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マレーナさんと僕(2回目/全3回)

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マレーナさんと僕(2回目/全3回)

リアクション

11.お散歩の時間

 下宿生の中には、夜露死苦荘ばかりでなく、もちろん外出する者達もいる。
 店に行くことは、パラ実生達にとっては「分校」に行く行為だ。
 そういった次第で、学校に行くのであるから、オーナーのガードは自然と甘くなる。
 
 もちろん、噂を信じてボウッとしなければ、の話であるが。

 ■
 
「皐月共々、宜しくお願いします」

 そう言って、管理人室を訪れたのは、雨宮 七日(あめみや・なのか)
 彼女は本日が初入居である。
 アンデッド三人――レイス、チョコレートアンデッド、ゴーストのヤマダさんを伴い、丁寧に一礼してから。
「申し訳ございませんね。
 私というものがありながら、あのような……『のぞき』など……」
「は? のぞき?」
 マレーナは目を瞬かせる。
「いえ、私のどうしようもない契約者のことです。
 日比谷 皐月」
 そう言って、雨宮 七日は先程部屋でシメたばかりの少年の名を告げたのだった。
「部屋……そうですね?
 出来れば、皐月と一緒がいいかしら?
 腕の事もありますし……」
 では、と隣りの執務室に足を運ぶ。
 
 その頃。
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)はキヨシを誘って、汚亜死栖の町に連れ出していた。
 げっそりとしている7割は七日にシメられたから。
 残りの3割は、血が足りなくて体力が戻らないから。
「だ、大丈夫か? 皐月」
 時折、キヨシは皐月に肩を貸す。
 のぞきの件で、キヨシは良くも悪くも皐月は「同志」のような気がしている。
「わりぃ」
 片手を上げたつもりが、その手はない。
 根元からバッサリと。
 仕方なく皐月は気弱に頷くと、キヨシに体を預けるのだった。
「すまない、気晴らししてやるはずだったのにさ」
「いいさ、あの部屋にこもっているよりは、ずっと気分がいいよ」
 実際。
 キヨシの部屋は朱美と繋がっていて、プライベートもなければ、勉強も一向にはかどらない。
(これは……噂がなくとも、やる気が失せて、管理人室行きかもなぁ)
 ぼんやりとマレーナさんの白い肌を想う。
(い、いや、そんな意味じゃなくてだなぁ……)
 ふるふると首を振って、赤くなる。
「なんだぁ? オレと歩くのがそんなに恥ずかしいのか?」
 皐月が首を傾げたのは言うまでもない。
 
 傷を癒したいから町へ行こう。
 そう皐月がキヨシを誘ったのは、つい先刻のこと。
 ただ町の風に当たりたいのだ、と。
 
「それで、キヨシは本当は何がしたいんだ?」
 あまり笑わずに、蒼白な顔のままの皐月が尋ねる。
 そんな皐月は、のぞきの時とはまるで別人のようで……だけど、キヨシは答えなくちゃと考えていた。
 賢くなくとも、キヨシにだって!
 皐月が何だか自分を心配していることくらい、ちゃんと分かっている。
「マレーナさんと付き合いたいのか、空大に合格したいのか、他に何かやりたい事は無いのか……?」
「1番に、どれがしたいのかって事かい?
 ……そんなの僕にもよくは分からないんだ!」
 本当の話だけに、ややキヨシはいらだつ。
「マレーナさんとは付き合いたいさ!
 運命だと思うし、何だか気になるしさ。
 空大合格は、できなくちゃ、僕は地球に帰ることが出来ない。
 一生懸命に応援してくれている兄さんにも、顔向けできないしね。
 あと、他にやりたいこと……やりたいことねぇ……」
 
 元百合園だと言っていた、清純そうな女の子が思い浮かぶ。
 あと、3階に住む少女も。
 隣りの部屋とくっつけてしまった、強引な女の子のことも。
 ついでに、七日の綺麗だがキツそうな笑みも、気にはなる。
 
