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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第3回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第3回/全3回)

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「くそっ!」
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は顔を歪めて『レッサーワイバーン』を上昇させた。
 ネルガルマルドゥーク軍を追走していると聞き、いち早くこの地へやってきた。
 奴が居ないうちに北カナンの北東部神聖都キシュを攻めれば、奴の部隊は戻らざるを得なくなるはず。戦わずして兵を引かせるには、これが一番有効な方法だと思ったのだが―――
「ウィング! 桃華ちゃんが!!」
「何っ!」
 パートナーである桜月 桃華(さくらづき・とうか)の『小型飛空艇ヘリファルテ』が『ワイバーン』に囲まれていた。しかも飛竜の背には神官兵の姿も見てとれる。
 上昇を止めさせ、一気に下降した。その勢いのままに囲みの中へ突っ込んだ。
 囲みを成していた『ワイバーン』は4体、そのどれもがこの体当たりを見事に避けたが、それはこちらも想定済みだった。
「桃華ちゃんから離れるですよ!!」
 アニムス・ポルタ(あにむす・ぽるた)が飛竜の翼へ『氷術』を放った。凍えた翼では飛ぶことも出来ない。1体、また1体と森の中へと落下していった。
 ――森の中、この森が罠だったか……
 西カナンと東カナンとの国境沿いを飛び、そして北カナンに入ってすぐだった。緑豊かな森が見えたのは。
 ネルガルの支配下にある北カナンにおいては砂が降ることもないという事だろう。見渡す限りにとはいかないが、それでも十分広大な森が一面に広がっていた。
「助かったわ、アニム―――ス…………」
「ん? どうしたの?」
 桃華の視線を追ったアニムスは思わず「ヒィッ!」と悲鳴をあげた。
 同じ光景を見て、ウィングはただ絶句した。
 ――そんな馬鹿な……。
 森の中から沸き立つように、夥しいほどの『ワイバーン』が姿を現した。数で威嚇するようにゆっくりと速度を合わせて一斉に上昇してきていた。
「馬鹿な…… どうやって隠れていたというのだ……」
 もはや完全に混乱していた。一斉に放たれたように数え切れない程の『ワイバーン』が飛び向かってきた。
「うぉぉおおおおおお!!!」
 やらなければ、やられる。しかし、やってもやられる事がある。
 必死の抵抗も虚しく、3人は広大な森へと墜落してゆくのだった。






 ヴァレリー・ウェイン(う゛ぁれりー・うぇいん)は動けない。
 秋葉 つかさ(あきば・つかさ)ネルガルに仕官するため、そのための人質となり、そして石化させられた。ヴァレリーは石像となった。
 刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
 刻が止まる、それが石化。でももし今の状況が見えていたなら知っていたならば―――

『まったく抜け目のない奴だ、ネルガルの奴は。そして何と大胆な事か。
 己が留守を護らせるべく、国境付近の森に罠を仕掛けた。
 しかもキシュに残したほぼ全ての『ワイバーン』を全て投入した大規模な策だ。
 局地の一点にあれほどの戦力を集める度胸と確かな戦局眼。
 つかさ。お前が惚れた男は確かかもしれんな』

 刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
 だから今のはどれも全てがただの単なる妄想。
 願おうにも叶わない。石像は刻が止まっているのだから。