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【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記

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【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記
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「あ、首輪をした鴉が建物の後ろに向かってるわ」
 リードを持って、2匹の子犬と共に万博会場を歩き回っていた蓮見 朱里(はすみ・しゅり)は、不自然にパビリオンの後ろへと下りていく鴉を見た。
「ワン(任せろ)」
 ドーベルマンが小さく吠え声を上げる。
「お願いね。私もすぐに行くから」
「クゥン(大丈夫ですぅ。ゆっくり来てくださいねぇ)」
 もう一匹の犬、パピヨンも小さく声を上げた。
 言葉は分からずとも、何を言っているのかは大体わかる。
「ここをまっすぐ行ったところよ。多分動物化した仔がいるはず」
 無理が出来る体ではないので、朱里は2匹――薬で子犬に変身したアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)ハルモニア・エヴァグリーン(はるもにあ・えばぐりーん)に先行を任せて、自分は超感覚であたりに注意を払いながら、ゆっくりと建物の後ろへと向かっていく。
 わんにゃん展示場で、万博会場内に子犬と子猫の姿が多い理由を聞いた朱里は、誤って薬を飲んでしまった人も多いのではないかと考えた。
 そういった人を1人でも多く保護するため、犬化したアイン、ハルモニアと一緒に捜索をしている。

「ワウン! ワンワン」
 ドーベルマンと化したアインは、パビリオン裏のゴミ捨て場の傍に、子猫の姿を発見した。
 その子猫めがけて、鴉が下降してくる。
「ワンワンワンワン!」
 大きな声で吠えて、アイン犬は子猫に駆け寄る。
「にゃーん!」
 子猫はアイン犬、そして迫る大きな鴉に気づきゴミの後ろに隠れる。
「カアアーカアアアー!(大人しくしてりゃ、優しくしてやったのによ! 代わりにお前の毛、毟ってやるぜ)」
 鴉はアイン犬に向かってきた。
「ワンワンワン!(お前のような奴には、何一つ渡しはしない!)」
 アイン犬は子猫を背に、鴉の前に立ちふさがって吠える。
「くぅーん、くん(大丈夫ですよう。しばらくしたらもとに戻れますからねぇ)」
 その間に、パピヨンと化したハルモニアが、子猫へと近づいていく。
「ニャーン!(なんか突然姿が変わってしまって。私、人間なんですっ)」
 子猫は震えながら、ハルモニア犬にそう言った。
「くーん、くぅん(猫や犬に姿を変える薬を、提供している展示があるんですぅ。飲んだ時にやましいことを考えていると、鴉になってしまうらしくて〜)」
 優しい鳴き声でハルモニア犬は丁寧に子猫に状況を説明していく。
 数時間で戻れることや、襲ってくる鴉も、毛を欲しがっているだけだから、こういう場所より、人のいる場所に出ていた方がいいということを教えていくと、子猫は落ち着いていくのだった。
「カー、カアー!(そんなちっせぇ体で何が出来るってんだよ、よこせ!)」
「ウゥゥ、ワンワンワン!!(きちんと反省するまで、そのままの姿でいろ)」
 爪で傷つけられても、アイン犬は決して退かず、吠え続け、背後の子猫を守り続ける。
「クーン、ワン!(今です、走りますよぉ)」
 アイン犬が鴉の注意をひきつけている隙に、ハルモニア犬は子猫と共にゴミ置き場から飛び出した。
 そして、朱里の方へと走る。
「クゥワン! ワワン! ワン!!(去れ。それとも、ゴミ袋の中に入るか!?)」
 アインも朱里の方に走り、子猫と朱里を守りながら、激しく吠える。
「カ〜ッ!(くそう、方法変えるかっ)」
 ついに、鴉は諦めて飛び去っていった。
「……アイン、怪我してるわ」
 朱里の心配そうな声が響く。
 気づけばいつもとは違う感覚があった。
 傷ついた肌から、血が流れている。
「ワン、ワン(心配はない。こうしておけばいいのだから。それより、その仔の治療を)
 ちょっと不思議に思いながら、アインは自分の身体を舌でなめてみる。
 動物たちがよくそうしているように。
「ワン、ワン!(頑張りましたね〜。怖かったですねぇ)」
 ハルモニアは子猫の身体を撫でてあげた。
「にゃーん(ありがとですー)」
 子猫はほっとしたような声をあげる。
「ちょっと汚れてしまったようだけれど、怪我はしていないようね」
 朱里は子猫を抱き上げて、怪我がないことを確認する。
 それから、歴戦の回復術で皆をいやしていく。
「アインも……生身の身体だから、疲れたでしょ?」
「ワン(大したことはない)」
 アインは機晶姫だ。疲れの感覚もいつもとは違う。
 少しだけ戸惑いながらも、朱里の優しい手当てで身も心も癒されて。
 空を見上げてまた、鴉の動きを見ていく。
「もうすぐパレードが始まるそうだから、保護した仔達はそちらに預けて欲しいそうよ」
「ワンワン、ワン(そうか。人が集まる場の方が安全だろうな)」
「ええ」
 人の言葉は喋れずとも、朱里にはアインが何を言っているのか、理解できていた。
 保護した子猫を優しく撫でた後、朱里は可愛らしい姿になっているパートナー達に微笑みを向ける。
「それでは、行きましょ」
「ワン(ああ)」
「クゥーン(行きましょー)」
 朱里はリードを再び手にして。
 警戒を続けながら、パレードの開始場所へとゆっくり歩いていく。

