天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

地球に帰らせていただきますっ! ~3~

リアクション公開中!

地球に帰らせていただきますっ! ~3~
地球に帰らせていただきますっ! ~3~ 地球に帰らせていただきますっ! ~3~ 地球に帰らせていただきますっ! ~3~

リアクション

 
 
 
 ■ 薔薇園のプールサイドで■
 
 
 
 東京駅のホームを歩き出そうとしたエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)を、秋月 葵(あきづき・あおい)は急いで物陰に引っ張り込んだ。
「葵ちゃん? どうしたんですか?」
「しっ……」
 葵はエレンディラの口唇を指で制すと、目でそちらの方角を指し示した。
 そこにはやはり、葵たちを迎えに来たと思われるSPたちの姿があった。
「去年より人数増えてるし……梓お姉様ったら……」
 大げさな迎えは止めて欲しいといくら言っても、葵激ラブの姉、秋月 梓は何処吹く風と聞き流し。今年の夏もまた、大量の出迎えを寄越している。
「さすがに一般の方も引いてますね……」
「今年こそ、見つからないようにこっそり脱出だよっ」
 苦笑しているエレンディラを引っ張って、葵は東京駅脱出を図った。
 東京駅はまるで迷路。紛れ込んでしまえば見つけるのは難しいはず。
「後はそこの階段を上がればっ……!」
 勢い込んで、階段に足をかけようとする葵の背を、エレンディラがちょんとつついた。
「葵ちゃん、後ろ」
「後ろ、って……ああっ!」
「葵お嬢様、この程度で秋月家の使用人を出し抜くことは出来ませんよ」
 振り返った背後では、一足先に帰省したイレーヌ・クルセイド(いれーぬ・くるせいど)が、ずらりとSPを引き連れていた。
「……また捕まっちゃったよー」
「今回も私たちの負けのようですね」
 葵とエレンディラは今年もまた、リムジンに乗せられて秋月家の私邸へと連行されていったのだった。
 
 
 イレーヌからの報を受け、私邸にはずらりとメイドたちが葵の帰りを待ちかまえていた。
「お帰りなさいませ」
 頭を下げるメイドたちにただいまと声を掛けながら、葵はまず梓に会うために総帥部屋へと向かったけれど、部屋をノックしても反応が無い。
「あれ? 梓お姉様、どこ行ったのかな?」
 葵は梓の姿を捜しつつ、ついでにエレンディラに私邸の施設を説明していくことにした。
「葵ちゃんの家は私の実家より広いですね」
 説明を聞きながらエレンディラは感心する。エレンディラのノイマン家も代々女王に仕えた貴族で、現在はヴァイシャリー貴族として近郊に領地を持っている。決して手狭な家ではないが、葵の家はそれよりも広い。
「よく知らない人が歩いたら迷子になっちゃいそうだよね。あ、エレン、ここが年中薔薇が咲いている薔薇園だよ。お母様のお気に入りの場所だったんだって」
 薔薇咲き乱れる園を葵は手で示した。
「葵ちゃんのお母様の……」
「うん。といってもお母様は私が産まれてすぐ亡くなったから、よく分からないんだけどね……」
 葵がそう言った時、薔薇園横のプールサイドから声がかかった。
「帰ってきたのね、葵。エレンもようこそ」
 見ればそこでは葵の姉、エレンディラにとっては兄の嫁である秋月 茜がプールサイドの椅子に座ってのんびりとくつろいでいた。長身な上、グラビアモデル並みのプロポーションだから、そうしている姿は実に絵になる。
「あ、ごきげんよう茜お姉様。梓お姉様どこか知らない?」
「梓姉ならあの人連れて財団本部へ行ったわ。多分すぐ戻ってくるわよ、だって葵が帰ってきた事知らせたから」
 それより、と茜は葵を手招きした。
「時間もあるからここで泳ぎの特訓していきなさいな」
「別に泳げなくても……それに水着も持ってきてないし……」
 葵が逃げ腰で言うと、茜はメイドに軽く手を挙げて合図した。すかさずメイドが水着を用意し、葵を着替えさせる。どうやら断るという選択肢は葵には無いようだ。
「むー、相変わらず茜お姉様は強引なんだから」
「パラミタは安全とは言い切れない場所だから、泳げないより泳げた方が良いわよ。それに、葵に似合いそうな水着見つけちゃったから着せたかったのよね」
「もうー」
「ああ葵、水に入る前に準備運動を忘れないようにね」
「葵ちゃん、がんばって下さいね」
 エレンディラは泳ぎの特訓をさせられる葵の様子をビデオに撮ったりしながら、忙しくてなかなか会えない兄のことを茜に聞いたりして過ごした。
 
 夕方近くになって、やっと葵は泳ぎの特訓から解放された。
「疲れたよー」
 エレンディラにバスタオルで身体を拭いてもらいながらほっとする間もなく。
「葵、お帰りなさい!」
 飛んで帰ってきた長姉の梓が、バスタオルごと葵を抱きしめる。
「梓お姉様もお帰りなさい……ってそんなにぎゅうぎゅうしたら苦しいよー」
 わたわたともがきながらも、その抱きしめる力に葵は、ああ家に帰ってきたんだなぁ、という感慨をひしひしと感じるのだった。