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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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レッスン6 ヒロインショーで模擬戦を行ってみましょう。その3


 ヒロインショーと聞いて思い浮かべるのは、ファンシーというか可愛らしいというか、そういうものだろう。瀬島 壮太(せじま・そうた)もそうだった。
「……あれで良かったのか?」
 が、目の前で行われたショーは、なんだろう。後半かなりはっちゃけていたような気がする。
 ――これ、ヒロインショーだよな?
 思わず演目を確認してしまうほどに。しかし演目にはしっかりと『魔法少女ヒロインショー』と書かれているので間違いではなく。
 ちらり、隣に座るミミ・マリー(みみ・まりー)の表情を窺い見る。と、ミミは壮太の予想に反して目を輝かせ、
「かっこよかったね!」
 表情をきらきらさせて、賞賛。
 ――楽しそうなら、いいか?
 何か違っている気がしないでもなかったけれど。
 ――ていうかあいつ大丈夫かよ。
 悪役として、紺侍がステージに立っていたのだがエヴァルトの攻撃で空を舞っていた。そのまま劇は終わりに向かったので、悪役がどうなったのかは知らない。
「壮太、どうしたの?」
「紡界いねえかなって」
 一応心配だし。
 きょろ、と見回してみると、居た。頬に大きなガーゼが貼られてる。目が合ったので片手を上げて、
「よお悪役。名誉の負傷だな」
 笑う。「ギャー見られてた」と紺侍が小さく悲鳴を上げて、顔を背けた。
「ミミさんも居るし」
「こんにちは、紡界さん。ショーお疲れ様ですっ」
「ありがとうございます。……あー恥ずい」
「ノリノリだったんじゃねえの?」
 わりと楽しそうに演じていたように見えたけど、と呟くと、「だからっスよ」と返された。ノリノリだったからこそ知り合いには見られたくなかったのかもしれない。
「かっこよかったですよ?」
「なンだろう。ミミさんの優しさが痛い」
「え、僕、だめなこと言いましたか……?」
「あ、イヤそんなんじゃ」
 ミミとのやり取りに思わず吹き出すと、なんスかもォ、とうらめしそうに見られた。
「つーか暑いよ馬鹿」
「知らねェスよ。オレに言わないでください」
「じゃ誰に言やいいんだよ馬鹿。涼しくなる場所とかイベント教えろ馬鹿」
「来週祭りがあるくらいしか。詳しくわかったら連絡しますから馬鹿連呼やめて下さいへこむ。期末の点数死んだし」
 数学とか滅びればいいのに、と紺侍が空を仰いだ。それは言うなと目を覆う。
「紺侍くーん、クロエちゃーん。差し入れあるよーひえひえの水饅頭だよー」
「ブリザードでバッチリ冷やしてきたからカチンコチンさッ!」
 遠くからした終夏セオドアの声に、紺侍が「ハイ」と透る声で返事をした。クロエも呼ばれたことを見ると、ショー参加者を労おうとしているのかもしれない。
「紡界さん、僕も行っていいですか?」
「ミミさんも?」
「クロエちゃんとお話ししたいなって」
「どォぞ。喜びますよクロエさん」
 申し出を受け入れてもらえたミミがはにかんだ。
「壮太は?」
 どうする? と問われたのでひらひらと手を振る。
「オレはここにいるから行ってこいよ。暑くて動くのめんどい」
「もー。そんなだとバテちゃうよ」
「いいから。そわそわしてねえで行けよ」
 魔法少女に興味があるのかクロエに興味があるのかは知らないけれど、気になってはいるのだろう?
 壮太に促されて、ミミが紺侍の隣に並んで歩き出す。途中で一度振り返り、
「ちゃんと水分補給しなきゃだめだからねー」
 心配そうに声をかけられた。
 どっちが保護者だか、と苦笑していると、
「お前キツネと仲いーの」
 唐突にかけられた声に驚いて振り返る。
 きらきら陽に透ける蜂蜜色の髪と、目付きの鋭さが印象に残る男が立っていた。年の頃は二十代後半というところか。
 壮太が面食らった顔をしたからだろう、男が軽く両手を上げて手のひらを見せる。敵意はないと示しているらしい。
「ああ悪い。俺はここの責任者っぽい何かで、マリアンって言います、どーも」
 どうも、と挨拶に返しながら改めて相手の顔を見る。綺麗な顔をした人だ、と思った。
 同時にぴんときた。以前紺侍とした会話を思い出す。

