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マレーナさんと僕(2回目/全3回)

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マレーナさんと僕(2回目/全3回)

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8.増改築をしよう その2

 夜露死苦荘の増改築といえば。
 オーナー・織田信長により、ラピス・ラズリが増改築総監督に任じられたことは記憶に新しい。
 
 それでは、彼の手による数々の功績の結果。
 
 ■
 
 そのラピス・ラズリ(らぴす・らずり)増改築総監督は、管理人室のコタツでまったりとくつろいでいた。
 差し向いに、キヨシ。
 両隣りに立川 るる(たちかわ・るる)と、マレーナ。
 足下に、立川 ミケ(たちかわ・みけ)。コタツの中の一番温かな個所を陣取っている。
「なー、なー、なー」
「あたしのコタツ、あったかいでしょ? だって」
 ふふふ、とるるはミケの言葉を翻訳した。
 そう、マレーナのコタツは、ミケが持ち込んだものだ。
「なー、なー、なー」
「だって、ミカンと共に寛ぎたかったのよ? だって。
 看板猫としては」
「看板猫だって? 君がかい?」
 キヨシは意地悪そうにコタツの中をのぞく。
 ミケはチラッと片目で見ると、アリスびーむを放つ。
 ぐおっと、キヨシは思わず両目を押さえて、苦悶するのであった。
 
「それで、ラピスさんは、どんな下宿をおつくりになるつもりですの?」
 上品に尋ねたのは、マレーナ。
 やはり、コタツは良いものですわね? と呟きつつ。
「その前に。
 前回までの見取り図を取りだすね?」
 えっへん、と胸を張って、ラピスはこたつの上に見取り図を広げた。
 
 その間に、るるは立ちあがる。
 
「るるさん、どこに行くの?」
「うん、チョット。
 ほら、家庭の成績上がったからね!」
 良雄くんには内緒だよ?
 なぜか念を押して、るるはひとり台所へと急ぐのであった。
「家庭の成績? 良雄くん……て、まさか御人 良雄(おひと・よしお)!?」
 そーいえば、彼の恋人の名が、「るる」という名だったような……。
 そこまで考えて呆けていると、るるはトドメの台詞をキヨシに告げる。
「違うよぉ、良雄くんは友達だから!」
「はぁ……」
 何だか凄い女の子と知り合いになってしまったようだ。
「友達だからね? キヨシさん」
 頭上から、るるが念を押す。
 めっと、ふくれっ面。
(やっぱ。
 かわいすぎるっすよ。
 るるさん〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!)
 可愛ければ、この際良雄もドージェもどうでもいいや、と思うキヨシなのであった。
 
 るるを台所に見送って、一同は本題に戻った。
 
「お風呂は、要修理なんだよね……」
「うんうん」
 ラピスの言に、一同は頷く。
「ウォータースライダーとかあると楽しそうだなぁ」
「は? スライダー?」
 目が点になるキヨシ達を尻目に、ラピスはメモ。
「お水は貴重だから、水道からは代わりにジュースを……。
 ……と、ここに罠もかな?」
 うん、と頷いて。
 稚拙な絵を間取りに書き込む。
「げぇ、水道に、ジュース?
 どんな下宿だよ! それって」
 しかも、罠って。
 何のために作るんだ! とか思う。
 だがラピスは「うん我ながら、天才!」と自画自賛すると、その足で廊下に出て行った。
「これを担当の人たちにも連絡しないとね。
 作業が終わったら実際の間取りとか図面を渡してもらって管理するよ。
 他にも、自室を改造する人もいるかもしれないし、一室ずつまわって確かめよう」
「僕の部屋は一生来なくていいからな!」
 とかいいつつ、無駄なんだろうな、とキヨシは嘆息した。
 なにせ――。
 ラピス達の部屋に続く3階への階段は、キヨシの部屋にある。
 
 キヨシが絶望的な眼差しを天井に向けていると。
 ラピスと入れ替わるようにして、るるが入ってきた。
 手には、何やらスパイシーな香りのする物体がある。
 見た目、それはごうふつーなカレーに見えるのだが。
「こ、これは! るるさん」
「うん、カレーだよ!
 石油肉のカレー、知らない?」
 それは、るるさん……。
 裏の意味を知っていて、自分に食わせようとしているのだろうか?
 キヨシは涙目になったが、そのカレーを食べて、更に涙目になるのだ。
 るるが、心配そうにのぞきこんでくる。
「どーお?
 おいしい?」
「う、うん、とっても……」

 不味い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!
 
