リアクション
○ ○ ○ 女の子に抱きしめられた時にちょっとしたことくらいしても……いいよね。 そんなことを考えながら薬を飲んだ永井 託(ながい・たく)は、立派な鴉に変身した。 これでは抱きしめてもらえない! でも、これはこれで面白いこと出来たらいいかなと、託は非常に前向きだった。 エッチなことはやれそうもなくて残念だけど……と思いもしたけれど。 自分の首輪の柄を見て、子猫子犬に変化した人たちの首輪も確認して。 この首輪を取ったらどうなるかを、悟ってしまった。 (そう、これを取ってしまえば、人に戻った時は……) すっぽんぽん♪ 真っ裸♪ ということだ。 というわけで、託は自分にとってとっても面白いことを思いついた。 子猫や子犬は飛べない。魔法も使えないようだ。 となれば、首輪を取って空に逃げれば、自分に追いつけはしないのだ! 「カァ〜」 また一つ、子猫ちゃんから首輪をとって足にぶら下げて、託は悠々と空を飛んでいた。 「クカァ!?」 しかし突如、体に痛みを感じて託は空から落っこちる。 「カァァ……」 地面にたたきつけられた後、目を開けると少女の顔が飛び込んできた。 それは、パートナーのアイリス・レイ(あいりす・れい)だった。 「見つけたわよ、託……まったく……人に迷惑をかけて……覚悟はいいかしら?」 (あれ? 僕ということがばれてる!?) アイリスは託が鴉化するところを、たまたま目撃してた。 絶対碌なことはしないだろうと思い、探し回っていたのだ。 そして騒動と首輪を目印に、ようやく発見しバイタルオーラのエネルギー弾で撃ち落とした。 「カア、カアカアカア、カァ(いや、あの、ちょっとしたいたずらで……後で返すつもりだったんだけれど……)」 「カァカァと鳴かれても意味がわからないわよ」 託は必死に言い訳をするが、口から出る声はカアだけだ。 「首輪は預かるわね」 落ちている首輪を大切に回収すると、アイリスはにこにこ託に笑みを見せた――。 「カア……カア(あ、あの……アイリスさん……何か変なオーラが見える気がするのですが……)」 逃げようとする託だが、翼がしびれて動かない。 「たっぷりお仕置きをしないといけないわね」 「カ、カァァァ(やっぱりお仕置きするんですね……あはは)」 ぐわしっ。 アイリスの手が、託の足を掴んだ。そして持ち上げる。 「カァァァ、カァ(ゆ、許してはもら……えません、ね)」 「まったく……いつも懲りないんだからッ」 アイリスはもう一方の手を振り上げた。 ものすごい勢いで、その手は返ってくる。 「カァーーーーーーーーーーー!」 万博会場に、鴉の絶叫が響き渡った。 ○ ○ ○ ペット可のレストランにも、沢山の子猫と子犬の姿がある。 突如。銀色のアメリカンショートヘアーの子猫の尻尾と耳がピーンと立った。 棚の下に、キラリと光るものがある。 その光めがけて、子猫は突進した。 ズボッ! 「わ、わわん! わんわん!」 すぐに気づいた、茶色の豆柴犬の子犬――と化した鬼院 尋人(きいん・ひろと)が駆け付けて吠える。 「わうんわううっ(さ、さっき嵌ったばかりなのに、また!?)」 「にゃーん、にゃ……(正体は小銭だったか。で、出られない)」 子猫は棚と床の間に挟まってしまい、身動きが取れない状態になっていた。 ちなみにさっきは壁と棚の隙間に挟まってた! その時は、一緒に居た早川 呼雪(はやかわ・こゆき)と力を合わせて救出したのだけれど、呼雪はやることがあるからと、パートナーと先に出て行ってしまった。 尋人達は、タシガンの薔薇にいるエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)達と合流し、保護してもらうつもりだった。 「わん、わうん(オレが守らないと……守るんだ!)」 尋人達は、レストランで食事中に何故か動物化してしまったのだ。 慌てたのは尋人だけで、一緒に即時をしていた天音や呼雪は冷静に見えたけれど……。 「わうーーん」 尋人は顔を隙間に突っ込んで、天音を極力傷つけないように首のあたりを噛んで、引っ張り出した。 「わうわう(はあはあ、よかった)」 と思ったのもつかの間。 「ニャワーンニャー」 子猫は子供の靴下についていたボンボンにじゃれついている。 「あ、猫ちゃんだ。にゃんにゃん」 喜んで子供が飼い猫用の猫じゃらしをゆらゆら揺らす。 「ニャン、ニャン」 揺れるハンドタオルに興味津々。子猫は手でちょんちょんタオルに触れたり、掴もうとしたり転がったり。 