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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

リアクション

 
 第1章 ホレグスリの最初の犠牲者

     〜1〜

 ツァンダに新設された大きな公園、レストゥーアトロ。四季を彩る木々、植物が揃えられたここで今、花を咲かせているのはズバリ桜だ。開花日から日も経ってすっかり満開。そのピークも若干過ぎ、はらはらと花びらが風に舞うそんな頃合。
「あっ! 覗き魔! すけべー! へんたい!!」
「顔を合わせた瞬間にそれか……」
 春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)に指差し変態呼ばわりされ、ラス・リージュン(らす・りーじゅん)はうんざりとした表情をした。すけべだ何だというのは、ホテルでのぱじゃまぱーてぃー(女子会)にピノ・リージュン(ぴの・りーじゅん)を迎えに……そう、あくまでも迎えに行った時にちょっと下着姿を見た、という出来事が関連している。
「……あのな、あれはある意味事故だ。いくら何だって、あんな格好して駄弁ってるなんて思わないだろーが。大体、戸を開けて下……した……色々露出してんのが目に入ったら普通見るだろ。ガン見するだろ。そーいうもんだろ。気にしない奴なんてよっぽど枯れてるとしか……あ。」
「ん? あ、自分は全然気にしてないよ? 枯れてるとか。うん、別に」
 ぱーてぃに平常心で紛れ、間接的に思いっきり枯れてると言われたケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)は、振り向いてきたラスに笑顔で応える。本当に本気で気にしていないようでもあり、それはそれで問題でもある気がするのだが――
「開き直ったよピノちゃん! ガン見したって言ったよ! やっぱりすけべだ、覗き魔だーっ!!」
 一方、真菜華はピノに後ろから抱きつきながらよく通る声で言う。
「おまっ……、そういう事をでかい声で……他の客が見てるし、ピノに変な影響が……」
「おにいちゃん、覗き魔なんだね。あたし、よーく覚えとくよ」
「よりによってそっちか。覗きってのは違うからな! 偶然だからな?」
「すけべは否定しないんだ」
「…………」
「ピノちゃん、皆が来るまで桜見よっ! ちょーすごいよっ!」
「うんっ!」
「…………」
 ジト目でツッコまれてどう答えようか考えているうちに、ピノを真菜華に取られてしまった。言い訳……ではなく、優しく良識あるモラルもある兄という真実をピノに伝える機会を永遠に失ってしまった。今度話を蒸し返したらそれこそすけべ確定ではないか。いや、事実すけべなのだが。
「うっわーい!!! ピンク色まんかーーーい!!! ううー、これはシアワセな世界だよっ!!!」
「桜、きれいだねっ、マナカちゃん! あ、ファーシーちゃん達が来たよ!」
 ピノの視線の先から、弁当の包みを持って楽しそうに話すファーシー達が歩いてくる。
「わーい、ファーシーちゃん、こないだぶりー!!」
「こ、こないだぶり? あれ? でも何だかしっくりくる……」
 むぎゅーっと真菜華にハグされながら、ファーシーはちょこんと首を傾げた。シナリオ上は数ヶ月後だが実際は前リアクション公開からアクション締切まで数日しかなかったのでしっくりきて当然である。
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「僕達もツァンダに定住先を見つけたんですよ」
 途中で合流したのか、イルミンスールからのメンバー以外にポーリア一家と御剣 紫音(みつるぎ・しおん)綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)も一緒に来ていた。紫音達も、それぞれ何やら包みを持っている。こちらもお弁当だろう。アルスが集まった人数をかぞえている。
「ふむ……5人か」
「待ち合わせ予定はこれだけどすえ? もう少し人数が多いかと思ったんどすが」
「ああ……おいおい来るだろ。時間もはっきり決めたわけじゃないし、始めてから合流すればいいんじゃないか? メールでもしとけば場所も分かるだろ」
 携帯電話のある時代というのは便利である。有線公衆電話時代はそんなことをしたら連絡がつかなくて大変な事になるが。
「あれ、僕達はきちんと時間を合わせたんですが……、その辺り、ご都合によって違うんでしょうか?」
 風花とラスがそんな会話をしているうちに、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)テレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)風祭 隼人(かざまつり・はやと)風祭 天斗(かざまつり・てんと)がやってきた。ファーシーも話に加わってくる。
「あ、他のみんなにはね、お昼になってから集まりましょうって言っただけなの。だから、ばらばらに来るんじゃないかな?」
 次いで彼女は、テレサとミアの持っている包みを見て首を傾げた。お弁当みたいだけど、どうしてリョーコさんと一緒に来なかったんだろう……。寝坊したのかな?