 ……と叫びたかったのだが。
 キヨシは言えなかった。
 彼にとって、可愛い女の子の手料理は、宝石よりも貴重なものなので。
(それに、美味しくないのは、石油肉の所為だもんなぁ)
 石油肉でさえなければなぇ、とは思うのだが。
 結局、キヨシは黙々と平らげてしまった。
「よかった!
 これで良雄くんにも食べさせてあげられるよね?」
 るるは満面の笑みをたたえて喜ぶ。
 きれいに平らげた皿を取って、再び台所に行こうとした。
 と、その時キヨシのシャツに目がとまったようだ。
「あれ? シャツのボタン取れかけてるよ。
 るるが付けてあげる!」
 ソーイングセットを取り出す。
 シャツを脱がせて、とれかけたボタンを手際よく処理した。
(女の子って、良いなぁ……)
 げっそりとした表情で、キヨシはそれでもるるの手つきにデレデレとするのであった。
 
 その頃。
 一見穏やかに見えるコタツの中では、目に見えないバトルが繰り広げられていた。

「なーなーなー!
(翻訳:あなた! なによ!)」
「…………っ!!
(翻訳:お前こそ! 俺の方が先住者だぞ! ふざけんな!)」

 コタツに、前回「暫定・看板ぺンギン」となった緋雨のパラミタペンギン・ドージェが侵入してきたのだった。
 
「なー、なー、なー!
(翻訳:ふざけないでよ! あなたなんか、こうしてあげるわ!
 あたしの輝く瞳で瞬殺よっ!)」
 アリスびーむを放つ。
「…………っ!!!!!
(翻訳:何のこれしき! ドージェの名にかけて!)」
 ドージェは両目を押さえつつ、フラフラと隅による。
「あらあら、何ですの?
 2人とも」
 コタツの中を、こっそりとマレーナがのぞき見る。
(マレーナもお願い。
 あなたが留守の時は責任持ってこの管理人室を守るわ)
 ミケは愛らしい瞳で、マレーナに訴えかける。
(それにここだと、美味しいものにもたくさんありつけそうよね。
 るるちゃんもラピスくんも、最近あたしのゴハン忘れがちなんだもの……。
 ヘタに部屋を割り当てられるより、あたしはここに居座るわ!)
「そうですの?
 では昼の間でしたら、お好きなだけいて下さって、結構ですわ。
 ドージェ様も」
 
 ミケとドージェの「看板ペット」争いは、エスカレートして行く――。
 
「そうだ! キヨシさん!!」
 ふと思いついたようにるるが言った。
「キヨシさん、空大目指しているんだよね?
 なら、星九尾(ほしくび)講座ってのもうけてみたら、どうかな?」
「星九尾? 干し首じゃなくて?」
 キヨシは首を傾げる。
 そんな講座あったかな? と。
 うん、とるるは力強く頷いて。
「九尾(くび)って、狐でしょ?
 流れ星の正体は狐だって説話があるんだよ。
 キヨシさんも行ってみたら、お願いごと叶うかもよ?」
「そ、そうっすか?」

