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ぼくらの刑事ドラマ

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chapter.12 楽屋 


「一列に並べ」
「は……」
「ごちゃごちゃ言わんと、はよ並べや!」
 今回の演劇でハメを外しすぎた人たち、そして連帯責任ということで他の役者も、全員が企画者のハマー刑事に呼び出されていた。当初は楽屋で叱責するつもりだったが、人数が多く入りきらないので急遽先程まで使っていた会場を引き続き使っているのだ。
「まずお前や」
 ハマーが最初に目を付けたのは、前説をやっていた菫だった。
「あたしが何か……」
「何かやあるかい! おまえ防犯促す気ゼロやん! 逆にそそのかしてるやん! あと隣のお前や」
「お兄さんですか?」
「うるさいわ。爽やかな言葉使うなや」
 バシンと頭をどつかれたのは、クドだった。
「お前なんやペドって。そんな単語子供たちの前で出してええ思とんのか」
「だって小学生がお兄さんを呼んでいたから……」
「だからまずい言うとんやないかい! 次、お前らや」
 続いて前に進まされたのは、第1部を演じた終夏と円、ロザリンドらだった。
「お前ら舞台で、何て言うとった?」
「……刑事わんこです」
「ビニール袋デカって」
「か弱い乙女デカと」
「なんやねん! お前それパクっとるやん。割とモロにパクっとるやん」
「いや、こっちは冬子さんであっちはミハイ……」
「もうお前喋んなや! そんでなんや? ビニール袋デカ? え、なんでお前それかぶってん?」
「これは百合園の名に恥じないように……」
「思いっきり100均の袋やん。あかんやん。最悪もうちょいええ袋使えや。そんでなんやねんお前は」
「か弱い乙女……」
「どこがやねん! もう誰もお前につっこめへんようやから言うたるわ。この全身鎧のどこがか弱いねん!」
「か弱いから、これを着てですね……」
「か弱い女はこんな重いもん着れへんわ!」
 次にハマーが睨んだのは、2部の出演者、ハデスと牙竜だった。
「お前ら何やっとった?」
「秘密結社とヒーローを……」
「これ防犯のための劇って聞いてるはずやん! なんでデパートの屋上でやっとるようなもん始めてんねん」
 まあでも百歩譲って子供ウケは良かったからええわ、と早々に切り上げ、次のターゲットへハマーは移った。第3部の出演者、歌菜と春美、詩穂らである。
「次はもういよいよ分けわからんことなってるな。ひとりひとりやった役言ってみい」
「魔法少女デカを……」
「怪盗スプリングビューティー」
「アイドル詩穂ちゃんの役を」
「なんやねんお前ら! 刑事ドラマ見たことないんか!? そんな役出てこおへんやろ普通!」
 怒られてる最中も彼女たちの衣装がそのままなのが、ちょっと切なかった。ハマー刑事は、引き続き4部に出た生徒たちを引っ張りだした。
「もうここは全員出てこいや。まずお前らふたり、何しとった」
「イチャイチャしてました」
「だって、イチャイチャデカっていうことで……」
「家でやれや! ほんでお前は?」
「わ、私は普通の婦警だったもん! ちょっとスカートは短かったかもしれないけど……」
「それや! 余計なアレンジ加えんなや! あとお前、劇中になんかアピールしとったやろ。ミニスカートはいたら何しても許されるわけちゃうねんぞ! そしてお前らや」
「俺らは普通に取り調べの劇を……」
「そっち、何デカって言うた?」
「同じセリフを2回言うのは、あまり好きじゃないかな」
「いいから言えや! 何かっこつけとんねん!」
「……BLデカって名乗ったけど、まずかったかな?」
「まずかったかな、やあらへんわ! 逆になんでセーフやと思ったんや!」
 ハマーはハァハァと肩で息をしながら、5部についても触れていった。
「あとお前ら途中で時代劇とかやっとったな。完全にもう防犯イベントってこと忘れとるやろ」
「そんな! 俺たちは公的権力の偉大さを……」
「出てへんかったやん! 悪代官のシーンがメインだったやん! お色気シーンとかいらんねん!」
 そしてハマーのテンションはピークに達し、6部の生徒たちが怒られた。
「6部も大概やったなあ……なあお前」
「俺はこういったものに必要な殉職シーンというものを……」
「せめて戦場で死ねや! 完全にコントやん! 芸人目指しとるんか!? あとそこの不良っぽいの」
「あ? なんだよ」
「お前よおあの舞台であんなこと言えたな。怖いもの知らずか! 探偵なら劇内のことを推理しろや!」
「探偵じゃねえよ。元ヤン名探偵だ」
「うるさいわ! 真実はいつもひとつ、みたいな顔して言うのやめろや! あとお前ら全員や」
 呼ばれたのは、空京警察の面々だった。
「防犯のためのイベントや言うてんのに、何普通にサスペンスドラマやっとんねん! 学園祭でやれや!」
 一通り叱り終えると、ハマー刑事は「今回のイベントは、依頼失敗いうことで評価させてもらうからな」と辛らつな言葉を告げた。
 とはいえ、それなりに盛り上がりも見せていた上、会場付近で生徒たちがのぞき魔を撃退したという知らせも入っていたので、それらを加味した結果、クレームを各学校側に送るまではしないことにしたようだった。
「増多とかいう元教授はパンツ一枚でやらしいことしとる時事故に遭って病院に搬送されたらしいし……やっぱりアレやな、もっといろんな犯罪者に対する警戒を強めて捕まえていかんとな」
 そういうことで、今日はもう疲れたから帰るわ、とハマー刑事が踵を返す。その時だった。彼の服から、ぽとっと何かが落ちた。
「あれ、何か落ちましたよ?」
 生徒のひとりが近づいて拾おうとすると、ハマーは尋常じゃない速さでそれを拾おうとした。
「いや、ええねん。自分で拾うからええねん」
 明らかにその態度は、怪しかった。生徒たちは不審に思いわらわらと集まると、ハマーの体を強引に動かした。
「こら、何触っとんねん、やめ……」
「あら……」
「うわ……」
 そこに落ちていたのは、女性用下着だった。
 最近空京では、卑猥な事件が多い。卑猥な事件というのは、何も痴漢や露出だけを指すわけではない。下着の盗難などだって、当然それに含まれるだろう。
「いやちゃうねん、これはちゃうねん。近所の庭に落ちとったから、遺失物扱いで……」
 今まで散々汚い言葉を浴びせられ続けた彼らの声が、その瞬間揃った。
「捕まんのは、お前だろ!!」