「わ、わう(既に、ネコ化に馴染んでるっ!? むしろ猫としか思えない)」 そして、その仕草はとにかくかわいい。 「はうー(黒崎はやはり猫になっても綺麗だ……)」 尋人は子猫をうっとり眺める。 「……! はうわんっ(いかん、見とれている場合じゃない)」 天音は構ってくれた子供についていってしまいそうだ。 「わううっわううっ(だめだよ、はぐれたらどうするんだ!)」 急いで駆け寄って、尋人は天音の尻尾を咥えて、引き戻そうとする。 「ニャアーン(まだ左のぼんぼんの感触を確かめてないんだ)」 「わうううー(全く、いつもの冷静な黒崎はどうなったんだ!?)」 天音は抵抗するが、尋人は尻尾を放さない。 暴れる彼の尻に、尋人の頬が振れた。 「わ、う」 思わず、尋人は顔を赤らめる。 途端。 「ニャン」 子猫のキックが炸裂。子犬の顔に決まった。 「ううーわううっ(……それでもオレは……黒崎を守る! たとえ一生わんこでも!)」 そう決意している間に、子猫は先ほどの子供の元にジャンプ。 再び猫じゃらしにじゃれつく。 その様子は、本当に嬉しそうで、本当に気持ちよさそうで。 「そんなに気に入ったのなら、これあげるよー」 子供は猫じゃらしを天音に譲ってくれた。 「ニャ、ニャ、フー」 ハァハァ息をしながら、天音は尋人の元に戻って来た。 「ニュー(どうやら人間の姿なら理性で抑えてる好奇心が仔猫じゃ抑えられないみたいだね。意外と危険だな)」 心の中では、そう冷静に分析しているのに! 「ニャー!」 珍しい物が目に留まった途端に、人間の思考で考えるより早く、また突撃してしまう。 「わうわうー(黒崎ー。そっちは危険!)」 「ニャーン!」 今度は通路に落ちていた金メッキのボタンに突撃! 歩いていた壮年男性が天音の上に足を下ろそうとする。 「わーん、わん(黒崎を守るんだ!)」 尋人が飛び込んで、子猫を突き飛ばし、代わりに尻尾を踏まれた。 「ぎゃうん」 「ニャ、ニャーン!」 ちょっと心配そうなそぶりを見せた子猫だが、次の瞬間には人間の足にぶつかりながら、別のゴミに突撃! タシガンの薔薇は果てしなく遠い。 ……隣なのに。 ○ ○ ○ 「えれんママ、大変なの! あおいママとアレナさんがネコさんになっちゃったの」 秋月 カレン(あきづき・かれん)の腕の中で、ふさふさな尻尾のメインクーンがにゃあにゃあ声を上げている。 その薄茶の毛の、蒼いリボンの首輪をした子猫は、秋月 葵(あきづき・あおい)。 ひっそり掃除に勤しんでいたアレナを手伝い、一緒に休憩をとっていた葵は、アレナと一緒に「ご自由にどうぞ」と書かれた無料のドリンクを飲んで、一緒に猫になってしまった。 驚いたアレナは、飛び出していってしまい、葵はパートナーのカレンに保護されていた。 「にゃーにゃー(いったい何が……どうしよう?)」 「困りましたね……」 飲み物を買って戻ったエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は、とりあえず葵を受け取って、そっと抱きしめて、なでなで。 (しかし……子猫になっても葵ちゃんは可愛いですね) 「カレンもなでなでするのー」 カレンも手を伸ばして、葵の頭をいいこいいこしていく。 「にゃーん、にゃー……にゃあん」 撫でられているうちに、葵は気持ちよさに我を忘れていく。 「ね、このあたりネコさんやイヌさんが沢山いるの……もしかしてあおいママと同じなのかな?」 「そうですね。動物化する薬を配布している展示があるという噂も聞きましたし……おそらくそれでしょう。うーん」 エレンディラは葵を撫でながら思案し、右肩にぶら下がっている使い魔の黒猫『リベル・レギス』に、葵と会話をさせてみる。 エレンディラ達にはにゃあにゃあとしか聞こえないけれど、2匹の間では意思疎通は成立するようだ。 使い魔とエレンディラは勿論、子猫も葵だと解っていれば、工夫をすれば意思疎通は可能なのでどうにかなりそうではある。 「とりあえずアレナさんを探しましょう」 「うん、ネコさん沢山いるからどの仔かわかるかな?」 カレンはきょろきょろ周りを見回す。 「にゃん、にゃにゃ(首輪で分かると思う。動物達に見なかったか聞いてみるね)」 葵はエレンディラの腕の中からぴょんと下りて、通路を歩く猫達に尋ねに走った。 |
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