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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

リアクション

「なんか偉い賑やかな具合になってきたわねえ」
 伏見 明子(ふしみ・めいこ)は、缶蹴りの会場とやってきた恐竜騎士団他いろいろを交互に見回した。
 元々自分達の縄張りでもあるため、この辺りの土地や環境は把握済みだ。
 そのため、こういう事態になっても特に驚くことではない。大荒野の民は単一の共同体を形成しているわけでもないのだ。今の恐竜騎士団の団長なら、それぞれ現場の裁量で何とかしなさい、と言うだろう。
 それがこの状況である。まあ、一度負けて貸したんだったら、メンツがあるとはいえこういう見苦しい真似はあまりして欲しくないものだ。とはいえ、そもそもがエリュシオンで騎士を名乗る資格のない荒くれ者の集まりだったのだから、仕方ないといえばそうなのだが。
 しかし、さすがに数が多い。いくら神や「できる」奴は限られるとはいえ、この人数が三々五々バラバラに突っ込んできたら、全部止めるのは難しい。
(何人かは手が離せない様子だしねえ)
 すぅ、と息を吸って叫んだ。
「パラ実の伏見 明子だ! 名を上げたい奴は掛かってきなさいッ!!」
 クライハヴォック。
「伏見 明子……まさか、新団長に勝った、あの!?」
 現恐竜騎士団長であり選定神にもなったラミナ・クロスに勝った人物とあらば、恐竜騎士団でその名を知らぬ者の方が少ないだろう。
「び、ビビッてんじゃねぇ! 行け!」 
 敵の流れが明子に向いた。
 まずは向かって来る者達を引きつけ、誘導する。
(恐竜乗りは全体の三分の一程度ね。他はまあ適当に蹴散らせるからいいとして……神がいたら面倒よねえ)
 正規の恐竜騎士団以外は、単なる取り巻きに過ぎない。
 そっちは適当に梟雄剣ヴァルザドーンでも振り回してれば倒れてくれるだろう。
 しかし、明子が直接手を下すまでもなく、迸る電撃によって彼らは地に倒れ伏した。
「まあ、こんなものじゃろう」
「やり過ぎよ、アン。感電死させたらどうするの」
「何、これでも加減はしておる。お主こそ、気をつけるのじゃ。サフィー」
「分かってるわよ」
 五機精のアンバー・ドライサファイア・フュンフだ。彼女らが流れの一部を引き受けた。
「さて、あとは……」
 自分の正面に残った連中だ。
「わお、絶景」
 見事に正規の恐竜騎士団員ばかりが残っている。
(生身なら生身であることを生かさないとねー)
 さすがに真正面から戦うのは、さすがの明子でも厳しい。そのため、地の利を生かすことにする。
 荒野であるため、風化具合はまちまちだ。それによって生じる高低差を最大限に利用する。
 丘の上からヴァルザドーンのレーザーを騎手に向かって狙い撃った。
 次いで、剣を地面に振り下ろして砂を巻き上げる。その煙幕を利用してレーザーを撃ち、すぐに移動。相手が自分の姿を見失った隙をついて、ソニックブレードを繰り出す。
(この程度の強さなら、あの主催者にやられたのも納得がいくわ)
 缶蹴りの主催者は、確かに強力な武器を持ってはいるが、飛び抜けたものはないように見受けられた。恐竜騎士団とはいえ、末端の方はこんなものなのだろう。
 どうやら、神はこっちには混ざっていないようだ。