○     ○     ○


「尻尾にこの赤いリボンを付けてほしいです〜。お願いしますぅ」
 わんにゃん展示場で、きちんと説明を受けて薬を貰った神代 明日香(かみしろ・あすか)は、リーアに赤いリボンを渡して、変身した自分の尾に結び付けて欲しいとお願いをする。
 リーアは快く引き受けてくれて、明日香はパートナーに電話を掛けた後、意気揚々と薬を飲んだ。
 それから……。

「明日香さん、お忙しいそうですね……」
 明日香のパートナーの神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)は、もう一人のパートナーのノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)と共に、パラミタのパビリオンの前で待っていた。
 明日香は展示の手伝いをしているそうだ。代わりに子猫と一緒に万博を回ってほしいと先ほどの電話で言っていた。
「しかしなんで子猫なんでしょう……あ、あの仔のようですわね」
「にゃあーん」
 赤い首輪をした真っ白い子猫が、近づいてくる。
「可愛い子猫ですね。でも一応、注意しておきませんとね」
 言って、ノルン(ノニエル)は、ディテクトエビルで探ってみる。
「ふむ……この仔も、この仔の周りにも特に害意などは感じられません。問題ないでしょう」
「にゃーん、にゃあにゃあ」
 子猫はノルンと夕菜にすりよって、じゃれつき始める。
「ふふ、可愛らしいですわ」
 夕菜は子猫を抱き上げて歩きはじめる。
「おにゃまえはにゃんというのですか。どこに行きたいかにゃ?」
 にゃん語で、ノルンは子猫に訪ねてみる。
「にゃー、にゃー」
 子猫は可愛く声を上げながら、夕菜に腕にじゃれついている。
「そうですか。アイスクリームが食べたいのですね! 私もちょうどそう思っていたところです。早速買ってきましょう」
「ノルンさん、アイスもいいですけれど、逸れないように注意してくださいね。人が多いので、見つけるのは大変ですわ」
「問題ありません。アイスが一緒ですから」
 言って、ノルンは大好物のアイスクリームを求めて駆けていってしまう。
「もう……確か、未来のパビリオンの傍でアイスを売っている方がいましたから、そちらに間違いないでしょう」
 アイスクリーム屋から離れないだろうと思い、夕菜は子猫を可愛がりながら、慌てずに後を追う事にする。
「尻尾のリボンも首輪も赤なのですね。それよりは」
 夕菜はふと、思いつきポケットの中から大きなリボンを取り出す。
「こっちの方が可愛いですわ」
「に、にゃん!?」
 途端、じゃれていた子猫がぴょこんと飛上り、夕菜の手から逃れようとする。
「どうしたのかしら? 大丈夫ですわ、より可愛くなるだけですもの」
「にゃあああん」
 夕菜は子猫を押さえつけて、首輪をリボンに交換してしまう。
 首輪の方はブレスレッドのように自分の手にかけておく。
「どうしたの? よしよし」
 じたばた暴れている子猫を撫でながら歩き、アイスクリーム店の傍まで到着すると。
