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3)三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)

三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)は、地球の番組に出演するにあたり、
両親たちのことを思った。
のぞみの実家は、ミッション系女子校の運営を行っている。
今回の「トッドの部屋」出演は、
これまでの契約者としての、パラミタでの活動を、
親たちに伝える良い機会だと、そう、考えていた。

「ようこそ、いらっしゃいました」
トッドさんが、のぞみに紅茶を勧めてくれた。
お茶請けのお菓子はスコーンだった。
おやつが大好きなのぞみは、心遣いに笑顔になった。
(なんだか、優しい親戚のおばあちゃんみたい)
おばあちゃんみたい、は、実際に言ったら失礼かなあ。
現役の女優さんだもんね。
そう、考える。

「のぞみさんは、ある方のご主人様だそうですけれど、
それってどのようなご関係なのかしら」
トッドさんの質問に目を丸くするのぞみに。
「レディーのたしなみとして、相手のお名前はあげずに詳しく話してくださらないかしら?」
トッドさんはウィンクした。
似た言葉遣いの知り合いの笑顔が、トッドさんの顔にだぶって見えた。
のぞみは、穏やかな微笑を浮かべ、きりりと背筋を伸ばした。

「あたし達は幼馴染みです。
誕生日も近いから、生まれたときから一緒に居たと言っても過言じゃないでしょう。
同じ学校で学び、卒業することを繰り返して、
それだけなら、あたし達の道はいつか分かれていたのかも知れません」
胸の、紅いガラスのペンダントを、きゅっと握りしめる。

「まあ、じゃあ、イルミンスールに入学したのは、
幼馴染みのお二人で相談されたの?」
「いえ」
のぞみは軽く首を横に振った。
「あたし達は、それぞれの理由でパラミタ行きを決めて、それぞれの冒険をして、
前みたいにずっと一緒に居るって事はなくなりました」
イルミンスール魔法学校の生徒として、
契約者としての冒険で、別々に行動することも多かったけれど。

「だから、あたしの幼馴染みが他の誰かにお仕えするって未来も思い描いたし、
それよりもあたしが主になろうって決意することが出来たんです」
のぞみは前を見据える。
画面の向こうで見守ってくれているだろう、お互いの親達に、
大切な幼馴染みに、しっかり想いが伝わるように。

「もしかしたら黙っていても、三笠の家の執事を継いでくれたかもしれない。
だけどそうじゃなくて、あたしの執事になって欲しかった。
あたしの選択で。
あたし達の決意で、それを決めたかった。
紆余曲折というか、やっぱりいろんなことはありましたけど、
それでも、今、あたし達は、ここでつながってます」
のぞみは、心臓の上に手を当てて言った。
一緒に触れたペンダントの冷たさが、心地よかった。
相手にとって、別の何かが、自分よりも大切になってしまうのではと、
そう考えたこともあった。
でも、それは杞憂だと気づいて。
想いを言葉にして届けることで、すれ違いは乗り越えられるのだと、
今ののぞみは、知っているから。
だから、二人の約束を、きちんと、お互いの親達にも伝えたかったのだ。

「主従、って言ってしまえば一言ですけど、結構複雑な関係なんですよ」
「たしかに、そうよね。
もっと詳しく伺いたいけれど……」
「でも、これ以上は秘密にするのがレディーのたしなみ、です」
のぞみは、真面目な顔で、トッドさんの言葉を繰り返す。
そして、二人は、ふふっ、と同時に笑った。

のぞみと、大切な幼馴染みの約束は、
電波に乗って、公のものとなり。
きっと、これからも、その絆を強めていくという、決意の宣言になるに違いなかった。