* * *


「ありゃー、すっごい人数だー」
 鳴神 裁(なるかみ・さい)、厳密には彼女に憑依した物部 九十九(もののべ・つくも)は声を上げた。
 恐竜の数こそ極端に多いわけではないものの、それでも一人で戦うには多過ぎるほど敵が集まっている。恐竜十五、その他推定五十以上。
 しかも状況が悪いことに、ちょうど五機精も新撰組もここまで駆けつけることが出来ない。
『あれは、カルノタウルス!』
「知っているのか、ドール?」
 九十九に纏われたドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が博識の知識を元に告げた。
『ティラノサウルスより一回り小さい獣脚類の恐竜で、名前の意味は「肉食の雄牛」。とあるスピなんとかさんの映画の原作の方では、皮膚にも視覚を持っていて、カメレオンをはるかに超えた水準で背景に合わせ体色を変えることが出来るって書いてあります』
 が、それはあくまでフィクション上の設定である。
 とはいえ、ティラノサウルスくらいに危険な恐竜であることに違いはない。
「とりあえず、あっちの相手は後回しだね」
 だが、何とかここで引き止めておく必要がある。それこそ、恐竜を缶蹴りのフィールドを入れたら(恐竜が)大変なことになってしまう。
「風の動きを捉えきれるかな?」
 とにかく、相手の注意を自分に引きつけつつ、確実に倒していくしかない。
 特技の陸上競技を生かして、スタートダッシュを行う。そこにバーストダッシュの勢いを追加。さらに、軽身功で身軽になった。
 なおパスファインダーによって、荒野でも自在に駆け巡れる状態になっている。
 ただ、あまりの勢いにむしろ止まることが許されない。反動が身体に来ることになってしまうだろう。もはや止まると死ぬマグロである。
 超人的肉体と、筋力安定のための脚部へのサイコキネシスによって、それでも身体への負担は大分軽減された。
 行動予測で相手の動きを察知し、
「そこだ!」
 敵に囲まれないように、油断している敵相手に蹴りを行った。
 一人が攻撃を受けると、そこに注目が集まる。それを利用して、隙を見せた相手の懐に飛び込み、さらにハイキック。
 ヒットアンドアウェイ。すぐに敵から離れつつ方向転換を行う。
「ドラゴンアーツ組み込んでるから遠距離でも攻撃できるじぇ☆」
 右足で踏み切って体を半回転ほどさせたら、空中で左足の上を右足で飛び越え、蹴りを繰り出す。540度キックである。これにより、騎乗している相手に直接ダメージを与えた。
 右足で着地するとすぐに地を強く蹴り、移動を開始した。
「加速☆」
 さらにゴッドスピードで加速。
「空を走ってる……だと?」
 敵の一人が驚愕していた。
 飛行系の能力を持っているわけではないが、そう見えるらしい。地面に着地すると同時に跳躍をしているのだが、その動作の流れが速すぎるのである。
 恐竜の上から、槍が突き出された。
 しかし、それをミラージュを展開することでかわした。
「残像だッ☆」
 バーストダッシュで跳躍して歴戦の防御術で受身。ランディングからロールを行う。ちょうど眼前に岩場があったため、それを利用することにした。
 壁にぶつかる、と見せ掛けて壁を蹴り上げ、宙返りして敵の背後に回り込む。ダブルウォールフリップだ。
「く……見たことねぇ動きしやがる。契約者め……!」
「え、これ? どっちかというとぱんぴーの動きだよ?」
 とはいえ、パルクール・フリーランニングを極めた者は契約者が誕生する以前にも「お前ら人間じゃねぇ!」と言わしめるレベルなので、一般人の動きかと言うと疑わしいものがある。どのくらいかというと、忍者や中国雑技団もびっくりするほどの動きだと言えば分かりやすいかもしれない。
「契約者なら平均台の上でサマソ連発ぐらい出来ないとね〜☆」
「いや、さすがにそれは無理ありますよ!」
 ドールが突っ込みを入れる。
 口で言うは易いが、わずかでも動きがズレると自滅しかねないため、余裕振りながらも一切の油断は出来ない。
「こんな邪道な戦い方をする奴の相手、するだけ無駄だ。突っ切れ!」
「なぁにぃ? 小娘一人相手に尻尾を巻いて逃げるのぉ?」
 九十九が挑発した。
「なんだとォ! 上等だゴルァ!!」
 元々血の気の多い人達だ。
 こう言われたら引き下がれなくなるだろう。
 後は缶蹴りが終わるか、味方が来るまでかき回してやるだけだ。