「テレサさん達もお弁当作ってきたの?」
「はい。今日は優斗さんのお父様もいらっしゃるので……愛情たっぷりのお弁当を作りました。頑張ってアピールします」
「優斗お兄ちゃんのお父さんもいるから、愛情一杯のお弁当を作ったんだよ。……頑張ってアピールするよ!」
「アピール? ……あ、そういうことね」
 きょとんとしたファーシーだったが、浮気追求される優斗をこれまでに何度か見てきただけにそう間もなく意味を理解した。お弁当箱が1人前より大きめなのも、気合いを入れて色んなおかずを作ったのだろう。
 そこで、天斗がファーシー達に近付き、挨拶した。
「ファーシーさんとアクアさんですな。息子達からよく話は聞いています。いつもお世話になっているようですね」
「え? 息子……あ、あ! そっか、じゃあ、優斗さん達のお父さんって……」
「鈍いですね、見れば分かるでしょう。そっくりです。……こちらこそ、お世話になっています」
 アクアは無愛想ながら、わりかし丁寧に挨拶した。色々な意味で世話になっている……と思うし、この前は隼人の代わりにお見舞いにも行ったし、近しい関係といえばそうなのだろう。
「わ、わたしも……! いっぱいいっぱいお世話になってます!」
「ふむ……可愛いお嬢さん方ですね」
「何考えてる……?」
 何となく妙な予感がして、隼人は天斗を見遣る。
「ポーリアさん、久しぶりやなあ」
 そこで、七枷 陣(ななかせ・じん)リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)小尾田 真奈(おびた・まな)が道の向こうから歩いてきた。彼女達と一緒に、桜の下でひなたぼっこしたり、バカやってる皆をまったりと傍観するのも良いかも、とのんびりと笑顔で手を上げる。ポーリアはふんわりと微笑んで、陣達に挨拶する。
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
「ああ。そういや、赤ちゃんの名前は決まったんか?」
 陣は彼女の腕の中の赤ちゃんを見ながら聞いてみる。
「ええ、『ブリュケ』です。ブリュケ・センフィットと言います」
「ブリュケ……、センフィットというのは皆様の名字ですね」
 初めて聞く響きに真奈が言い、スバルがそうです、と頷いた。
「そういえば……、フルネームで自己紹介したこと、ありませんでしたね」
「つまり、ポーリア・センフィットとスバル・センフィットだね! ボク、覚えたよ、初めまして、リーズ・ディライドだよっ」
「初めまして、よろしくお願いします」
 そうしてポーリア達は、また微笑んだ。
 神代 明日香(かみしろ・あすか)ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)エイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)が来たのはそんな時だった。
「皆さんお集まりですね〜。お弁当とかお茶とか、色々持ってきましたよ〜」
「呼んでないんだけど……」
 ラスは、つい嫌そうな顔になる。
「わたしが呼んだわよ? 悪かった?」
 ファーシーが不思議そうに言い、彼は1つ溜息を吐いた。また妙な悪戯を仕掛けていなければ良いが、と思うが思うだけ無駄なような気もする。それにしても、ノルニルの背負ったリュックサックからはみ出ている物は。
「その一升瓶、重くないか?」
「重いです。でも自分で運びます。大人ですから」
「そ、そうか……」
「今日はあの子はいませんの?」
 エイムが肩や背中辺りに視線を送ってくる。恐らく毒蛇を探しているのだろうが。
「……鞄に入れてきた。まとわりつかれると疲れるし……」
 大きめの鞄の中から蛇の頭がにゅっ、と出てくる。ちょっとかなしそうだ。実を言えば、内部で鱗がつかないように別の袋に入れられていたりする。極力触りたくないので、ピノに入れさせたわけだが。
「……かわいそうですの。ラス様にも甘噛みして、もっと仲良くなるですの」
「ちょ、よけーなこと言うな……!?」
「「お待たせしました」」