担当マスターより

▼担当マスター

萩栄一

▼マスターコメント

萩栄一です。初めましての方もリピーターの方も、今回のシナリオに参加して頂きありがとうございました。

今回「過度な下ネタは禁止」とガイドで書いたのですが、それを前フリと思われた方が多かったのか、
あまりに暴れた方が多かったため、急遽まったく予定になかったツッコミキャラを登場させ、
暴れた方々には最後にまとめてお叱りを受けてもらいました。
せっかくなので、演劇中にツッコミ不足気味だった方も下ネタの有無に関わらずお叱りを受けてもらいました。
依頼としては完全に失敗なのですが、リアクションとしては予定になかった面白さが生まれたため、
成功と個人的には思っております。
想定していた結末と実際のオチがここまで離れたのは、もしかしたら初めてかもしれません。
最後のページ、とても楽しく書かせて頂きました。皆さんのお陰です。ありがとうございました。

今回の称号は、MCLC合わせて3名のキャラに送らせて頂きました。
ちなみに称号の付与がなくても、アクションに対する意見などを個別コメントでお送りしているパターンもございます。

次回のシナリオガイド公開日は10月上旬に出す予定です。
詳しく決まりましたらマスターページでお知らせします。
長文に付き合って頂きありがとうございました。また次回のシナリオでお会いできることを楽しみにしております。