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●空京神社にて――おみくじ、その光と影

 レキ・フォートアウフもおみくじを引き終えた。開いてみると……大吉!
「ふふっ、今年は幸先がいいね♪ カムイは?」
 カムイ・マギは、きょとんとした顔でおみくじを渡した。
「これはどういう意味でしょう?」
 末吉だった。
永く、という意味だとすればずいぶん良い卦ですね。しかしその割には下の文章がいまひとつふるっていませんが」
 そういう考え方もあるのか、レキは笑顔を見せた。
「本当はそういう意味じゃないけど、『末永く吉』と思っておくのはいいと思うよ♪」
 レキは微笑み、留守番している二人に、何か温かいものを買って帰ろうと提案したのだった。
「二人とも喜ぶかな?」
 日を改めてまたここに来たいものだ。今度は、四人全員で。

「あ、あれはなんなのかしら!? ダルマ!? だるまなのかしら!? あの、片目を入れることにより契約したとみなされて一生付き纏われる事になるという恐怖の大師、達磨大師像なのかしら!」
 普段は沈黙しがちな咲夜瑠璃だというのに、日本文化的なものに触れると興奮するところはあいかわらずのようだ。今も、ダルマを見て我を忘れそうになっていた。(具体的に言うと、ダルマに抱きつきそうになっていた)
 そんな彼女を引き留めつつ、「だめですだめです、いきなり駆け出したりしては!」と、咲夜由宇は買ってきたばかりのものを押しつけた。「ほ、ほら、これも日本文化……まあ大阪文化かもしれませんが……ともかく、タコ焼きです」
「ああっ、これが伝説の……!? 大阪では、タコを入れ忘れた店主は打ち首になるという話の食べ物なのだわ……」
 しげしげとタコ焼きを眺めうっとりする瑠璃を、由宇は引きずるようにしてその場から離れた。
 離れたその場所には、また別の『日本文化』があった。おみくじ売りである。すかさずアレンが言った。
「それにしても、こんな人の多いところに連れてこられてどうにも気分が悪いねぇ。由宇……おみくじのひとつくらいおごってくれてもいいんじゃないか」
 するとたちまち、瑠璃はまた目を輝かせたのだ。
「おみくじも日本文化。あの和紙の質感、とても素晴らしいのだわ……」
「わかりました買います。買いますから」
 というわけで三人、おみくじを買った。ただ、何を思ったのか『ののしりみくじ』などという珍品を引いたのであった。説明書きによれば、これ、とりあえず何か罵る言葉が書かれているという。
 わくわくと開いた由宇のおみくじは……凶。
『顔を洗って出直して来い!』
 と、メッセージも凶悪である。
「ははは、日頃の行いのせいだね」
 笑ったアレンのおみくじも凶だ。『ののしりみくじ』は凶率の高いおみくじなのだ。
『この甲斐性無しが!』
 メッセージもパンチが効いている。
「か、甲斐性無しだと……」
 さすがのアレンもムッとしたようである。なお瑠璃は大吉で、
『べ、別に、おめでとう、なんて言ってあげるつもりないんだからねっ!』
 と書かれていた。
「それ罵り言葉かね……」
 納得のいかないアレンであった。

 ノーン・クリスタリアがおみくじを開くと、そこには『中吉』という文字があった。
「なかきちー♪ なかきちー♪」
「いや、それは『ちゅうきち』でしょう?」エリシア・ボックが指摘した。「わたくしは『小吉』ですか……まあ、平穏無事というのも面白味のないもの、今年も退屈しないですむなら御の字ですわ」
 それに、とエリシアは内心思った。
(「わたくしの親しい者たちが、悲しみに沈むことなく過ごせたらありがたいですわね……おっと、これはさっきお祈りした内容と同じでしたわね。我ながら随分と丸くなったものですわ……」)
「ところで、おにーちゃんは?」
「いかがでしたの?」
 ノーンとエリシアが揃って、影野陽太に目を向けた。
「……ええと、ラッキーみたいです」
 陽太は照れながらおみくじを二人に開示したのだった。
 大吉、そう大書きされていた。しかし陽太を紅潮させたのは、総合的な卦が大吉であったことではない。
 彼の引いたおみくじ、『恋愛』の項目にはこう書かれていたのである。
『開イタ花ハ ヤガテ大輪トナラン。大切ニセヨ』

 おみくじを引く人々の顔は悲喜こもごもだ。中吉やら大吉やら、示す反応がそれぞれで面白い。
 ……暇にあかせて見物を決め込んでいたはずのアキラ二号だったのだが、いつの間にか人間観察が楽しくなってきたようで、半分閉じかけた瞼がきっちりと開いていた。真顔になればアキラはなかなかの美形である。整った顔立ちは好奇心の光を帯びて、より一層魅力的なものへと変貌を遂げていた。
 誰か知らないが、あまり卦の良くないくじを引き当てたらしい。黒衣の少女が直立不動の姿勢で、手元のおみくじをじっと眺めていた。彼女の頭は黒いとんがり帽子、しばしばゴスと称されるタイプの服も、すべて喪服みたいな黒だ。
(「凶でも引いたのか、ショックなのか動かないのう……」)
 人の不幸を笑うつもりはないが、その少女があまりに動かないので、アキラは見ていてつい口元がほころんでしまった。そこまでショックを受けなくとも……と思ったのだ。
「悪趣味ですな」
 冷たい声はダークネスト闇夜だ。アキラが何を見ているか察して呆れたのだ。
「あ……いや、これは……」
 ふとアキラが我に返ると、黒服の少女は姿を消していた。まるで最初から、そんな少女はいなかったかのように。
「別に気にしませんよ、私は。ですが、おみくじを引く客を見て面白がっている暇があるのなら、ご自分で引いてみてはいかがです」
 闇夜は販売所に二枚分の代金を払った。
「さ、挑戦してみましょう。私も試しますよ」
「わしは興味ないのじゃがな……おみくじなんて」
「まあまあ、そう言わずに」
 まず闇夜が自分の分を引いた。結果は吉、少しワクワクしていた闇夜であるが、
「うん、なかなか」
 と薄笑みを浮かべた。やはりスリルはユーモアだ。運試しは、楽しい。
「面倒じゃな」
 つづいてアキラもおもむろに一枚引き、ぱらりと開けてみた。
 結果はなんと大凶だ。
 見間違いではない。大凶だ。
 大事なことなので三回書く。大凶だ。
「ハッ……!?」
 アキラもさすがに目を見張り、その驚きを口に出してしまった。なぜこんなものがおみくじに入っているのかとっさには理解できなかった。……大きな神社だと、普通のおみくじでもまれに大凶が仕込まれているという。千本に一本以下だとか聞いたこともある。それをまんまと引き当てたのだ。
「金を払って大凶なんてただの大損じゃな」
 苦笑するアキラの肩を、闇夜がポンポンと叩いた。
「さっそく大凶の効果が出たみたいですな」
 闇夜はからからと大笑した。アキラが渋い顔をしているので、まあ、と闇夜は言い加えておいた。
「普通、おみくじで大凶とはなかなかないものです。それを一発で引き当てるとは、逆に言えば強運ということでしょうな。落ち込まないことです」
「落ち込んでなぞおらんわ。ただ……もう帰って寝たくなった。わしは疲れた……本当に」
 とぼとぼと歩き出すアキラ、そして、やれやれと肩をすくめ続く闇夜である。このおみくじが真実であったか、それとも闇夜の言う通り強運のしるしだったかは、この一年で証明されることになる……かもしれない。