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第5章 チョコ作りに挑戦

「フェスティバルってだけあって、種類も豊富ね……」
 アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)は、チョコレートを作るための材料と道具を買いに、空京へ来ていた。
「うーん、来る場所間違えたかな」
 店を回りながら、アルメリアは眉を寄せてしまう。
 というのも、アルメリアはこれまで、手作りチョコを作ったことがないのだ。
 でも今年は……。
 そんな気分になった。というか、想い人に手作りをしてあげたくなって。
 意を決して、一人で空京を訪れたのだった。
 せめて、知り合いでもいれば、相談できるのだけれど、辺りを見回しても知り合いの姿はない。
「仕方ない、店員さんに聞いてみよ! お菓子屋さん……は、既にできているお菓子を勧められそうだから、雑貨とか売っている店かしら」
 アルメリアは迷った末に、フェスティバル加盟店の、総合雑貨店に入ってみる。
「んーと……あった!」
 店の中をきょろきょろ見回して、バレンタイン特設コーナーを発見。
「すみません。あの……手作りチョコを作ってみたいんですけれど、どんな道具が必要でしょうか」
「一般的な調理道具で十分ですよ。あとは、トッピングやラッピングを凝ってみるといいかもしれません」
 店員の女性は、アルメリアが初めてということもあり、難しいチョコレート作りを勧めることはなかった。
 代わりに初心者向けの本や、材料について、丁寧に教えてくれた。
「なるほど、手作りっていっても、溶かして固めるだけなのね。味も今回はあまり余計なことしない方が良さそうかな……。って、そもそもチョコとか甘いものが好きかどうかも聞いてないし」
 考えながら、アルメリアは頭を抱えたくなる。
 かといって、今から電話で聞いたら、あげることバレバレだ!
「ビターとかにした方がいいかな……? それより、受け取ってもらえるのかしら」
 彼の姿を思い浮かべ、思わず大きなため息をついてしまう。
 もし受け取ってもらえなかったりしたら……。
 拒否された時のことを考え、心が沈んでしまう。
 今の関係さえも、終わってしまうかもしれないと。
「どこにでも売っている、市販のチョコなら……」
 多分、受け取ってもらえるだろう。
 遠慮されても、他の人にもあげたからっていえば、負担に思うこともないだろうし。
「……って、こんなこと考えるなんてワタシらしくないわね」
 アルメリアは深呼吸する。心の中のもやを追い出すように。
「とりあえず色々作ってみましょ、考えるのはそれからでも遅くないわよね、うん」
 笑顔をつくって不安を吹き飛ばしながら、ビターにミルクにホワイト。イチゴにメロンチョコレートなども選んでいく。
「アーモンドチョコって美味しいわよね。ピーナッツも……。果実系なんかもいいし。形はやっぱり……は、ハートかな」
 買い物籠の中には、既に数十人分ほどの材料が入っている。
「ほとんど自分で食べることになったりして……」
 でも、1つだけは。一番成功したチョコレートだけは、想い人にあげたい。受け取ってほしいと、想いながら、材料を揃えていくのだった。

 気づけば、外は真っ暗だった。
 彼は今日、何をして過ごしたのだろうか……。誰と過ごしたのだろうか。
 そんなことを考えながら、アルメリアは大きな袋を抱えて帰路についた。