 『それとも施設に気になる男でもいんの?』
 『そんなとこっスねェ』

 この人か、なんて。
 ――綺麗だしな。あいつ綺麗なもん好きだし。
「何ですか。俺の顔になんかついてる? んな面白い顔でもねーだろ」
 じっと見ていたせいか、怪訝そうな顔で問われてしまった。ああいや、と曖昧にお茶を濁し、
「俺、紡界の同級生で。バイト先も同じで、それでよく話すようになって」
 当たり障りない自己紹介に、マリアンが興味深そうに頷く。
 あれ、と思った。知らないのか、と。疑問が顔に出ていたらしく、
「あいつあんま自分のこと話さねーから」
 口元に手をやりながらマリアンが呟いた。
「んでどーしてんのかなーと思ってさ。友達居るなら良かったわ、うん」
 マリアンの口振りは、親しみこそ込めているものの恋愛感情はないと悟った。あいつがしてんの片思いなんだなー、と思いながらマリアンの顔を見る。いろいろ聞きたいことがあった。何よ、とわりと親しげに話しかけられたので、初対面だけどいいや聞いちまえ、と質問開始。
「地球人?」
「俺シャンバラ人」
「どこの学校のOB?」
「蒼学。つーわけで先輩ですよ敬え」
「マリアン先輩?」
「お前律儀ね」
 くすくすと笑われた。笑っても目付きの悪い人だなと思う。
「まだ聞いてもいい?」
「もうやだよ。俺は多目的室でチビと一緒に昼寝するっつー仕事があるんだから」
 それ絶対仕事じゃねえし、とツッコミつつ、んじゃまたなーと手を振る相手の背を見送った。


「クロエちゃんはどうして魔法少女になろうと思ったの?」
 ミミの質問に、クロエはしばし考える。
 なりたての時は、大して深く考えてなどなかった。
 衣装が可愛いなとか、楽しそうだなとか。
 それくらいの軽い理由だったけど。
 今日、いろんな人にいろんなことを教わって、考え方が変わってきたのだ。
「えっとね。どうして、はふじゅんなんだけど」
「うん」
「いまは、すっごくたのしいし、がんばりたいとおもうの」
 お友達を守りたいとか、笑ってもらいたいとか。
 ――そういうひとに、なりたいな。
「そっか、楽しいならいいことだね」
「うんっ。ミミおねぇちゃんは? まほうしょうじょになるの?」
「僕? 僕はー……どうしようね?」
「いっしょならたのしいのよ」
「じゃあ、ちょっと考えてみるね」
 うん、と頷いて、終夏が差し入れてくれた水饅頭を食んだ。