「アイスクリームもう1つ! 今度はクッキークリームアイスがいいです!」
 ノルンがスタッフに元気のアイスを注文していた。
「ノルンさん、どうかしら?」
 アイスに夢中になっているノルンに近づいて、夕菜は手の中の子猫を見せる。
 首には首輪の代わりに、夕菜の大きなリボンが結ばれている。
「にゃ〜、にゃ〜(斯く斯く然然)」
 子猫は何かを必死に訴えている。
「んー……」
 アイスを食べながら、ノルンはじっと子猫を見て。
 こくこくと頷く。
「にゃー(解ってくれましたかぁ)」
「猫さんの言っていることは解りませんが、夕菜さんのつけてあげた首輪が気に入ったと言っている気がしています。すごく喜んでいるみたいですね!」
「にゃにゃーーーーーん!(ちがーーーーう)」
 子猫が喜び?の声を上げた。
「それは良かったです。やんちゃな仔のようですね。お仕事中の明日香さんには面倒みきれなかったのでしょう。よしよし、ですわ」
 ぎゅーっと夕菜は子猫を抱きしめる。
「にゃんにゃーん!」
 ペンッ。
 子猫の猫パンチが、夕菜のふくよかな胸に炸裂。ぽよんと胸が揺れた。
「にゃーーーーっ(また胸大きくなってないですかぁッ)」
「大人しくしていないとだめですよ。暴れない暴れない」
 言って夕菜は動きを封じる為に、ますます強く抱きしめる。
「にゃあーん(押しつぶされるー、なんか屈辱ですぅ……)」

 その後も、子猫は抵抗を続け、ついには夕菜をひっかき始めた。
「いたっ」
 だけれど、夕菜の手から逃れた後も、子猫は逃げようとはしない。
 夕菜の腕に嵌められている首輪にジャンプをしてぶら下がったり。
 夕菜のスカートの中や服の中に逃げ込もうとする。
「きゃあっ。そんなところで暴れないでくださいっ」
 懐に入り込んだ子猫がもぞもぞと動き、夕菜はくすぐったさに、しゃがみこんでしまう。
「どうやら、夕菜さんの胸が気に入ったようですね」
「にゃにゃーんっ(ちがーうってばっ)」
 ノルンの言葉に、夕菜の胸の中で、子猫が悲しげな声を上げた。
 次の瞬間。
「……!?」
 夕菜の胸の中のものが、大きく膨れ上がる。
「え、ええーっ!?」
「にゃ、やーーーーーーーん」
 白い子猫が、明日香に代わっていく。
 夕菜の服が破けて、明日香の白い背が露わになっていく。
「明日香、さん? 離れ……いや、離れないでください……っ」
 服の前が破けてしまった夕菜は必死に明日香を抱きしめる。
「ノルンちゃん、助けてください〜。こんな姿見られたら、もうお嫁にいけないですぅ。だから、お嫁を貰うしかないです〜っ!」
 明日香はパニックを起こして変なことを叫んでいる。
 彼女の体には、リボンが巻き付けられていて、辛うじて大事なところは見えない。
「えっと……。とにかく、冷静になった方が……」
 ノルンも訳が分からなくて、とりあえずこういう。
「そうです、アイスを食べて頭を冷やしましょう。買ってきます!」
 そしてダッシュでアイス屋にまた走って行ってしまった!