるとトテトテと走ってその人物――桜谷鈴子に、後ろからぎゅっと抱きついた。 「あにゅね、あにゅね! ボク、おくしゅり、ちいしゃく……うにゅ?」 鈴子に説明をしようとしたが、途中で分からなくなりひさめちゃんは首を傾げて考え込む。 頭の中は『はてな』でいっぱいだった。 「いいんですよ、難しいことは何も考えないで」 鈴子はゆっくりゆっくり、ひさめちゃんの頭を撫でた。 「今はゆっくり楽しみましょうね」 「うにゅ……」 よくわからないけれど、なんとかなるような気がして。 ひさめちゃんは鈴子に抱きついたまま、ニコニコ笑みを浮かべた。 鈴子が立ち上がってからも、ひさめちゃんは鈴子の足につかまって、一緒にキッチンへとちょこちょこと歩いていく。 「くりきんとんはあるかしら? 太っちゃうのはいやだけど、甘いもの食べたいのよね。うふふ」 キッチンには、黒髪ツインテールの外見5歳の女の子が顔を出していた。 髪の毛の毛先はくるくる巻いてあり、黒のミニシルクハットを被り、黒がベースのゴスロリふりふり衣装をまとった、お人形のように可愛らしい女の子だ。 「ありますよ。後で持っていきますから、お部屋で待っていてくださいね」 鈴子は女の子にそう声をかけて、冷蔵庫の方に近づいた。 途端。 女の子はビクリと驚いて、勢いよく振り向き、後ずさり。 「ん? どうかしました?」 「ううん、なんでもないの」 心配そうに声をかける鈴子に、女の子はぶんぶんぶんぶん首を左右に振った。 (うああああ! こ、この姿を見られるのは一生の恥!) 女の子の顔がカッと赤くなっていく。 「熱でもあるのかしら」 「ううん。お外であつくなっただけなのよ」 女の子は後ずさりして鈴子にぎこちなく微笑む。 本当は髪やドレスが汚れるからと、本当は外に出てはいない。今までこたつで待っていたけれど、待ちきれなくて様子を見に来たところだ。 「……ご、ごきげんよう知らないおねえさん。う、うふふ」 そして、女の子はバッと走り出した。 しかし。 「あっ」 ズテーン! 服がドアに引っかかって、思い切り顔から転倒! 「いったーーーーい」 おでこに手を当てて涙を浮かべる女の子に、慌てて鈴子が近づき、回復魔法をかける。 「大丈夫!? ……でもなんで逃げようとしたのかしら……。り・な・さん」 鈴子の言葉に、びくぅと少女――りなちゃん(雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった))は飛びあがった。 「う、うふふふ……ど、どうして?」 痛みを忘れて、りなちゃんは冷や汗を流しながら鈴子に問いかけた。 「見た目は全く違いますけれど、声でわかりますわよ」 にっこり微笑んで、鈴子はりなちゃんを抱き上げた。 「ザインちゃん、冷蔵庫の中から栗きんとんとかまぼこを持ってきてくださいね」 「はい、ママ!」 ザインちゃんが返事をして、冷蔵庫の中を探していく。 子供達がお手伝いしやすいように、冷蔵庫の中の料理や食材には、大きな字で名前が書かれていた。 「お部屋に行きましょうね」 それから足をつかんでいるひさめちゃんと、額を押さえたままのりなちゃんにそう声をかけて、鈴子はリビングへと歩いていく。 「うー……」 観念して、りなちゃんも抵抗はしなかった。 「ついでにたまごとって〜」 コンロの前に立っている外見6歳のエレンちゃん(神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん))が、ザインちゃんにお願いをする。 「は、はい」 ザインちゃんは、取り出したかまぼこと栗きんとんをいったんテーブルの上に置くと、冷蔵庫の中から、卵の入った籠を取り出して、エレンちゃんのところに持っていく。 エレンちゃんは、出汁巻き卵を作っていた。 器用にくるくると卵を巻いていく。 ザインちゃんはすごいなーと思っていたが、話しかけるのはやっぱり苦手で、卵を持ったまま待っていた。 「できた……けど、できたとはいえないのっ! 左と右の大きさがちがうのっ!」 「じょうず、ですよ……?」 出汁巻き卵の出来にむきゃーとしているエレンちゃんに、おそるおそるザインちゃんはそう言ったけれど、エレンちゃんは出来に納得できないようで、その卵は失敗分として、エレンちゃんのお持ち帰り用となった。 「よおし、あたらしいのつくろっ!」 テーブルの上には、プレーンオムレツも沢山あった。卵料理ばかりどんどん増えていく。 でも全部全部失敗作なんだそうだ。 「たまご、さん……ざいんもたべたいです……」 圧倒されながら、ザインちゃんはまずは栗きんとんとかまぼこを持って、皆の集まる部屋に向かっていった。 ママに報告しなきゃと思いながら。