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魅惑のタシガン一泊二日ツアー!

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魅惑のタシガン一泊二日ツアー!
魅惑のタシガン一泊二日ツアー! 魅惑のタシガン一泊二日ツアー!

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4章
1.

「ここ、コーヒー農園のガイドは俺様だ。ネタの仕込みはOKっすから、理事長も校長も泥船に乗ったつもりで安心してるといーッす!」
 にっこり笑顔で宣言したのは、南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)だ。……のわりに、結局徹夜でも覚えきれなかったのかはたまた緊張か、あんちょこはポケットからはみ出しているし、目も若干血走っていることは、ジェイダスもルドルフも見ないふりをしてやった。
 薔薇のドレスシャツをひらひらとさせながら、光一郎はハイテンションで農園の説明をはじめる。
「ここはタシガンでも高地にあたる場所で、霧と雨が多く気温も低め、なのでコーヒーの栽培に適しているわけだ! コーヒーってのは、暑さに弱くて寒さにも弱い、デリケートな植物ってことだ。ま、そういうわけでこのへんは高地で空気も薄いから、キミと夜明けの珈琲を飲みたいなとか、愛を語っていたやましいお前らども! 運動不足や寝不足でコンディション悪いと大変なことになるから、思い当たるフシがある連中はマジ先生や俺らガイドに事前に言っとけよ。俺様引き金は軽いけど口は固いと思うから大丈夫ですよ、たぶん」
 お前らども! のあたりで適当に光一郎が指を指すと、生徒達から笑いがおこった。……もっとも数名は、複雑そうに下を向いたりもしたのだが。
「でぇ、この斜面にそって、一面に生えてるのがコーヒーの木ってこった。あの赤いのがコーヒーの実な。まさかあの茶色いのがそのまんま木に成るとか思ってねぇーな? ま、いーや。この奥で、植樹もできっから、希望者はついて来いよー」
 この農園では、秋はコーヒー豆の収穫期にあたる。作業にあたる人々が、黙々と新豆を収穫する様を見学しながら、半数ほどが光一郎の後に続いた。残りの半数は、しおりを片手に自由に見学をはじめたり、早速カフェへと向かったりと、様々だ。
 光一郎はなにやら企んでいるようだが、後ろを歩くオットーとしては、気が気ではない。
(農園のガイドをするという殊勝さに心打たれてついてきてみれば、光一郎よなんなのだこの脳炎っぷりは……。夏にヴァイシャリーでナンパに失敗したとは聞いていたが、以来スベるのが治らず今日も難破気味なのだろうか心配で、それがし頭が痛いわい)
 昨夜に引き続き、なにやら災難の予感しかしないオットーである。
「へぇー コーヒーの実ってこんな感じで生るんだ〜」
 秋月 葵(あきづき・あおい)が驚きの声をあげ、ルドルフを見上げた。
「あの赤い実のなかの豆を焙煎すると、コーヒー豆になるんだ。最初は緑色でね」
「そうなんだ! てっきり豆っていうから実は鞘に入って生ると思ってたよ〜♪」
 ルドルフの説明に、葵が楽しそうに笑う。葵と手をつないで一緒に歩いているエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は、葵の無邪気な笑顔に目を細めている。
「赤い色が綺麗だよね〜」
「そうですね。滅多に見られませんし、良かったですね」
「うん!」
 長いツインテールを揺らして、葵が頷いた。
「たしかに、街中では見られない光景ね。改めて見るけど、コーヒー作るのって手間暇かかるのね」 しおりをちらちらと読みながら、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が感心したように呟く。
「そうね。そういえば、植樹もしてみるの?」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が尋ねる。
「せっかくじゃない。一緒にやろう? そしたら、この先コーヒーがタダで飲めるわよ」
「そういう意味じゃないと思うけど……」
 セレアナはやや呆れつつ、苦笑を浮かべた。
 そうこうしているうちに、カフェテラスの脇に、むきだしになった畑の一区画に辿り着く。どうやら、ここに植樹ができるらしい。
「さて、ここに植樹をしてもらうわけだけど、まぁ、みんな知ってるとは思うが、パラミタでは世界中と国家神が揃って、はじめて国として認められるっつーわけで、たかが植樹、されど植樹。俺様も、俺様の世界樹を植える!」
「……なにを言ってるんだ光一郎」
 オットーが突っ込み、周囲はやや引き気味だ。だが、光一郎は止まらない。
「国家神はもちろん俺様。ほらほら、コーヒー色のすべすべお肌ですよ?」
 ここぞとばかりに薔薇のドレスシャツをはだけると、きゃあ!と葵が悲鳴をあげる。
「葵ちゃん!」
 咄嗟にエレンディラが、葵を背中に庇った。
「今ならキミだけのエロいヤルガイドになってあげてもいーんだぞ!」
「なっとらーん!!」
 はっはっはと響く高笑い。脱ぐといって、黙っている変熊仮面では無い。
「真に美しさを示すのならば、ほれこの通り! 全てを脱いでこそ……って、おい、なにすんのっ!」
 変熊の言葉が途切れたのは、ルドルフの指示により、リア・レオニス(りあ・れおにす)レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)が変熊を取り押さえたためである。
 なお、光一郎はついに色々切れたオットーが押さえつけた。もっともそうでなければ、セレンフィリティに迫った光一郎は、セレンフィリティとセレアナの二人がかりで地面に沈められていただろう。
「…………」
 ぽかんとした一同に、ルドルフがごほんと咳払いをした。このままでは薔薇の学舎は、全裸推奨学園と思われてしまいそうだ。
「その、失礼した。さぁ、お嬢さんがた、この大地に新たな緑を息づかせてやってくれ」
 ルドルフはなんとかそう微笑むと、植樹体験を仕切り直すことに成功したのだった。
「俺様の世界樹が〜〜!!」と、光一郎の声が、遠く空しく響いていた……。

