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6)七瀬 歩(ななせ・あゆむ)

七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は、
緊張しつつも、自分にできることをやりたいと決意していた。
(こういうので地球とパラミタの融和が図れるのかも。頑張らなきゃ!)
「歩ねーちゃん、しっかりね」
パートナーの七瀬 巡(ななせ・めぐる)が、
友人たちと一緒に、観覧席から応援してくれる。

歩は、背筋を伸ばして、トッドさんの前に立った。
「こんにちは。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。
さあ、こちらへどうぞ」
(ちょっとラズィーヤさんに似てるかなあ)
もちろん、違うところの方が多いし、
年齢も外見もかけ離れてはいるのだけれど。
トッドさんを見て歩はそう思い、少し、緊張がほぐれたのだった。

「歩さんは百合園の模範的なお嬢様のように見えますけれど、
他の方に対して、
『リア充爆発しろ!』みたいな黒い感情が芽生えたりはされないのかしら?」
「ええ?」
トッドさんの質問が突拍子もないものだったので、
歩は黒い瞳を見開いた。
「ちょっと想像がつかないので逆に気になったの。
ぜひ、詳しく聞かせてくださらない?」
トッドさんはいたずらっぽく笑っていた。
「黒い気持ちですか……。
うーん、トッドさんが言うのとはちょっと違うかもですけどありますよー」
「まあ、たとえば?」
身を乗り出すトッドさん。
「最近だと、えっと、
同じ百合園生ですごく仲の良い子に最近恋人ができて、
それでちょっと寂しかったっていうか……。
うーん、嫉妬なのかなぁ?
友達関係でもそういうのってありません?」
「たしかに、あるかもしれないわね」
うなずくトッドさんに歩は続ける。
「そんな気持ちにちょっとなってたりとか。
ただのわがままだって言うのはわかってるし、
もちろん上手く行って欲しいなぁとは思ってるんですけど、
構って欲しいって気持ちもあるんです」
くすっと笑みを浮かべる。
「その子のことが大切だから、
独占欲っていうのかな、そういうのが生まれちゃうことがある気がして。

でも、それ以外で他の人が仲良くしてるの見て嫉妬したりはしたことないかなぁ。
むしろ幸せそうなの見てると、微笑ましく思えたりしません?
見ててちょっと恥ずかしいかもって思うことはありますけどね。
どちらかって言うと、
そういう風に『リアジュウシネー』って言ってる人は
照れ隠しなんじゃないかなぁってあたしは思ってます」
「まあ、歩さん」
トッドさんは驚いたように言った。
「わたくしが伺ってる以上に、いい子で……。
それに、けっこう大人なのね?」
「ふふ、ぜんぜんそんなことありませんよ。
でも、ありがとうございます」
歩は微笑を浮かべて言った。

「では、
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)さんから、
百合園女学院に在籍する皆さんへの質問です。

あなたにとって百合園女学院の校長、桜井静香様をどのように思っていますか?
また、そのパートナーであるラズィーヤ・ヴァイシャリー様をどのように思っていますか?
一寸曖昧なので補足すると、
公人、或は私人としての静香様やラズィーヤ様をどう思ってるか、ですね」
歩は紅茶のカップを両手で抱えて少し考えた。
「静香さんとラズィーヤさんについてかぁ……」
ゆっくりと、歩は口を開く。
「静香さんはやっぱり百合園のアイドルなんじゃないかって思います。
他の学校の校長先生たちと比べたら、
特別すごい肩書きとかないのかもですけど、
その分距離も近くて付き合いやすいんじゃないでしょうか。
感覚も庶民的だから、お茶会の席とかでも話題の種に困りませんし」
大切な人達の話をする歩は、幸せそうだった。
「静香さんはこの番組に出演していただきましたけど、
たしかに、お話しやすい方でしたね。
では、ラズィーヤさんは?」
「ラズィーヤさんは、お姉さんって感じでしょうか。
えっと、他にもお姉さんっぽい人沢山いるんですけど、
難しいことを裏ですごいしてて、
それでもあたしたちには優しいってところが。
たまに弄られたりしますけど、
それがラズィーヤさんの気分転換になってれば良いなぁって最近思ったりもしますねー」
「なるほど、お二人は
百合園生の皆様に愛されてらっしゃるようですね」
トッドさんは、歩の穏やかな表情を見て言った。

「では、続いて、
出演者全員に、
国頭 武尊さんから。

契約者になる前は、地球で普通に学生やっていて
争い事なんかにゃ無縁だった人も居るだろうから敢えて聞くけどよ。
やっぱ、契約者になってその活動期間が長くなると
人を傷つけたり、時には殺めたりする事に、
抵抗感や不快感を持たなくなるのかね。
すっげぇ答え難い質問だと思うから、無視してもらっても構わないぜ。

……とのことです」

「そんなこと、ないです」
歩は、ふるふると首を振った。
「戦うの怖いし、話し合いで収まらないかっていつも思ってます。

ただ、ここにいて思うのは、戦わない人は無力なことが多いってことです。
戦わないと大切な人を守れない時って確かにあると思うんです。
だから、戦ってる人をひとまとめに非難はしたくないです。
質問した人もそういう人を非難してる訳じゃないと思うんですけどね」

「ええ、あなたがた契約者が、
無力な方のためにどうあるべきかを自分で決断する、ということね?」
トッドさんに、歩はうなずいた。

「……あたしたちはちょっと不思議な力が使えます。
だから、見てて不安になることもあるかもしれません。
でも、皆悩んだり恋したり。普通の学生です、何も変わんないです」
にっこりと、穏やかな笑みを、歩は浮かべた。
それは、朗らかな、年頃の少女らしい笑みだった。

「今日は皆さんにパラミタのこと伝えられて良かったです。
ありがとうございました」
「こちらこそ、どうもありがとうございました」
歩はぺこりと一礼し、トッドさんもお礼を述べた。

「立派だなあ、歩ねーちゃん」
巡が言い、観覧席の友人達もうなずいた。
「最初に申しあげたとおり、
歩さんは百合園の模範的なお嬢様でしたね」
トッドさんが締めくくった。
会場から拍手が巻き起こった。