 ……そうして、るるに連れていかれた「干し首講座」で、キヨシは「お受験マシーン」と化すのであった。
 
 ■
 
 5人が管理人室でくつろいでいる(?)、同じ頃。
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は、携帯基地局の設営に力を注いでいた。
 彼に力を貸すのは、町(汚亜死栖)の業者、それとパートナーの猫井 又吉(ねこい・またきち)
「落ちた 落ちたぞ どーなってんだ?
 あの自称カリスマエリートに従って、真面目にベンキョーしたんだぞ。
 それなのに、模試に落ちるとか、どーなってんだ?」
 完全にパニックに陥っているのは、模試の結果がキヨシと同じだったから。
「駄目だ!
 気持ちを切り替えねーと、ベンキョーに集中できねぇ!」
 そうした次第で、又吉は設営に協力することとなった。
「体動かせば、すっきりして、気分転換も図れるってさ!
 手伝ってやるぜ! 武尊」
「おう! 助かるぜ! 又吉」

 そうして、工事は急ピッチで進んでいくのであった。
 一番の理由は、信長のお墨付きがあること。
 そして、何よりも、彼が【S級四天王】である上に、「元オーナー“X”」であるという事実。
「かの方は、汚亜死栖の実力者だからな」
 噂は本当だったようだ。
 業者の下には、彼を慕って、町の者たちが大勢つめかけた。
「X様の為であれば、なんだってしてやるぜぇ!」
「いくぜ! 野郎共!」
 そうして、瞬く間の間に、「立派な携帯基地局」がつくられていくのであった。給料も気前よく払ってもらえるとなれば、尚更だ。
 ただし仕上げにパラボラアンテナ(中華鍋)の調節をするのは、又吉の仕事だった。
「まぁ、この辺りじゃ、高度な知識持った輩もいないしな。
『テクノコンピューター』があれば、何とかなるだろ!」
 情報通信により、四苦八苦しながらも、調節を行う。
 
 そうして出来あがった局を見て、武尊は自分の選択は間違っていなかったと、あらためて思うのであった。
「受験生には、出来る限り勉強に集中してもらいたいんだよ。
 そのための環境を整えるのは、オレや右府様の仕事だと思うしよ」
 実際、この辺りはパートナー通信以外はまともにできない環境であった。
 そうした次第で、彼の功績は、今回情報が欲しい下宿生達には最も感謝されたようだ。
 
「これで、インターネットの利用も可能なったしさ!」
「最新の受験事情を知るために、わざわざ大都市まで時間をかけていく必要もなくなったぜ!」
 
 ありがとう! 有形無形の感謝が武尊に注がれる。
 オーナーでなくとも、彼への下宿生達からの信頼は、いっそう厚くなったようだ。
 
「おっと! 忘れるところだった。
 ついでに女性専用トイレも設置しなくっちゃだな!」
 
 だが、それについてはマレーナと女子達から、待ったがかかった。
 曰く――。

「女の子はね、要望が多いものですわ。
 ウォシュレットが欲しいとか。
 軽く化粧の出来る場所も欲しいとか」
 要するに要望が多いようだ。
「まずは意見をまとめて。
 右府様から許可をもらって。
 次回に設置かな?」
「それが、良い方法だと思いますわ」
 
 そうして、噂を聞きつけた下宿の女学生たちは、復旧したネット環境下で、トイレのカタログを見つつ、心待ちにするのであった。
 
 ■
 
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)――もとい、音無朱美は、増改築をするのが主な目的ではない。
 メインは、あくまでも「キヨシの誕生日祝い」である。
「だって、2月14日はキヨシさんの誕生日だったんだよね?」
 チョット同情の顔。
「模試の結果もあるし。
 あまりにも不憫すぎるよね……」
 よーし、と朱美は伊達メガネを取ると、誕生日会の招待状をキヨシさん以外の全部の部屋に投函するのであった。
 だが、信長の命が下された今、こっそりと尋ねる者はいない。
 誰もがサボりの疑いをかけられて、フラワシの犠牲にはなりたくなかったのだ。
「これは、根回しでもしといた方が良かったのかな?」
 うーんと、考え込んで。
「でも、朱美だけでも、キヨシさんを元気づけなくっちゃね☆」
 朱美はひたすらけなげにキヨシを待ち続けるのであった。
 もちろん、キヨシの201号室で。
 