 次に、志位 大地(しい・だいち)シーラ・カンス(しーら・かんす)メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)。それに、ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)スヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)フリードリヒ・デア・グレーセ(ふりーどりひ・であぐれーせ)が合流してくる。大地とスヴェンは、何を対抗し合っているのか2人共真四角の――恐らくお重だろう――お弁当を持っていた。先程の「「お待たせしました」」も2人同時の発言だった。
 2人の対決は兎も角として、何だか弁当の総量が多い気がする。はて食べきれるのだろうか。
「ファーシーさん、久しぶりですーっ!」
 そんな中、ティエリーティアはファーシーに駆け寄って勢い良く抱きついた。
「わあ、今日も可愛い格好ね! なんかいい匂い……」
 ファーシーはティエリーティアに抱きつき返した。でも、何か右半身が緊張する。
「あれ? ファーシーさん、体が少し熱いですよー? どうしたんでしょう」
「え!? う、ううん。な、何でもないわいつも通りよ!」
 言われて、慌てて体を離すファーシー。いつも通りいつも通り……ちらりと右半身側を見ると、スヴェンの荷物からフリードリヒが缶ビールを取り出そうとしている。
「ビールビール♪」
「あっ、重いと思ったら……!」
 中には大量の350ml缶が入っていた。いつの間に入れたのやら。
「バッカ、祝い事といえば酒、酒といえばビールだろ!!」
「…………」
 開き直ってプルトップを開けるフリードリヒに、スヴェンはもう何も言う気が起きなくなってしまった。せめて自分で運べ、と思うが言うだけ無駄だろう。
 そんなやりとりを見つつ、ファーシーは思う。
 だけど、そろそろ……。
「そろそろ行きましょうか? お后様」
「え……? え? おきさきさま?」
 とんでもない呼称が聞こえ、でも、それが確かに自分に向けられているのを感じて彼女は振り返った。
「だ、大地さん、どういうこと?」
「え? だって、王様のお嫁さんだからお后様ですよね?」
「ふぇ!? おおおおおお、お嫁さん!?」
 その途端、ファーシーは自分の表面温度がぼんっ! と上昇したのを自覚した。どどど、どうしよう、下げなきゃ下げなきゃ。
「あれ……? あ、まだそう呼ぶのは早かったですかね?」
 大慌ての彼女に、大地はわざとらしく空惚けてとってもイイ笑顔を向けてくる。
「は、早いとかそういうんじゃなくてっ! えと……っ!」
 あ、声が裏返った。
「んー? どーした? ファーシー。大地にいぢめられたのかー?」
「!!!!」
 2人の様子に、というかファーシーの素っ頓狂な声に気付いたフリードリヒが声を掛けてくる。
「ななな、何でもないわよ! 何でも!」
 速攻で彼女は否定する。内心では、お、王様!? 王様だったの!? 知らなかった……! とか少々びっくり混乱していて。あ、でも大地さんは誰がとは言ってなかった。別の人かも……って、あの時あの場所に居たのにそんなわけないわよね、うん、別の人のわけない。
(き、聞こえてないよね……!?)
「?」というフリードリヒの表情からそう判断し、ファーシーは安堵した。

 ピーク時よりはましとはいえ、公園はやはりそこそこ混んでいる。一行は座れそうな場所を探し、何とか広いスペースを見つけた。ここなら遊歩道からも見えるし、後からの合流もしやすいだろう。
「この辺りで落ち着きましょうか。今の人数くらいでしたら分散しないで良さそうですし。大きなシートも何枚か持ってきました」
 スヴェンがビニールシートを取り出す。少し離れた所では家族連れが花見をしていたが、弁当の残り具合から帰り支度に入るのも近そうだ。
「中々良い場所じゃな。桜もほどよく並んでおる」
「ええ。後から合流する皆さんも、別の場所を探さなくてよさそうですし」
 アストレイアに答えながらシートを敷いていく。それを、風花やアルス、フィリッパや舞が手伝い始めた。
「風でめくれないように、座る位置を決めて荷物を置きましょうか〜。ピノちゃんはどこがいいですか〜?」
 4隅を持って広げられていくシートを見て、シーラが皆に向けて言った。後半だけピノ向けだ。
「うんと……、このへん? って、おにいちゃん、隣に座るの?」
「当然だろ」
「当然なんだ……」
 他のとこでもいいじゃん……と思いながら、ピノはラスと荷物を置いた。逆隣にはシーラ、その隣には大地と千雨が座る。
「多めに作ってきましたから、遠慮なく食べてくださいね」
