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リアクション
■ アルバムに眠る思い出 ■
上野駅から移動すること30分。
東京都文京区本郷に長谷川 真琴(はせがわ・まこと)の実家はあった。
家が隣同士の涼介と帰って来ようと思っていたのだけれど、彼の学校はまだ補講中。なので真琴はパートナーのクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)と2人で帰省した。
帰ってきて実家の扉を開けると、夕食の用意をしていたらしく、エプロン姿の母が出てきておかえりなさいと笑顔を見せた。
「ただいま。お母さん、もしかして急いで帰ってきたんですか?」
「そうだけど、どうして?」
「見れば分かります。お母さん、いくらなんでもスーツの上からエプロンじゃ恰好が尽きませんよ」
帰ってきてすぐに夕食の用意に取りかかったのだろう。びしっと決まったスーツ姿の上にエプロンをかけている姿がしっくり来なくてちょっと可笑しい。
といっても、真琴も作業着で過ごすことが多いから、人のことは言えない。そういったところ母譲りなのだろうかと真琴は考えた。
真琴の家は自衛隊のイコン技官である父と母、そして真琴の3人家族だ。
今の真琴がいるのは、そんな両親の影響あってのものなのは間違いない。
「とりあえずに荷物置いてくるから向こうでの話は夕食のときね。あ、そうそう、お互いプロなんだからイコンの話は無しだからね」
真琴が釘を刺すと、母は相変わらずねと笑った。
天御柱学院の整備科で整備班長を任されている真琴だから、こういうところはしっかりしている。
「きっとお母さん譲りなんですよ」
そう言って笑うと、真琴は自室に荷物を置きに行った。
「真琴の両親と会うのはこれで確か3回目だよね」
そのたびメンテナンスさせてくれと言われるのはちょっと苦手だけれど、それを差し引いても真琴の両親のことをクリスチーナは素敵な人たちだと思っている。真琴と同じで、仕事への意識は高いし、何より手を抜かない人だから。
「あ、真琴。アルバム見せてもらってもいいかな」
せっかく実家に来たんだからと、クリスチーナは真琴にアルバムを出してもらうと、それをめくり始めた。
真琴の方は荷物を解きながら、今までに起こったことを振り返る。
この部屋で過ごしていたのはほんの少し前のような気がするのに、天御柱学院に行ってもう1年になる。
季節が一巡りする間に、真琴は様々な出来事と遭遇したが、事あるごとにイコンの整備を行ってきた。そのため、今ではリーダー格の1人として数えられる位の腕前になった。多分、卒業後は整備科の教官を目指して勉強することになるだろう。
それは真琴が自分で決めたこと。
だから後悔はしたくないし、無い。
「さてっと。久しぶりの実家だからのんびりしましょうか」
真琴は足を投げ出すと、のびのびと笑った。
その間アルバムを眺めていたクリスチーナはひとりごちる。
「それにしても、昔の写真あいつとのばかりだね……てことは、なんだかんだであいつの事好きなんじゃないのかい」
小さな頃から涼介がパラミタに行くまでの間、真琴のアルバムには涼介と遊んでいる写真ばかりが並んでいる。
「ま、今となっちゃそれは難しいだろうけどさ」
名字が本郷からフォレストに変わった涼介相手では、とクリスチーナは苦笑する。
けれど真琴にも早く春が来るといい。
その時はみんなでお祝いしよう。
真琴はきっと照れるだろうけれど、茶化して冷やかして大騒ぎして。
そんな日が早く来るようにとクリスチーナは願うのだった。