*...***...*


「クロエちゃんの魔法少女姿はやっぱり可愛かったな〜♪」
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)は差し入れの水饅頭を食べるクロエに微笑みかけた。
「魔法少女になったって聞いて、絶対絶対可愛いだろうなって! やっしーやちーちゃんと話してたんだよー」
 思っていたとおりだった。衣装も似合っているし、ヒロインショーで活躍する姿もとびきり可愛かった。
「紺侍君が悪役に抜擢されてなかったらいっぱい撮ってもらったんだけどなー」
 残念ながら今日の紺侍は撮影係ではなく、ショーの悪役を演じていたのだ。その紺侍は、今水饅頭に夢中である。甘いもの全般が好きだと、差し入れを受けたときに笑っていた。
「おりがおねぇちゃんは、まほうしょうじょなの?」
 食べ終えたクロエが終夏に問う。
「ふっふっふ……」
 終夏は声を低くして笑った。その様子にクロエがびくりと肩を震わせ身構える。
「何を隠そうこの私も、音楽装置の壊れたところにヴァイオリンを片手に現れ装置の代わりに音楽を奏でて去っていく。魔法少女☆フラジオレット!」
 ぴしり、軽くポーズを取ってみせた。ぱちぱちぱち、とクロエが大きく拍手をする。
「おりがおねぇちゃん、すごい!」
 どうやら素直に信じられてしまったらしい。嘘だとは言い出しづらくなった。
 どうしよう? と笑みを引きつらせていると、
「ふっふっふ……何を隠そうこの僕も! 魔法少女☆ハーモニクス!」
 セオドア・ファルメル(せおどあ・ふぁるめる)も乗ってくれた。
「セオドアおにぃちゃんも、まほうしょうじょ!」
 クロエが驚いたように口を開ける。ふふんと笑い、セオドアが人差し指を立てた。
「そうだよ。僕は紳士系魔法少女なんだ」
「しんしっておとこのひとよね?」
「そこは言ったらだめだよ? お約束というものさ」
 ノリが軽かったせいか、クロエがはっとした。
「うそね!」
「あっはっは。うん、残念なことに僕も終夏君も魔法少女ではないんだ。けど、クロエ君が楽しそうにしていたからね、混ざってみたくなったんだ」
「おりがおねぇちゃんもうそなの?」
「うん。ごめんクロエちゃん、私魔法少女じゃないの」
 本当は、少し前に一度豊美ちゃんの活動を近くで見せてもらったことがあるだけ。
 それでもその時、魔法少女の活躍を見てすごいと思った。
 夢や希望を贈り届ける、素敵な女の子たち。
「憧れちゃうよね」
「ならいっしょにまほうしょうじょ、する? フラジオレット!」
「クロエちゃんと一緒なら、それも面白いかもね?」
 ちょっと、いやかなり心惹かれるお誘いじゃないか。
「終夏さんも魔法少女ですかー?」
 話しを聞いていたらしい豊美ちゃんが会話に混ざる。
「変だよねー、私が魔法少女なんて」
 柄でもないしなーと笑うが、
「いいえー。あの時の演奏はとっても綺麗でしたー。終夏さんが魔法少女だったからなんですねー」
 わりとあっさり認められた。というよりあの時のことも気付かれていたのか。ちょっぴり恥ずかしくなって、はにかむ。
 ぱしゃり。
 音がして顔を上げた。見ると紺侍がにやりと笑んでいる。
「終夏さん可愛かったァー」
「えっ、ちょっ。撮ったの?」
「撮りましたとも。魔法少女なりたての終夏さんを」
「いやいや。私はいいよ。私は」
 慌てて手を振った。だから、柄じゃないんだって。
 くい、と服の裾を引かれたので目線を下げる。クロエが上目遣いで終夏を見ている。
「ならないの?」
 継ごうとしていた言葉が消える。この目は反則だ。
「……クロエちゃんと一緒なら、いいかなぁ?」
 思わずそう言ってしまった。だって、クロエが可愛いから。
「ほんとう?」
 それにこうして嬉しそうに目をきらきらさせるし。
「うん、ほんとう」
 ほだされてしまっても仕方がないじゃないか。
「じゃ、新魔法少女誕生祝で記念撮影しましょ。オレ綺麗に撮りますよー。水饅頭のお礼も兼ねて」
「あれは差し入れだってば。お礼とかいいよー」
「いいんス、オレが撮りたいっつーワガママに理由つけてるだけなンで」
 ああそう、と苦笑しつつ、クロエと並んだ。
「あのね、ハートつくるの」
 クロエが言う。ハート? と首を傾げると、うん、とクロエが指を曲げた。手でハートの形を作ろうというこっとらしい。
「わたしがはんぶん。おりがおねぇちゃんもはんぶん。ふたりでひとつなの」
 にこー、と笑って、クロエ。
 ポーズを取ろうといわれたらさすがに恥ずかしかったけど、これくらいなら全然許容範囲だ。
「えーポーズしないんスか?」
「恥ずかしいよ」
 まだ新米だもんと言い訳して、そのままのポーズを写真に収めてもらった。
「そういえば紺侍君も忍者になるって噂で聞いたけど」
 どうなの? と問い掛ける。黒装束でもないし、手裏剣を携えたりもしていないから見た目には変わりないのだけれど。
「さっきのショーでオレ、悪役やってたんスけど」
「うん」
「身代わりの術を取得してなければ命は危なかったっスね」
 確かに、随分と派手に吹き飛ばされていたのに目立った傷はないし。
「紺侍君は忍者だったんだね!」
「こんじおにぃちゃん、すごい!」
 クロエと二人でぱちぱち拍手。
 けれど紺侍がにっこり笑って、
「さァてどこまでが嘘でしょう?」
 と言ったから。
「嘘なの?」
「秘密っスよ」
 なかなかやるねとセオドアが笑った。
 どこまでが本当でとこまでが嘘かは、笑顔に隠されてついぞわからなかった。


*...***...*


「それではショーでの模擬戦闘も終えましたし、次は実際に街に出てみましょー」
 豊美ちゃんの合図で、魔法少女たちは養護施設を後にする。
 場所を借りたことにしっかりお礼を言って、手を振る子供に手を振り返して。
 実践へといざ向かわん。