 そこへ、「干し首講座」を受講し終えて、ヘロヘロになったキヨシが戻ってくる。
 
「のわ! お前は! いつかのアイドルもどき!」
 指差して、わななく。
 強烈な思い出が、吸精幻夜の効果を薄れさせたようだ。
「ぼ、僕の参考書! かえせ〜〜〜〜〜〜〜っ!」
「……試験の結果、悪かったんだ?」
 ぐさっ。
 キヨシの動きが固まる。
 朱美は、やっぱりね、と笑って。
「だから言ったでしょ〜。
 普通の勉強じゃあそこの大学は通用しないって」
「だからって、燃やしてしまうなんて……」
 涙目のキヨシをよしよしとなでて。
「参考書を風呂の燃料にしたのは、ね。
 朱美の勉強だったのです☆」
「勉強?」
「大学入試は炎が弱点なのですよ♪」
「はぁ?」
 わけがわからん、とキヨシ。
 それは、「テスト用紙は紙だから、炎が弱点」という某キャラクエのネタであったが。
 それは、当然まともな受験生であるキヨシが知るはずもない。
「では、失礼」
 アホらし、と去ろうとするキヨシの前で。
「もうちょっと待ってて。
 きっといいことがあるから☆」
 
 えいっ!
 
 朱美は古代シャンバラ式杖術で、201号室と202号室を繋げてしまった。
「う、うわ! 僕の部屋がぁああああっ!」
 キヨシは両手で頭を抱えるものの、朱美は手を打って喜ぶ。
「2つの部屋が繋がりました!
 今日は色々な記念日ですね☆」
「ね☆ じゃないから!」
「角部屋ゲットぉ!!
 ぽっかぽかです♪」
「……て、聞いてんの?
 僕の話ぃ!!」
 キヨシは怒りのあまり卒倒しそうになる。
 ふらふらと入口から出て行こうとする。
「あ、どこへいくんです!?
 3階へ上がる階段の工事がやっと完成して、201号室のドアは開閉できませんよ?」
 ハッと見ると、ラピスが頭をかいている。
「ごめんねー、こっから出られなくなっちゃった!」
「という訳で。
 キヨシさんが部屋の外に出るには、202号室のドアじゃないとダメなんですよ☆」
「よ☆ って。なんで、『☆』がつくんですか!」
「え? だって、『白星』って、縁起いいでしょ?」
「…………」
 真っ白になったキヨシの前に、パンっとクラッカーが。
 朱美が鳴らしたものだ。
「お誕生日会♪
 はい、義理チョコ☆
 自分でも忘れていたでしょ?
 4畳半だとムリなのでこのために9畳にしたのです☆」
 朱美の言はなおも続く。
「え、この後ですか?
 201号室を勉強部屋にして、
 202号室をみんなのフリースペースにすれば、
 大勢で勉強もできるし、
 今日みたいに合格祝いにも使えるし、
 大丈夫です♪
 普段は朱美のところに来た人との会話が、全部聞こえるけどね……」
 
 ……で、ハッと見ると。
 朱美はポッカポカな陽光の下。またすやすやと眠ってしまう。
(でも僕、一緒に寝るわけにはいかないですよ!
 朱美さん!)
 そして、開いている202号室には朱美の荷物が当然散乱しているわけで。
(僕は今晩どこに寝ればいいですかっ!!)
 しかも201号室の直下は管理人室なのだ。
 いきなり真上から女の子の声が聞こえてきたら、マレーナさんはどんな風に思う事やら……。
(こんなのって、あんまりだぁああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!)
 あまりの理不尽さに、キヨシは涙目となるのであった。
 
