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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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第18章 ドタバタ劇場?・・・いえ密会です

「この辺りだと思ったんだが」
 大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)は十天君と食事会をしようと、パートナーたちと共にちょうどいいところがないか町中を探し歩く。
「―・・・ここみたいだな。写真と違うがまぁいいだろう」
 ガイドブックを手に予約しておいた会員制料亭がある場所を探し、他の者に話を聞かれてしまわないように、個室がある場所を選んだ。
「お食事会するの・・・?」
 東郷 新兵衛(とうごう・しんべえ)と手をつないで歩く斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)が聞く。
「あぁそうだ。今から連れてくる、先に入って待っていてくれ」
 中で待っているように言い、鍬次郎は十天君たちと連絡を取り迎えに行く。
「ずいぶんと可愛らしいところですね。真ん中にある陶器の置物も素敵ですっ」
 木造のドアを開けて入ると、テーブルの真ん中にフルートを吹いている陶器の人形が置かれている。
「テーブルの上に屋根がありますね。鍬次郎さん・・・本当にここを選んだのでしょうか?」
 メリーゴーランドのような屋根を目を丸くして見上げる。
 彼がチョイスしたにしては少し妙だと思いながらも、天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)はメルヘンな空間を楽しむ。
「もしかして店を間違えたんじゃないですか?個室ですからここでも十分、お話は出来ると思いますけど。なんだがこの場所だと、真面目な話に水を注してしまうような気がします・・・。僕、やっぱり鍬次郎さんに連絡しますね」
 こんな子供向けの場所に十天君を連れてきたら、彼女たちが怒って帰ってしまうのではと鍬次郎に連絡しようとする。
「私、ここがいい。葛葉ちゃん、鍬次郎に連絡しちゃイヤなの」
 屋根についてるブランコの椅子にハツネが座る。
「え・・・でも、あぁ!新兵衛さん、何をするんですか!?」
「お嬢は・・・、ここがいいと言っている・・・」
 店を変更されてないように新兵衛が葛葉の携帯を取り上げる。
 そとは知らず鍬次郎の方は、十天君と広場で合流している。
「約束は守ってくれただろうな?」
「えぇ、もちろん♪王天君様〜こちらですよぉ〜」
 ニコッと微笑むと趙天君が王天君を手招きをする。
「オレ様に会いたいといってた協力者ってこの者か?」
「そうですよぉ〜」
「ふぅん、なかなかいい面構えじゃないか」
 十天君のリーダーの女は一見、少年のような小柄な風体だ。
「ちょうど昼時だな、こっちだ」
 時計を見上げると時刻はちょうど12時になり、鍬次郎は2人を料亭へ案内する。
「おい、連れてきたぞ。―・・・・・・・・・っ!!?」
 メルヘンチックな室内に入った鍬次郎が、石化してしまったように一瞬固まった。
「すまない、部屋を間違えたようだ」
 見なかったことにしようとバタンとドアを閉める。
「(おかしいぞ、確かに落ち着いたバーのような雰囲気の店だったはずだが)」
 慌ててガイドブックを捲り場所を確認する。
「確かにここのはずだ。なんだ、この写真に写っている建物は詐欺か!?おい、そこのやつ。この写真に写っているのはここじゃないのか?」
 店内にいる店員に聞こうとそのページを見せる。
「あぁ、これは隣にあるお店ですよ」
「な、何だと!?―・・・く、間違えたようだな」
 ページを見てみると、行くはずの店はこの隣だった。
 写真に入り込んでいるこの店は、不幸なことに姉妹店だっため間違えてしまったようだ。
「悪いがこんな場所じゃ、落ち着いて話せそうにない。場所を変えよう」
「―・・・ここでも十分、・・・話は出来る」
 店を変更してハツネの気分を損ねないように、ドアの隙間から新兵衛が顔を覗かせる。
「個室には・・・、変わりない・・・」
「そこに行く予定だったんですか?とりあえず空いてるか、連絡してみたらどうでしょうか」
 傍らから葛葉がガイドブックを覗き込む。
「そうだな。―・・・・・・ちっ、数秒前に満席になってしまったらしい」
「ならば・・・ここしかないな・・・。それにここも・・・、・・・会員制料亭には違いない」
 新兵衛はほっと息をつき、ハツネの傍に戻る。
