天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

リアクション公開中!

ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

リアクション

「話はよく分かんなかったけど、なんだか面白かった」

 と、旅劇団☆ダークサイ座の公演は好評に終わる。

「あー、面白かったっ」

 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は、ローズたちの立ち回りを真似て、ぴょんぴょん跳ねながら劇場を出て、一緒に観劇していた向日葵の腕にぴょんとしがみつく。
 世界樹イルミンスールには、数日滞在することにしたので、各々自由に行動しているのだが、向日葵のグループが最も大きな団体行動を取っている。
 カメラマンとしてカレンとジュレール、ディレクションをする菫、永谷やグランのグループはもちろん一緒。さらにエヴァルトと歩も向日葵のサポートをしたいと思っているので、やはり離れるわけにはいかない。
 時々魔女っ子ルックの向日葵を見て、

「芸能人かしら?」

 と振りかえる人もいるほど。
 そこへ菫が、

「せっかくだから、イルミンスールの森の散策映像も欲しい」

 と提案し、もし何かあってもこのメンバーなら乗り切れるだろうと、ちょっと外に出てみることにした。

「ノーンちゃん、一人で来たの? 陽太くんは?」

 歩きながら向日葵は、ノーンの契約者影野 陽太(かげの・ようた)はいないのかと聞く。
 向日葵がまだまともにダークサイズと敵対していたころ、陽太何かと共闘していたのだが、姿を見せないのを気にしてノーンに尋ねた。

「うんとねー。おにーちゃんは、かんなちゃんのところにいるのー」
「かんなちゃんって御神楽 環菜(みかぐら・かんな)ちゃん?」
「うん。おにーちゃんってば、かんなちゃん大好きだから。だからわたしが、おにーちゃんに『れぽーたー』してあげるんだよ」

 と説明しながら、ノーンはおいしそうにおやつのバナナを食べながら、陽太へのダークサイズの状況報告メールを作っている。
 陽太は大きくなるダークサイズに警戒してノーンを派遣したのだが、ノーンはノーンで完全にこの旅を楽しんでいる。なのでその報告メールは、

『今日はさんふらわーちゃんとお芝居を観たのー。ちゃんばらがかっこよかったよ! このあいだ、初めてじんぎすかんを食べました』

 と、ただの思い出日記のようなメールになっており、とてもダークサイズの規模や内部情報を伝えているとはいえない。
 この二人の会話の様子も撮影されており、

「いいね、高感度の高い画がもらえたよ」

 と撮影チームもご満悦。

「う〜ん、これはこれでいいんだけど、演出上盛り上がりもほしいよねぇ」

 カレンと菫は、和んだ雰囲気が続く散策に、物足りなさを感じている。

「何だかんだで、おぬしたちもトラブル好きなのだな……」

 ジュレールは、彼女らがダークサイズに入り浸る理由を改めて自覚する。
 永谷、グラン、エヴァルトは向日葵の護衛としてそばにいるが、このわずかな和みの時間を楽しんでいる。
 そしてトラブルというのは、そういう油断を突いてやってくるものである。

がささささっ!!

「きゃあーっ!」
「ふにゃー!」
「サンフラワーちゃん、どうした!」

 一同が駆け付けると、ネットの罠に引っ掛かった向日葵とノーンが、3メートルほど上にぶら下がっている。

「大丈夫か!」
「たすけてぇー」
「や、やばいぜ!」
「どうしたエヴァルト」
「スカートの中が見えそうだ!」
「そこかよ!」

 とにかく向日葵たちを降ろそうと駆け寄ると、

「どわーっ!!」

 と、全員大きな落とし穴に落ちる。

「なんでこんな原始的な罠にひっかかるんじゃい……」
「軒並みドジだな、俺たち」
「あらぁ、愉しそうなことになってるわね♪」

 と、穴の上から彼らを覗き込んでいるシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)

「誰だお前!」
「何よ、失敬ね。せっかくたまたま通りかかって、助けてあげようってのいうのに」
「え、そうなの?」
「あなたたち、ダークサイズよね?」

 正確に言うと、このメンツの中のダークサイズはカレンとジュレールのみ。落とし穴の中でほとんどが首を振る。

「え、違うの?」
「当り前だ。俺達はサンフラワーさんのサポートメンバーだ」
「あたしはスポンサー」
「あ、ボクはダークサイズだよ」
「何だかややこしいわねぇ。まあいいわ。ツカサ、あの子だけ助けてあげて」

 シオンは、契約者である月詠 司(つくよみ・つかさ)をあごで使って、カレンとジュレールだけ助けるよう指示を出す。

「おいおい、全員助けろよ」
「嫌よ。ワタシ、ダークサイズに入りに来たんだから。敵なんて助けたら、入れてもらえないでしょ♪」
「じゃあシオンくん、この人たちどうするんです?」