 ■

 その頃。
 信長から許可を得た風紀委員のスーツ姿の鬼崎 朔(きざき・さく)は、公約通り「反省室」を増築した。
 実質6畳間程のそこは、朔が行動予測&不寝番で監視する、迷惑行為をした者を罰するための部屋だ。
 その上逃亡を図ろうとしたものは、歴戦の立ち回りで逃げられないときている。
「この夜露死苦荘で、マレーナを護るためには。
 私がどう言われようとも、ふざけ過ぎる受験生……特に不埒な事考えてる男子どもは、反省室にて教育的指導をしてやろう」
 ふっふっふと不敵な笑いを浮かべた。
 その目が、ふっと和らぐ。
(マレーナ……)
 管理人室へ慌ただしく戻るマレーナの姿が目に入ったのだ。
(マレーナはこれまでのことを水に流した。
 だが、以前の私は、ドージェを狙っていた復讐者。
 その罪がすぐに消えることがあろうはずもない……)
 朔は視線を落とす。
(マレーナを護り、そして、護り続けること。
 それが彼女に対する、私なりの罪滅ぼしだ)
「では、行くか!」
 見回りに発つ。
 彼女の過ぎ去った廊下の壁に、貼り紙がはってある。
 
「『反省室』

 目的:
 鬼崎朔が主となっている、迷惑行為をした者を罰する部屋
 
 反省室送りになる条件と罰は……

・オーナー及び管理人に危害を加えた者→臨死刑
・無理矢理女性に手を出した者(のぞきもここ)→臨死刑
・オーナーの命令に背いた者→反省文100枚
・敷地内で殺傷沙汰を起こした者(ただし、干し首講座、正当防衛を除く)→反省文100枚
・受験生のみ、半日以上勉学を疎かにした者→半日反省室で強制勉学

  以上」
 
 反省室の中では、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が1人慌ただしく雑務に追われていた。
「スカサハ、テクノクラートとして、
 テクノコンピューターの情報通信を駆使して、
 受験生の皆様の勉学の進み具合や反省罰用の試験問題、
 要注意人物のリスト及び反省室利用者リスト作成したり、
 カウンセリングルームの利用者リストを作ったり、
 防衛計画を応用して、夜露死苦荘の見取り図を作ったり、
 とにかくやることいっぱいで大変であります!」
 はあ、と一息つく。
「なんで、上質なメイド服なんか着ているでありますか!」
 泣きそうな顔。
 きいっと、スカートの裾を噛む。
「スカサハ! メイドの仕事もしたいであります!」
 その拍子に、はたと思いついた。
「……そうだ!
 アテフェフお姉様のカウンセリングルームに、
 甘いお菓子の差し入れとかを、こっそりしておくでありますよ!」
 それくらい、良いでありますよね? 朔様?
 うん、そうに違いないであります!
 勝手に納得すると、スカサハは菓子を持って、アテフェフの下へと急ぐのであった。
 
 その頃。
 アテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)は、併設の「カウンセリングルーム」で客を待っていた。
「朔に頼まれたから、ね。
 つい、『悩める受験生のカウンセリング』やるわ!
 なーんて、言ってしまったけど……」
 自称小麦粉に、勇士の薬に、得体のしれない何かを混ぜる。
 試験管を掲げて、うっとりとした顔で頷いた。
「はやく試したいわぁ。
 この『気分アゲアゲ』になるお薬」
 そこへ、「カウンセリングルーム」の文字につられた、後田キヨシが入ってくる。
「ここ……て、何でも相談してもいいんですか?
 本当に?」
 物凄く切羽詰まった様子だ。
「ええ、まぁ」
 意外な人物からの相談に、アテフェフは一瞬躊躇する。
(でも一応、実験体……じゃなくて、お客様よね?)
 アテフェフは営業用スマイルで、席を勧めた。
「それで? 何のお悩みです?」
「僕の部屋が女の子に乗っ取られて、マレーナさんに誤解されないかって。
 そういう相談です。
 僕、僕、心配で!
 勉強も手につかないくらいなんです!」
「何? マレーナ? 勉強が手につかないですって!」
 アテフェフは本日手に入れたばかりの、「反省室」の広告を差し出した。
「いまの話。チョット聞き捨てならないわね?
 下手をすると、ここに行かされてしまうかも?」
「ええっ! そ、そんなああああ!」
 ハメられた!
 キヨシが気づいた時には、時すでに遅し。
 その代わり、と、アテフェフは耳元で囁く。
「これ、飲んでくれたら……朔には黙ってて、あ・げ・る♪」
「え? ……て、この薬を?」
 うんと頷く。
「ついでに、これも食べるであります!」
 ガラッとドアが開く。
 メイド姿のスカサハが、お手製の菓子を持って、キヨシの前に現れた。
 毒々しい色で、これ以上になく怪しい。
「さぁ、これを食べるでありますよ!
 キヨシ様!」
 薬と菓子を前に、キヨシは後ずさった。
(う……っ、ぼ、僕。
 今度こそ、死んじゃうかも!?)
 だが、「反省室」行きのピンチを切り抜ける為には、2人の頼みを聞き入れるしかない。
 
