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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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閑話休題 年増戦隊ロリババァV その2


 ヴァイシャリー中央広場には、ステージがある。
 このステージは、普段バンドの演奏会などに使われているが、要望があればショーなどの演劇ものを行うことも出来る。
 今日はというと、
「みんな今日は集まってくれてありがとー! 今日はいつも良い子にしてた皆の為にカッコイイ魔法少女が来てくれてるよー!」
 茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)が観客に呼びかけたように、魔法少女のショーが行われる予定だ。
「それでは! 『年増戦隊ロリババァV (ファイブ)』の登場です!」
 えー名前かっこわるーい、とか、ネーミングセンスなーい、とか、野次る声が飛んでくる。
 が、司会進行役のお姉さんはそんな声に怒ったりしてはいけないのだ。にこやかな笑顔のまま、魔法少女の登場を待つ。
 ――ていうか、もっともな感想よね。誰よ、あんなチーム名にしたの。
 むしろ共感しながら。
「わしは魔法少女ならぬ神……そう、わしは神じゃっ!」
 麻羅の声が響き渡る。姿はまだ、見えない。
「神が動作を起こす度に奇跡が起きる」
 声と同時に、霧がステージを覆った。舞台演出のようだ。スキルを使っているのか、それともドライアイスを水に入れて人工的に発生させているのかは判断がつかない。
「人は、人の身でありながら、その奇跡を起こそうとした。結果、魔法がこの世に生まれたのじゃ」
 どよめく観客を置き去りに、麻羅の口上は続く。
「魔法は呪文を唱えたり、特定の動作を行うことで発動する。それは人が神の奇跡を起こすための手順であるからじゃ。人が使う魔法は神が動作して起こる奇跡を模倣したに過ぎん。
 そう、真の魔法とは神が動く事で起きる奇跡なのじゃ!
 そして、真の魔法少女とは神であるこのわしじゃっ!!」
 霧が晴れた。
 ステージ中央に、麻羅が仁王立ちしてビシリとポーズを決める。
「ロリババァレッド! 天津麻羅!」
 決まった。
 口上も、名乗りも、ポーズも決まった。
 勢いに飲まれた観客から、どおぉっ、と歓声が沸きあがる。ヒーロー名だせぇ、なんて声はもうどこにもなかった。
「ババァ『澄み渡る草原を思わせる若々しいグリーン』!」
 流れに乗って、マリアベル・ネクロノミコン(まりあべる・ねくろのみこん)が颯爽と現れ麻羅の隣に立つ。
「なお! 称号が長いという場合、仕方がないから親しみを込めて『ババァグリーン』と略して呼ぶことを許可する! なぁに、わらわの心はパラミタの領土より広いからの。ほれほれ、親しみをもったところでさぁわらわを褒め称えるがよいぞッ!」
 愛らしい美少女の上から目線な声に、一部のマニアックな観客が「うおぉぉ!!」と反応した。
「ババァグリーン! 可愛いぞババァグリーン!」
「もっと! もっとじゃ!!」
「グリーン俺だーっ! 結婚してくれー!」
「そういうのはナシじゃ、このたわけがッ!!」
 熱が上がってきたところで、私服のままステージに現れる少女が一人。
 茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)である。
 私服姿の朱里の登場に、沸き上がっていた会場が一瞬、静まる。
 が、マリアベルの隣に立った朱里がにこりと笑って手を振ると、もうどうでもよくなったらしい。再び、「バ・バ・ァ!」とコールがはじまった。
「可憐に登☆場! ババーブラック!」
 そこで登場するは、
シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)――
通称セラだ。麻羅の隣に躍り出る。
「みんなぁ! 声援ありがとぅ!」
 セラのフレンドリィな呼びかけに、
「バ・バ・ァ! バ・バ・ァ!」
「プリティババァ!」
「いいぞもっとやれー!」
 更に、熱狂。
 セラの笑顔が若干固まっているのは、ババァコールに心が折れかけているためだ。何せ、セラはここにいる誰よりも若い。四桁年齢のガチババァではないのだ。まだ三桁年齢である。もちろん、十分ババァなのだが。
「この世に悪の栄えたためしなしっ!」
 ロリババァが四人揃った舞台に、また別の声が響く。