「好きなものを頼んでくれ。支払いは俺がするからな」
 まずは何か注文しようと鍬次郎は十天君たちにメニューを渡す。
「じゃあ、上から全部な」
「きゃはは王天君様、大胆すぎます〜。まずは2品にしましょう?」
 さすがにそんなに頼ませるわけにはいかないと、趙天君が数品にしようと王天君に言う。
「う〜ん、そうか?だったらこれと、これな」
「あたいもそれにしますね〜♪」
「お嬢は・・・?」
 自分たちも決めようと新兵衛がハツネにメニューを見せる。
「えっとね、ここからここまでのデザートが食べたいの」
「いけません・・・、そんなに食べてしまうと・・・お腹を壊します・・・」
「イヤッ!食べたいのっ」
「―・・・全部は・・・無理です。では・・・自分が1つ頼みます・・・。お嬢が・・・選んでください・・・・・・」
「むぅっ。じゃあケーキ2種類と、新兵衛はこのタルトにしてほしいの」
「分かりました・・・お嬢・・・」
 新兵衛はハツネがメニューを指差しているところを確認しながら、注文シートに料理の番号を書き込む。
「酒はいいのか?」
「そうですねぇ、ブラートアプフェルにします」
 飲み物はいらないのかと鍬次郎に言われ、趙天君はメニューを開いて選ぶ。
「じゃあ店員さんを呼びますよ?」
 やっと頼むものが決まり、葛葉はドアを開けて呼び鈴を鳴らす。
「これ、お願いしますね」
「かしこまりました」
 ウェイトレスは軽くお辞儀をすると、注文用紙を持って部屋を出て行った。
「―・・・つまらない」
 まだ数分しか経っていないにも関わらず、ハツネは不満そうな顔をする。
「・・・お嬢が・・・苛立っている。・・・これはいけない・・・」
 テーブルの人形を手に取った新兵衛が少女の機嫌を直そうとする。
「お嬢・・・落ち着いてください」
「これ、壊してもいい?」
「あぁっ、待ってください!―・・・新兵衛さん、マイセンの陶器ですよ、これ。とてもじゃないですけど、弁償しきれない額です」
 店の備品を壊そうとするハツネを見た葛葉は、慌てて新兵衛にこそっと耳打ちをする。
「ふむ・・・・・・いくらだ?」
「時に、ゼロが8つつくこともあります・・・」
「何・・・だと・・・?―・・・お嬢、人形遊びは・・・今度にしてください。自分と・・・遊びましょうか・・・」
 さすがの新兵衛もまずいと思ったのか、ハツネから人形を返してもらうと、恐る恐る声をかける。
「ィヤなのっ」
「わぁあ、やめてハツネちゃん!」
 ぽんと放り投げられた人形を葛葉がキャッチをする。
「それ返して葛葉ちゃん」
「お嬢・・・、料理がきました・・・」
「―・・・美味しそうなの」
 ちょうどお腹が空いてきたハツネは人形の存在を忘れ、運ばれてきた料理にさっそく手をつける。
 それを見た2人はほっと息をついた。
「さてと。食べながらでいい、少し話しをしようか?」
 料理を運び終えたウェイトレスが外に出て、部屋から離れていったのを確認すると、鍬次郎が話始める。
「魔科学で何をしようとしているんだ?」
「秦天君さんから聞いたと思いますが。その魔科学で魔女たちにこのパラミタの地をよくしてもらおうと考えているんです」
「ほう、本当にそれだけか?」
「フフッ、大元はそれです。今、パラミタを統治しようと考えたりする方たちが、あまりにも無謀で無知ですから。それなら私たちで住みやすい環境を作り、逆らう人たちは下僕にしてしまおうと考えているんです」
「まぁあれだ。無駄に血を流したり、つまらない争いばかりしていると、ずっとギスギスとした世界のままだろ?」
「争いなんて意志を持った生き物がいれば、いくらだって起こるものだが。あまり住みにくいのも考え物だな」
 2人の話を聞きながらククッと笑い頷く。
「ふぅ・・・、善人面したやつらが守ろうとしているモンなんてたかがしれている。今もどこかで善人面した連中同士で争っているようだしな」
 鍬次郎はグリューワインを飲み、今のパラミタの状況を小バカにしたように話す。
「あいつらが作る世界なんて、少なくとも俺はごめんだな。無闇に正義だとか振りかざしてるなんざ気にくわねぇ」
「限りある資源を大事に使うことも大切ですし?」
「確かに、それを奪い合って戦争が起きたりしますよね」
 リンゴの酒を趙天君が使っているグラスに注ぎ、葛葉がお酌をする。
「魔科学で食材を増やすことも可能になるでしょうから、不作で物が高騰したりすることもなくなりますよぉ」
「それと不老不死ですか?」
「えぇそうです。不老不死を否定する方がいるみたいですが、否定する意味が分からないですね」
「皆が不死になれば・・・失う痛さも苦しさも・・・感じずにすみますよね!僕・・・そのためなら、この体を使ってでも、その研究を完成させてください!