 ……こうして、キヨシは本日幾度目かの診療所行きとなるのであった。

 ■
 
 神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)装着型機晶姫 キングドリル(そうちゃくがたきしょうき・きんぐどりる)と共に、夜露死苦荘からやや離れた荒野の一角にいた。
「この辺りが良いですわね?」
 マレーナは比較的平たんな場所を選んで、一礼する。
「申し訳ないですわね?
 下宿の内に作れなくて……」
「いいえ、仕方がないです! マレーナ様のせいではないですよ!」
 九十九達は頷く。
 オーナーが下した決定はこうだった。
 イコンは大きい。
 そしてこれからは、イコンの時代だ。
 万一、下宿生達が全員持ってくれば、下宿の狭い土地には手に余るというもの。
 ならば、下宿の外の土地を開拓すればよい、と。
「下宿の外のことですの。
 だから、オーナー許可はいらない、というのが、信長様と私の判断ですわ」
「けれど、下宿の外の事だから。
 安全は守られない。
 万が一、他のパラ実生達に襲撃された際は、自分たちで守らねばならない、と。
 そういう事ですね?」
「ええ、そうですわ。
 イコンはパラ実のものだけかしら?」
「はい。
 でもスパイクバイクなんかの乗り物も、駐車出来るようにしますね?
 それと、ユニコーンとかワイバーンとかの生き物は、置かないつもりです」
「そうして下さると、助かりますわ」
 綺麗な笑顔。
「そうそう、建材は、本日は増改築がたくさんありましたし。
 業者の方に頼んで、余り物をそれとなくそちらへ回しますわね?」
 マレーナは下宿へと戻っていく。
 
「さ、作業をはじめましょう!」
 どさどさっと日曜大工セットを置く。
 キングドリルははんだ付けセットを取り出すのであった。
「これで、イコン用車庫の補強をして行くとしよう。
 九十九は心置きなく駐車場作りに励むのだ!」
 そうして、主に九十九が主導になり、建てて行く形となった。
「次に、車庫の大きさですけど」
「ああ、ギガキングドリルで大きさを決めればいいだろう?」
 自分のイコンを見上げる。
 その時、はたと思う事があって、九十九はチョット待って下さい、と言った。
「パラ実イコンの大きさって、種類によっても違いますよね?
 ギガキングドリルだけで決めて、よいものでしょうか?」
 あ……と思う。
 だがいまは、自分達のイコンしか持ってきていない。
「とりあえず、ということで。
 今回はギガキングドリルの幅と高さを基準にして、作ることにしましょう!」
「実際に乗って幅や高さを決めるのは、俺がやることにしよう、九十九」

 そうしてギガキングドリルと数台の乗り物がおけそうな駐車場を造ると、2人は駐車場を後にした。
「あとの課題は、この駐車場をどうやって守り抜くか? ですね。
 ラピス様に相談しましょうか……特に危険な個所とか。
 明日からは、朝晩の見回りも頑張らなければならないですし」
 でもその前に!
 九十九は額の汚れをふき取りつつ。
「お風呂で羽でも伸ばしましょう!
 もちろん、オーナー様には見つからないように、こっそりと。
 ふふふ……」

 
 ■
 
 ……ラピスを中心にして、様々な者達の気遣いの下に、夜露死苦荘は徐々に便利になりつつあるようだ。