 大地はお重の包みを開き始め、お弁当を作ってきた皆も自分の正面から中央へと寄せていく。かなり豪華だ。ジーナも三段の花見重を1段1段お披露目していく。色合いも良く、美味しそうだ。
「わー、いっぱいあるにゃー」
 重箱からバスケットまで多岐に渡るお弁当に真菜華は目を輝かせ、はっ! と我に返ったようにラスの方を見る。
「マナカは変態さんのそばに座るのはイヤなのでいっちばんとーおくの席に座るからねっ!!!」
「……勝手にしろ」
 呆れつつラスが言うと、真菜華は「いちばんとおくの席……いちばんとおくの席……」と考え考え繰り返し、彼の一番遠くの席イコール向かいに座った。わくわくとお重を見つめていて、その事実には全く気付いていない。
「まぁ、お花見といえば定番ですよね?」
 準備を終えたスヴェンは、中央に手を拭けるようにアルコールティッシュのボトルを置いてから重箱を広げた。料理の本を見ながら、ちゃっちゃと作って持ってきたものだ。中には、正に定番といえるおかずやおこわで作ったおにぎりなどが理路整然と詰められている。どこまでもそつがない。
「まあ、定番は定番足る由縁があるからこそ定番なんだよね」
 セシリアも、作ってきたお弁当を開く。
「お花見には桜を見る楽しみもあるけれど、皆で一緒にわいわいと食事をするのも醍醐味だよね」
 バスケットの中から出てきたのは、ケースに入ったサンドイッチとおにぎり。おかずとして唐揚げとフレンチフライ、それに、ポテトサラダ。
「えーと、飲み物は……」
 そこで、スヴェンが大きめのポットと紙コップを中央に置く。
「日本茶も用意しましたので、どうぞ」
「あ、じゃあ、これでちょうどいいかもな」
 紫音も持参した飲み物を提供する。紅茶とコーヒーだ。これだけあれば、個々人の好みにも合うだろう。もう1つ、熱湯の入った耐熱ボトルを持ってきているが、こちらは食後がいいだろう。そして、紫音は風花達と一緒に作ったお弁当を広げる。メニューは各種おにぎりにサンドイッチ、唐揚げにフライドチキン。それに、おやつとして桜の焼きドーナツと抹茶の焼きドーナツ、三色団子に道明寺と長命寺と取り揃えて。
 これまでに色々なことがあったし、今日は、ナンパなどはしないで皆でのんびりするつもりである。
「あ、自分もどうみょーじとちょーめいじ持って来たよ。どっちか好きな方をどうぞ」
 ケイラも用意してきたお菓子を広げ、甘い匂いがふわっと漂う。
「あと、苺のタルト! カスタードも手製で作ってみたんだ。春らしくて良いかなって……あ、はいピノさん」
「ありがとー!」
 その1つを、欲しそうに見ていたピノに手渡す。
「ピノさんもお菓子作るのが好きだったりするのかな。今度、一緒に何か作ってみる?」
「おかひふくりははいすきはよ! ……(ごくん)。一緒につくろっ!」
「うん、じゃあ一緒に」
 それから、ケイラは一見スポンジケーキのようにも見えるお菓子を出した。小さく一口大くらいにカットされている。
「あと、これはバスブーサっていう自分の故郷のお菓子なんだけど凄く甘くて皆の口に合うかわからなくて一応持ってきたんだけど……、よければ食べていって」
 何だか口調が早口である。そこで、舞も紙袋から持ってきた箱を出す。蓋を開けると――
「ケロッPカエルパイです」
 あれか……!
 パイの原材料を知っている皆が一斉にぴたと止まった。
「アクアさん、この前渡しそびれてしまったんですけど、どうですか?」
「え、ええ……」
「あ、それ……!」
 舞が個包装されたパイを渡すと、皆やファーシーが詳しい体験談を話す間も無くアクアはそれを口に入れた。
「…………。普通の味ですね。……何ですか?」
 飲み込んで感想を述べ、やけに注目を集めている事を怪訝に思いアクアは言う。ファーシーは、簡単に説明した。
「……アクアさん、それ、本物のカエル使ってるらしいわよ?」
「……!! カ、カエルですか!?」
「い、いえ、だから、ネーミングとか材料は確かにちょっとアレですけど、味は悪くないんですよ。……でしたよね? アクアさん」
「『アレ』……カエルなんですね……。え、ええ……、まあ、その程度……。食用とされているカエルもいますし、あ、味が良ければ……」
 多少口を引きつらせつつ、アクアは答える。5000年以上生きてきた私がカエル程度、という強がりが多分に入っていたが。
 しかし、舞はそれには気付かない。
「そうですよね、良かったです。じゃあ、余ったら是非持って帰ってくださいね」
「……!?」
 そんなこんなで、お花見は始まった。