 要するにキヨシは、あれやこれやと気が多い。
 
(聞かなきゃよかった……)
 皐月は一層げんなりとして、されど忠告だけは告げておくのだった。
「はっきりさせないまま進むと、結局後悔しか残らねーんだよ。
 ……まぁ、答えが見つかるまでは、付き合うさ」
「皐月……お前って、いい奴なんだな」
 キヨシは尊敬の目を向ける。
「じゃ、言おうかな?」
 キヨシは真剣な顔つきになる。
「僕、マレーナさんの喜ぶ顔が見たいんだ!
 そのためならば、他は何にも要らない」
「キヨシ?」
「だから、僕以上に守れる奴がいたら!
 その時は……諦める。彼女の幸な顔を見られる方がいいからさ」
 へへへ、と鼻っ柱をさする。
「なんだ、あるじゃねーか、1番」
 皐月はキヨシの頭を小突く。
「その気持ち、大事にしろよ!
 そして、彼女を決して諦めるんじゃねーよ!」
 
 キヨシは一瞬目をぱちくりとさせたが。
 結局は素直に頷くのであった。
 
「うん、皐月。
 そうだと、いいな……そうだね」
 
 ■
 
 吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)に言われるまま、暇だったので付き合うことにした。
 
 曰く。
 
「水を制するものはパラミタを制すのですぞ」

「んじゃ、まずは人でも集めるか……」
 オレ、一応【D級四天王】だしよォ。
 「汚亜死栖」で求人募集をする。
 取りあえず、他の求人広告を眺めて、こんなもんだろうという日当を割り出した。
「でもよォ。
 “X”の町だろ?
 “X”って誰だ?」
 実のところ、前回捜し当てた信長以外は、誰も情報を流してないので、“X”が誰なのかは下宿生達は知らない。
 あたりをつけて探す、等の事も行わなかった為、竜司には見当もつかない。
「お墨付き、か。どいつからもらえばいいんだ?」
 分からない彼は、そのまま手当たり次第に力が有り余ってそうな者達を誘う。
「『荷物を運んで詰め替えるだけの簡単な仕事』だぜェ。
 やらねぇか?」
 日当を提示する。
「でも、お墨付きねぇんだろ?
 無くて働くなんて、あぶねぇ橋はなぁ……」
 案の定、誰もがやりたがらない。
 だが、それでも金が欲しい3名の生活苦な町民が集まって、人員は確保できた。
「そのかわり、命の保証をしてくれよォ。
 あんた【D級四天王】だっていうから、ついていくんだからな!」
「わかったぜェ。
 なぁに、悪いようにはしねぇさ」
 そうして町の池から水をくんで……だがそのままで入れない。
「アインから言われたからなァ」
 泥の入らないように上の方の水だけ汲ませ、砂利でろ過させる
 沸騰消毒して、雑菌を除去する。
 その湯を冷ましてから、ペットボトルに次々と入れるのだった。
 適者生存と幸せの歌を飴と鞭のように使い分けて、必死に働かせる。
 だが、所詮は3名と少数なので、両手で抱えられる程度の本数しか出来あがらなかった。
「ま、いっか。
 後はアインの奴に任せよう!」
 そうして、町民達に対しては「命の保証」をするために、夜露死苦荘へ勧誘するのであった。
「家賃無料で住み心地のいいトコだぜェ」
 ……お受験マシーン予備軍が増えたことは、言うまでもない。
 
 一方で、アインは荘内での地位を確立すべく、真面目に頭脳を働かせる。
 竜司達が持ってきたペットボトルに、ネットから無断で「パルメーラ・アガスティア」の画像を印刷して貼り付けると、その足で荒野に発つ。
「よし、みつけますぞ!
 自動販売機!」
 自販機の水より少し安い値段で売れば、受験生からの信頼を得られるだろう。
 そう計算したのだ。
 一本一本に、カレー粉と自称小麦粉を混ぜる。
「『絶対合格間違いなし! パルメーラの美味しいカレー水』!
 うむ、売り文句はこれにしますかな?」
 
 そうしてトレジャーセンス見つけた自販機の隣で、カレー水を売るのであった。
 
 果たして、カレー水はアインの思惑通りとなった。
 その数はあまりに少ないため、噂を聞きつけて購入出来た下宿生達の数も少ない。
 だが、噂に踊らされてやる気の出た、ごく少数の学生達からの支持を得ることに、アインは成功する。
「ま、これは野望の第一歩ですな。
 1本、信長殿に献上するとしますかな?」
 
 彼の野望の階段は、次回も続く――。