 カレンを引き上げながら、司がシオンに聞く。
 シオンは人差し指を口に当てて考え、

「う〜ん、めんどくさいから埋めちゃう?」
「うおい!!」
「カレンちゃん、いいから降ろしてよ〜」

 上から向日葵が声をかけるのを、

「はーっはっはっは! ダークサイズの力を見たか!」

 と、カレンは面白がって胸を張る。

「お前ふざけてないで、何とかしろ!」
「いや、そんなことより!」
「どうしたエヴァルト」
「スカートの中が見えてるぞ!」
「あら、変なとこ見ないでよ♪」
「ちゃんと隠せと言ってるんだっ!」


☆★☆★☆


「ねえヒラニィちゃん、一回ザンスカールまで行ったのに、どうしてわざわざここまで戻ってくるの?」

 イルミンスールの森の中を歩きながら、琳 鳳明(りん・ほうめい)南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)を振り返る。

「仕方あるまい。待ち合わせ場所の変更連絡があったのだからな」
「待ち合わせ? 誰と?」
「ここまで来たなら教えてやってもよかろう。魔女っ子サンフラワーちゃんこと、秋野向日葵だ」
「え? 向日葵さん? どうして?」
「ふっふふふ。鳳明よ、感謝せい。お主のために『冒険屋』に入った仕事を取って来てやったのだぞ!」
「ええっ、し、仕事ぉ!?」
「寮でダラダラするよりよっぽどよかろう。秋野向日葵をサポートし、エリュシオンへ行くのだ」
「ええええー! 遠いよー! ていうか、一か月ぶりの休みなんですけどー! 何でせっかくの休みを潰すのよー!」

 ようやく仕事がひと段落し、たまの休みを満喫したかった鳳明は、驚きと怒りで手をバタバタさせる。

「どうせ金がないとか言って自堕落な生活をするだけであろう。大物を目指すためにも、休みなく働き続けるのだ。いたたたた、何をする!」
「私の休みを返せっ! この、このっ!」

 鳳明はヒラニィに後ろから飛びつき、腕の関節を砕かんばかりに締めあげる。
 ヒラニィは悲鳴を上げながら、遠目に何かを見つける。

「お、おい鳳明見よ、あれは秋野向日葵ではないか?」
「え? あ、ホントだ。ていうか、あれ捕まってない? 大変!」

 二人は急いで吊り下がる向日葵の元へ駆け出す。
 到着すると、シオンとカレンが向日葵たちを罠に嵌めたようにしか見えない画。

「こらー! 向日葵さんを離しなさい!」
「むっ、お主ら。依頼書にあったダークサイズとやらだな?」
(しまった。おふざけがすぎたかな……)

 と、カレンは、

「確かにダークサイズだけど、罠に嵌めたのはこの子だから」

 と言って、シオンを指さす。
 シオンはどきりとして、

「あら、違うわ。私はあくまで助けようとしただけ。罠はツカサが独断で張ったのよ♪」

 と、目立ってダークサイズ入りをするために作ったシナリオの責任を、司に押し付ける。

(ああー……やっぱりねー)

 司は予想通りの展開に、諦め顔。

「行け鳳明! 向日葵を助け出すのだ!」

 ヒラニィは鳳明を、シオンと戦わせようとする。

「おーい、こんなところで何やってんのー? 僕置いてったらカメラのバッテリー切れちゃうよー」

 そこに、戻ってこない向日葵たちを心配して、発電機を背負った超人ハッチャンがやってくる。

(ば、バケモノー!!)

 鳳明やヒラニィは騒然とするが、総帥ハッチャンのなれの果てと知って、

(ダークサイズってどうなってんの……)

 と、戦意を喪失する。
 とはいえ、ダークサイズのナンバー2が来てくれたことで、状況は落ち着きシオン達の話も聞いて、向日葵たちは解放される。
 この小さな罠に嵌った向日葵たちの擦り傷を、パラケルスス・ボムバストゥス(ぱらけるすす・ぼむばすとぅす)が診てあげることにするが、
 エヴァルトが、彼のどことなくいやらしい触診の仕方に文句をつける。

「おいおまえ、サンフラワーさんに変な触り方をするな」
「おいおい、せっかくボランティアで診てやってんだぜ?」

 パラケルススはエヴァルトに答える。それを見て永谷が、

「じゃあ俺の傷も見てくれ」
「ふざけんな。触診は女限定だ」
「……」

 パラケルススの返答に、つい黙りこくってしまう永谷。
 エヴァルトが、ハッと気づく。

「あ、そういえばおまえ……」
「……何も言うな、エヴァルト……」

 永谷が世界樹に戻っていくのを、エヴァルトはそっとしておくことにした。
 擦り傷をいつまでもさすられて、向日葵はさすがに、

「あの、もういいよ」
「そうはいかねぇ。バイ菌が入ったら大変だろ?」
「でもさすってるだけじゃん……」

 その様子を見たグランが寄って来る。

「おいおぬし。世界樹には巨乳とちっぱいの姉妹がおるぞ」
「えっ、まじか! そりゃあ健康診断してあげなきゃなぁ」

 パラケルススの嗜好を見抜いた年長のグラン。
 それとなく向日葵を解放させた。