「満を持して登場! わしこそがババァブラック!」
 ステージの端から助走をつけてセラの隣に滑り込み。
 南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)がビシィっとポーズを完璧に決めてみせた。
「「「「「五人合わせて年増戦隊ロリババァV!!」」」」」
 全員が揃ったところで、ただ一人のずれもなく名乗りを上げた。
「これ以上面白そ……もとい! 悪行を重ねるというのなら魔法少女的なわしらが成敗してくれよう!」
 ヒラニィが叫ぶ。歓声。歓声。熱は冷めるところを知らない。
「ウホッホッホッホッホー!!!」
 都合よく、もとい丁度良いタイミングで地の底から響くような声が聞こえてきた。ドンドンドンドン、と何かを叩く音もする。
「な、なんですかこの声は!?」
 司会の衿栖が驚いた声を上げる。おろおろと辺りを見回し、
「みんなっ! 悪の怪人かもしれない! 気をつけて!!」
 注意を促した。
 と同時に、さるさるスーツを身に纏ったルイ・フリード(るい・ふりーど)がステージの上に現れる。ドンドンという音は、ドラミングの音だった。今もなお叩き続けている。
 しかもその手には冷凍マグロも握られていた。殴っても良し、刺しても良しの凶悪な得物である。
「で、でたー! 悪の怪人ゴリマグロだー!」
 衿栖の叫びに、ルイ――もといゴリマグロがカッと目を見開く。瞳孔が開いている。一般人ならほんの一瞬見つめられただけで硬直してしまうような目だ。
 ルイのこの変貌は、セラの催眠術に因るものなのだが、観客はもちろん参加者も知らないことである。
 ともあれ、そんな凶悪な外見をしたゴリマグロが雄叫びを上げて冷凍マグロを振り回す!
「あ、危ない! 冷凍マグロを振り回しています! 非常にあぶなーい!」
 司会の衿栖は、危ないと言いつつもどこかノリノリである。
「でも大丈夫! 今日はロリババァVがみんなを守ってくれるわ!」
 話を振られたロリババァたちは、これでもかというほどにドヤ顔だった。
「いけーロリババァ! 年増の力で悪の怪人をやっつけろ!」
 衿栖の号令で、まずは朱里が躍り出た。
「変身っ、ババブラック! 怪人ゴリマグロ。子供たちには指一本触れさせないわ!」
 一瞬で変身を遂げ、五人と揃いの衣装に変わったところで武器を振り回す。
 冷凍マグロとビッグディッパーがぶつかり合う。火花が飛んでいるような錯覚をしてしまうほどの激しい斬り合いに、観客は息を呑む。
「ふっ……さすがはルイね! でも朱里だって負けないわよ……!」
 一歩も譲らない戦いに、朱里は小さく、しかし力強く呟いた。
「正義の刃を受けなさい!」
「わらわも加勢してやろうッ!」
 さらにはマリアベルが躍り出る。
「ひれ伏せ悪よ! わらわこそかの魔導書『魔術のアルバテル』じゃッ!!」
 愛用のエアガンを向け、引き金を引きまくる。弾丸はバイオBB弾を使用しているため、環境への影響も少ない。
「フハハ! わらわのBB弾が唸りを上げておるわ!!」
 ばすばすばすばす、ひたすら打ちまくる。
 衿栖が、『良い子の皆様へ! エアガンはサバゲーでもない限り人に向けて撃ってはいけません! ロリババァたちとのお約束☆』と書かれた看板を掲げていた。きっちり注意も促す姿は司会の鑑とも言えよう。
 散々当てた後、マリアベルがゴリマグロに飛び掛る。
 が。
 ゴリマグロは、平然とした顔で仁王立ちしていた。多少、朱里との斬り合いの邪魔にはなったらしいが致命的な傷は負っていない。
「……ありゃ?」
「おぉーっと! ババァグリーンの撃った弾は軽すぎたっ! ゴリマグロにダメージはあまりないようだー!」
 衿栖の説明でマリアベルは状況を把握した。飛び退る。
「どうするババァグリーン! この窮地、どうするっ!」
「そんなんわらわが知るかッ。相性が悪い、相性がッ!」
「このままではまずいっ! みんな! 一緒に応援して!」
 衿栖は会場の力をロリババァたちに届けることにした。
「せーのっ! バ・バ・ァ! バ・バ・ァ!」
「バ・バ・ァ!」
「バ・バ・ァ!」
「バ・バ・ァ!」
 このババァコールに反応したのが、セラである。
「だからぁ、セラはババァじゃないんだからね! この中では一番若いんだからねーっ!!」
 若年者、怒りの叫び。
「この憤りは全部ルイにぶつけてやるぅ! さぁ、正義の魔法を受けるがいい!!」
 魔術展開。
 炎術、氷術、雷術、光術。
 出せる術を全て出し――
「いっけえぇぇぇええ!!」
 全力で、ゴリマグロにぶつけた。