 植樹を終え、せっかくだからカフェに寄ろうとセレンフィリティがセレアナを誘った。だが、セレアナはあまり気が進まない様子だ。
 先ほど、セレンフィリティがいつものように大ざっぱに樹を植えようとする時は、「もっとしっかり植えないと根付かないわよ」と注意しつつも、ちゃんと手伝ってくれたのだが。
「ねぇ、どうかした?」
「……やっぱり、そのビキニがいけないんじゃないの?」
 ため息混じりにセレアナが言う。「え?」とセレンフィリティは自らの格好に目を落とした。いつものように、メタリックブルーのトライアングルビキニ、その上にロングコートを羽織った彼女の姿は、たしかになかなかに扇情的だ。ちなみにセレアナにも同じビキニを薦めたのだが、どうしてもと抵抗され、セレアナはシルバーのレオタードを着ている。
 つまりどうやら、セレアナは、そんな格好で男子生徒の前にいるから、先ほどのように襲われかけたりするのだと心配をしているらしい。
「そんなに怒らないでよ」
 セレンフィリティは苦笑しつつ、セレアナを見つめた。植樹を終えて、ほとんどの参加者はもうカフェテラスに移動している。ここには、二人だけだ。
「もう少し、こうしてようか?」
 高地のせいか、ひんやりと寒いのも事実だ。セレンフィリティは「ちょっと寒いね」と良いながら、セレアナの腕に自分の腕を巻き付ける。触れあった肌の部分が、ほんのりと暖かい。
「もう……」
 セレンフィリティのこんな大ざっぱで気まぐれなところには困ることが多いけれども、そんな彼女だから惹かれて、離れられないという自覚も、セレアナにはある。
(そういえば、珈琲には中毒性もあるっていうわね……)
 刺激的で、だから離れられないもの。セレアナにとっては、この恋人もそんな存在なのかもしれない。
「なーに?」
 不意に微笑んだセレアナに、セレンフィリティが小首を傾げる。
「なんでもないわ。……珈琲、飲みに行きましょうか」
「そうね。でも、その前に……」
 セレンフィリティが微笑む。そして、二人の唇が、互いに惹かれあうようにして、そっと重なった。



「うんっとぉ、どうしようかなぁ」
 カフェに併設されたお土産売り場では、葵が可愛らしく悩んでいた。その様をビデオカメラにおさめながら、エレンディラが「どうしました?」と尋ねる。
「お土産、どれがいいかなぁって。イングリットちゃんたちに頼まれた分と、でしょ、それに百合園の友達や静香校長の分でしょ〜、あとコーヒー好きなお姉さまの分も買いたいし♪」
 どうやら、葵は様々なブレンドを前にして、悩んでいるらしい。基本的にはこの農園の豆は二種類あり、焙煎の度合いや調合のバランスで、味わいは異なる。
「試飲もできるようですし、実際に味わってみては?」
「そっか、そうしてみよ!」
 エレンディラのアドバイスに従って、葵は側におかれている小さな紙コップを手に取ると、くいっと口に運んだ。……が、すぐに、ぎゅっと顔をしかめてしまう。
「匂いは良いけど…凄く苦いよぉ…」
「葵ちゃんには早すぎたようですね」
 その様もまた可愛らしく、エレンディアは微笑むと、ミルクと砂糖を店員に頼んでやった。たっぷりミルクと砂糖が入ると、ようやく葵の口にもあったようだ。
「ん、甘くなったら、美味しいかも?」
「気に入りました?」
「うん!」
 ミルクコーヒーというより、完全なコーヒーミルクを飲みながら、葵は口元を綻ばせる。その口元を、エレンディラがハンカチで拭った。
「今度は皆一緒に来たいですね。きっとあの樹も、大きくなっていますよ」
「うん、楽しみだね〜。あたし、自分の樹で作ったコーヒー、絶対飲むんだ〜♪」
 そのときのことを想像し、葵は嬉しげに両手をあわせた。