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これが私の新春ライフ!

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これが私の新春ライフ!

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●ポートシャングリラにて――確かめ合う気持ち

 本日、飛鳥 菊(あすか・きく)飛鳥 桜(あすか・さくら)は、姉妹水入らずの買い物を楽しんでいる。二人っきりというのは本当にいつ以来だろう、話にも花を咲かせていた。
「……つか、ここでは正月も一日祝うんだな。欧州から出たことあまり無かったし……ちょっと新鮮」
「空京は日本よりだからかな、おめでたい雰囲気で一杯だね! そっちだと正月の昼間は祝わないの?」
「俺が住んでた所じゃ正月より、新年のカウントダウンが祭りみてぇだったな。家の外が花火の嵐だったし」
「カウントダウン? こっちでもやるよ、でも花火まではないか……。強いて言えばアメリカに似てるかなー。そっち程スリリングじゃないけど」
「まあどこもそれぞれってこったな。にしても日本の年末年始で一番理解できねーのは、クリスマス当日じゃなくてクリスマスイブが最大に盛り上がる、って話だな。24日って本番じゃなくてリハーサルみたいなもんじゃねぇか。それで本番はしらけてる、ってどういうつもりなんだ!?」
「なんだろ……文化の違い? 広告代理店の仕掛けのせいかもね……。それはそうと、三日はフットボール観ようと思ってるんだ。去年も観たけど、日本の駅伝みたいで面白かったな……そうだ!」ポン、と桜は手を打って、「姉ちゃん、帰ったらフットボールしないかい? 面白いぞ〜!」
「なに!? こんなくそ寒ぃ日にフットボールなんかするかボケ!」
「えー……のりが悪いんだぞ……ちゃんと姉ちゃん用の防具もあるのに……」
 桜の提案は菊にとっては言語道断のようで、菊は本気で拒否して言った。
「うっせえ! 文句言うとジェラートダブルで食わせるぞ!」
「じ、ジェラートは流石に寒いよぉ! 姉ちゃんやめて〜!」
 などと会話していたところで、どこかからお囃子の音が聞こえてきた。それと、カチカチというリズミカルな音も。見ると行く手に人だかりができており、見事な獅子舞が行われているのだった。
「うわーっ、獅子舞だ獅子舞! 行こうよ!」
 桜は飛び上がって喜び、獅子舞を追って走っていった。
「早く早く! 置いてっちゃうよー!」
 その足の速いこと! 追いつくため菊は全力で走らねばならなくなった。
「おいこら馬鹿妹! 俺を置いてくなー!」
 見るも鮮やかな獅子舞だ。カチカチっ、という音は、獅子舞の真っ赤な面が歯を噛み合わせる音だった。なんとこの獅子舞、直接人間が動かしているのではない。二体の操り人形が中に入って飄々と踊っているのだった。
「リーズ、ブリストル、威勢良く舞ってね」
 その二体をさらに操るのが茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)である。飛鳥姉妹ら人が集まってきたので、衿栖は声を上げて講釈した。
「地球の日本では新年やお祝いの行事に獅子舞をしてるんですよ〜。獅子舞は人に噛みついて、その人に憑いている悪魔を食べちゃうのです! 厄払いの一種なのですよ〜」
 衿栖はポートシャングリラのスタッフから許可を得て、この人形獅子舞を行っているのだった。最初は入口でやっていたが、昼からはこの中央広場で耳目を集めていた。
「これから獅子舞が皆さんの元を訪れます!見かけたら逃げないでくださいね〜」
 カチカチっ、獅子の面が口を大きく開けた。その間から一瞬、操り人形のリーズとブリストルの姿がうかがえた。
 すぐさま桜は飛び出した。
「姉ちゃん、噛んでもらおう! 噛んでもらおう! はーい、こっちお願いしまーす」
「Un sciocco ! てめー、俺がどんだけ走ったか分かるか、ああ!? って、おい俺を無視すんな……えっ」
 獅子舞はまず、かぷかぷっ、と菊を噛み、続けて桜を噛んだ。
「よーし、これで厄払い完了なんだぞ☆」
「わけわかんねぇことさせんじゃねぇ!」
 菊は妹にチョップを食らわせた。
「痛いよ、姉ちゃぁん……ううう」
 しばし泣き真似をした桜はすぐに復活、じゃーん、と言いながら菊にぬいぐるみを渡した。
「はい、厄払いも終わったことだし、日本の文化お年玉! どうぞ〜」
 これは、姉の目を盗んでそっと買っておいたものだった。桜はさらに言った。
「えーと、お年玉って言い方がなじめないなら、ちょっと早いけどエピファニア……だっけ? ってことで」
「……え、エピファニアって……おま、よく知ってんな……ま、まあ、ここは日本文化圏みてぇだし、お年玉でいいんじゃねえの? ……せ、せっかくだし貰ってやる……その……Grazie」
 嬉しくて胸が詰まりそうな反面、
(「Accidenti! ……馬鹿妹になんか貰うとか予想外すぎるぞ畜生め……。これじゃ姉貴として何か……」)
 という気分にもなる菊である。きっ、と行く手を睨むと、
「おい、走って疲れたからカフェ行くぞ! ……今日は俺の奢りだからな、感謝しろよ! ……ついでに、お前の去年の話聞かせろ。俺はこっちの事は何にも知らねえからな!」
 菊は獅子舞の横をすり抜け、今度は自分が先に立って走り出したのだった。
「姉ちゃん待って〜! 今度は僕を置いていかないでよー!」
 追いかけながら、姉ちゃんってもしやツンデレ……? と桜は思った。
 そんな姉妹を祝福するように、衿栖の獅子舞は、カチカチ、カチカチ、と歯を鳴らすのだった。

 ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)も買い物中だ。
「福袋は確保してきました。あと残り一袋だったので危ういところでしたね」
 とにかく仕事にソツがない、それがアルトリアなのである。今日も、人混みからのルーシェリアの護衛、『一人一品限り』といった商品を複数確保するための頭数、限定商品の入手、さらには荷物持ちまで、ありとあらゆる場面で活躍していた。
「あの……」
 申し訳なさそうにルーシェリアは口を開いた。するとアルトリアは怪訝な顔をした。
「どうしました? 福袋が気に入らないのであれば返品交渉して参りますが……未開封なのでできないことはないかと」
「いえ、そうではなくてぇ……あなたの服も買いませんか?」
「自分の分は最後で結構です。それも予算が余りそうな場合限定、ついでに安くて良いものがあれば……程度の認識で構いません。あくまでメインはルーシェリア殿ゆえ」
 この口調が謙遜や遠慮ではなく、間違いなく本気で語られているところがアルトリアのアルトリアらしさといえよう。
「たまには自分のことにも気を使わないとダメですっ!」
「ルーシェリア殿、お気遣いは無用です。どうぞ、大切な資金はご自分のためにお使い下さい」
 アルトリアが突っぱねるのでルーシェリアは言い方を変えることにした。
「ご自分のため、というのなら、それこそ着飾って下さい。あなたが着飾ってくれるのが私の喜びなんです。せっかく……」と、彼女はアルトリアの頬に触れて、「せっかく、こんなに地がいいのですから、たまには良い服を着て輝きましょうよ。ね?」
 ルーシェリアの触れている手が、じわ、と温かくなった。つまり、アルトリアが紅潮しているということ、彼女は照れているのだ。
「……じ、地がいいなどと勿体ないお言葉を……。自分が月であればルーシェリア殿こそ太陽です。しかしせめて、新月ではなく半月程度には……き、着飾ってみます」
「……もう、いちいち言うことが大げさなんですから〜。恥ずかしいですよぅ」
 ルーシェリアもぽっぽと頬を赤らめ、これなんかどうでしょう、とアルトリアに、彼女に似合いそうなブルーのワンピースを差し出した。
「試着してみて下さいよぅ。さっきも言いましたが、これは私のためでもあるんですぅ」
 上目づかいでおねだりするような口調になる。そして、とアルトリアを安心させるべくルーシェリアは言い加えた。
「それにバーゲン価格でいつもより安く済むんですから、お財布の方は気にしなくていいんです」
「あ……は、はい。それでは……つつしんで試着させていただきます」
 と、試着ルームに入ったアルトリアであるが、すぐに、顔から火が出たような表情で戻ってきた。
「ルーシェリア殿、着方が判りません……」
 任せて下さいっ、とルーシェリアはともに試着室に入り、手取り足取りしてアルトリアにファッションの道を始動するのであった。
 さあ今日はこの調子で、アルトリアのための服を沢山買おう。 

「ここがポートシャングリラ?」
 クレア・アルバート(くれあ・あるばーと)はポートシャングリラに到着した。送迎バスを降りて周囲を見回し、そのすさまじい広さに息を呑んでいる。
「広いねぇ……」
 クレアは目を凝らした。聞きしに勝る広大さだ。遠く地の果てまでありそうなこの場所のすべてが買い物王国だという。遠くに見える蟻のような人たちも、すぐそばで争奪戦をしている初売り目当てのバーサーカーもすべて、この世界の客なのだから驚異的としかいいようがない。クレアは圧倒されそうになるも、ふと我に返った。
「ってのんびりしてる場合じゃなかった、行くよ恭司!」
 彼女は腕を伸ばすと、同様にきょろきょろしている橘 恭司(たちばな・きょうじ)の襟首をひっつかんだのだった。
「え……っ、ちょっと待て、地図くらい調べさせ……」
 恭司は入口側の案内板で、クレアが行きたがるであろう場所と自分が行きたい場所、昼食や軽食に使う休憩場所や娯楽用の遊園地、その他もろもろの位置を調査しようとしていたのである。ところがクレアに容赦はなかった。
「そんなもん、道々人に訊けばいいのっ! ほらほらっ急いで!」
 言うなりぐいぐい、腕に力込めて歩きだしたのだ。歩くと言うより走るに近い。
「ってクレア、襟をつか……っていうか引きずって行くなぁぁぁ……!」
 恭司の悲鳴はこのとき、なんの効果も及ぼさなかった。
 小一時間ほどして、クレアはさっそく道に迷っていた。服をしこたま買いこんだまではいいが、そこから他のモールへの連結がよくわからない。
「で、どっち? 家電売り場は?」
「なんで家電売り場に……」
 引っ張られすぎて襟がびろーんと伸びた状態の恭司は膨れっ面だった。クレアは気づいていないが、この服、見栄えのするクレアと歩いていても恥ずかしくないよう、選びに選んで買った彼の一張羅なのだった。
「エスプレッソマシーンが欲しくてね」
「言っちゃ悪いがクレアがエスプレッソって柄か……少々コーヒー飲んだだけで眠れなくなるってクセに……あ痛たたたた、チタタタタ! だから襟を引っ張るなとあれほど……!」
 恭司をぐいぐい引っ張り責めしつつ、近くを歩いていた少女にクレアは声をかけた。
「すいません、そこの君、家電売り場って知らない?」
「え?」
 くるりと振り向いた黒髪の少女は、口の端に何か黒いもの(※チョコレート)をつけていた。彼女は名を、小山内南という。