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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 受け継がれる命 ■
 
 
 
 神奈川県鎌倉市。
 古くから残る寺社と江ノ島の海岸線が広がる街。
 そんな懐かしい故郷の風景を、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)と巡った。
 朱里とアインが契約したのもこの街だが、契約直後は慌ただしく地球を後にしたから、アインはこの辺りのことをゆっくり見て回る余裕もなかった。
 この夏、改めて訪れて、ここが幼い頃の彼女を育てた街なのかと、アインは感慨深く鎌倉を観光して回った。
 
 鎌倉の空気を十分に味わうと、朱里は今は亡き両親と祖母の眠る近所の寺へと向かった。
 墓を綺麗に掃除して花を供え、墓前に手を合わせて故人をしのぶ。そんな朱里の隣でアインもまた手を合わせた。
 
 この墓には朱里の両親と祖母が眠っている。
 幼い頃に両親が事故死して以来、祖母が親代わりとなって朱里を育ててくれた。けれどその祖母も朱里の地元高校入学と同時に病気で亡くなってしまい、朱里は独りぼっちになってしまった。
 身寄りをなくし、決して裕福とはいえなかった朱里は、途端に意地悪なクラスメイトたちの恰好の餌食となった……。
 
 
 その日も朱里は、いじめっ子たちの標的にされていた。
 追いかけられ、逃げるうちに迷い込んだ町外れの小さな神社。
 そこで朱里は、神社のご神体とされていた巨石の中から目覚めたアインに助けられたのだった。
 それこそが、朱里と『機械仕掛けの王子様』との出会い――。
「アイン……助けて。独りにしないで」
 朱里はそう懇願し、アインにすがるように天空の大陸へと飛び立ったのだった。
 
 神社のご神体とされていた巨石は、実はアインが五千年の戦乱で大破し、収容された救命カプセルだった。
 ご神体としてずっと祀られてきたその巨石の中でアインは生死の狭間のまどろみにあった。その間、この街に流れる多くの悲しみの声を聞き、力及ばず救えなかったことを悔やんだ日々。
 そしてようやく目覚め、初めて救った人。それが今のアインの『妻』である朱里だった。
 
 
「お父さん、お母さん、そしておばあちゃん。私、もう大丈夫だよ」
 墓に向かって朱里は語りかける。
「辛いこともあったけど、今はたくさん友だちも出来たし、何より素敵なパートナー、『旦那様』が側にいるから。出来ることなら、生きているうちに花嫁姿を見せたかった。それだけが心残りかな」
 今年の2月、朱里は正式にアインと結婚した。両親や祖母が知ったら、どれほど喜んでくれただろう。
 隣ではアインが、事後報告になってしまったけれどと結婚の報告をする。
「騎士として、夫として、生涯をかけて彼女を守り続けると、あなたたちに誓います」
 迷い無く揺るぎ無く、そう誓ってくれる相手がいるということ、その喜びは何物にも代え難い。
「そして、今ね……」
 朱里はそっとお腹に手を当てて微笑んだ。
「私のお腹の中には彼の子供がいるの」
 妊娠5ヶ月。来年の頭には生まれてくる予定だ。
 ついこの間まで鳴いてばかりだった小さな子が、僅か2年ちょっとで『奥さん』で『お母さん』だなんて、朱里は自分でも不思議だなと思う。
「生んでくれて、育ててくれてありがとう。あなたたちから貰った命は、今、私の中で生きてきて、受け継がれているから。だからどうか、これからも天国で見守っていて下さい……」
 この世のはじまりから続く命のリレー。
 今度は自分がバトンを渡す番だと、朱里は我が身に宿った新しい生命を愛しくも大切に思うのだった。