 検体になってもいいと自ら十天君の2人に志願する。
「そうですねぇ。よろしいですか、王天君さま?」
「あぁ、オレ様は構わないぞ」
「ありがとうございます!!」
 許可をもらった彼女は嬉しそうにお礼を言う。
「葛葉さんみたいな考えの者たちがたくさんいるといいんですけどね。だってそうでしょう?完璧な不死こそ、人々が追い求めていた理想ですし」
「理想の世界を作ってどうする気だ?」
「愚問だな。住みやすい場所が手に入れば、自由に研究が出来るじゃないか。まぁ抵抗しようとする者がいなくなれば、それはそれでいい。だが、少なからずよく思わないやつがいるだろうな」
 問いかける鍬次郎にお酌をしてもらい、王天君はいっきに酒を飲み干す。
「それを粛清する必要があるんだ。こうやってなっ」
 子牛のステーキにフォークをドスッと乱暴に刺し、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ひぃっ!?」
 驚いた葛葉が思わず悲鳴を上げる。
「オレ様たちは無闇に殺しはしない。だが、生きたままそれ以上の苦しみと絶望を味あわせてやるだけだ。その方がいうことを利かせやすいだろ?クククッ」
「そのための仕置き人も必要となってくる、というわけです♪」
 趙天君も愉快そうにきゃははっと笑う。
「1人を袋叩きにするようなやつらだからな。向こうがそうくるなら、それくらいは仕方のないことだということだな?」
 ステーキをナイフでスゥッと切りニヤつく。
「そういうことになりますね♪」
「今更、裏切ろうと思わねぇし、契約を破棄されねェ限りは俺達はあんた等の味方だ」
「仮初の町にある城で魔女が渡した手紙をもらったよな?それにオレ様がいる場所が書かれているから、いつでも来い」
「そうか。この通り、今日は出かけるだけの予定だったからな。少し準備をしてからそっちに行かせてもらう」
 やっと信頼してもらった様子で鍬次郎たちはオレ様がいるところへ来いと王天君に招待された。
 城で魔女から受け取った刀も今日は持ってきていないからだ。
「出来ればあまり敵前に向かっていくのは遠慮してくれないか?さすがに守ろうにも、守れないことがあるからな」
「あぁ、分かった」
「んん〜退屈すぎなのっ」
 じっとしているのに耐え切れなくなったハツネが、またもや駄々をこねてケーキを分解し、ナイフで壊し始めた。
「―・・・お嬢、ブランコで遊びましょう・・・」
 椅子代わりのブランコを新兵衛が揺らしてやる。
「何だ〜ハツネ。ご機嫌斜めになったのか?」
 王天君がぐずる少女の隣に移動して座る。
「それよりも、ハツネ。あの裏切り者の鎌鼬を始末したんだってな?えらいぞー♪」
「褒めてくれるの・・・?」
「そうだ、このオレ様が褒めてあげているんだ」
「嬉しい・・・」
 いい子いい子と頭を撫でらたハツネが嬉しそうにニタッと笑う。
「子供・・・好きなのか?」
「ん、まぁ好きなほうだな。もちろん、変な意味じゃないぞ?」
 新兵衛に聞かれ、へらっと笑って答える。
「ふむ・・・」
 “褒めてあげている”という上から目線な物言いが気に入らないが、それでも今は喜ぶお嬢のために我慢する。
「―・・・小さいな、・・・王天君」
「何だそりゃ、人格的っていう意味か?こらっ」
「いや・・・、子供・・・なのか?」
 彼の爆弾発言に周囲の空気が凍てつく。
 挙句の果てによしよしと、幼く見える小柄な女の頭を撫でる。
「―・・・くっ。ふぅ・・・今は我慢しておいてやるっ」
 王天君がグラスの酒を飲んで気を静めようとすると、ぱっと手から取られてしまう。
「酒はいけない・・・こっちを・・・」
「なっ!?お前・・・オレ様は子供じゃないぞっ」
 ノンルコールを勧められ、キレそうになる。
「くすっ、王天君様。可愛いです♪」
 新兵衛に抱き締められ埋もれている彼女を見て、趙天君がクスリと笑った。