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リアクション
第23章 ずっと大事に
「さすが高級ホテルね。サービスが行き届いている」
李 梅琳(り・めいりん)は、ホテルのレストランで食後のエスプレッソを飲みながら感心していた。
「うん、来てよかったね」
橘 カオル(たちばな・かおる)も、美味しい料理を堪能した後の一時を、のんびり楽しんでいた。
……ように見せかけて、彼は色々裏で動いていた。
今も心臓がどきどき高鳴っている。
ホテルに着いてからは温水プールで水泳を楽しんで。
汗を流した後、マッサージをしてもらい。
土産を見て回って、友人達への贈り物を決めた後で、豪華な料理を食べて。
今、二人は至福の時を過ごしていた。
「それじゃ、そろそろ部屋に戻ろうか」
「そういえば、あれ持ってきた?」
「あれって?」
「パジャマよパジャマ!」
「うん、勿論!」
二人は顔を合わせて、笑い合う。
このホテルの宿泊券は、春に福引で当てたのだ。
その時、教導団の金団長から、彼が当てたものを貰っている。
それは可愛いペアのパジャマだ。
「パジャマ姿のあなたの写真とって、お土産と一緒に渡さなきゃね」
「ええっ!? それはちょっと……」
梅琳の言葉に、カオルは少し慌てる。ふざけて団長の機嫌を損ねたら大変なことになりかねない。
梅琳は冗談よーなどと言いながらも、携帯電話でカオルと撮ろうとする。
「そんなことしたら、オレはメイリンの超特大パジャマ姿、部屋に貼っちゃうぞ」
「あはは、それは恥ずかしいかも」
明るく笑い合いながら、二人は部屋へと戻った。
カオルは一歩後ろに下がり、自然と梅琳が部屋のドアを開けた。
「え……」
ドアを開けた梅琳の表情が一瞬にして変わる。
カオルに向けてきたのは、驚きの表情。
「なんか、凄いことになってる」
「うん、そうだね」
カオルが笑みを浮かべて答えると、それがカオルの仕業なのだと梅琳は気付き。
何時もの、大人びた表情へと戻る。
部屋の中には、床一面に薔薇の花束が敷き詰められていた。
薔薇の絨毯を歩いて、先に梅琳が部屋の中へと入る。
その後から部屋に入ったカオルは、クローゼットへ近づいて、ホテルマンに入れておいてもらった、赤い薔薇を取り出した。
そしてもう一つ。小さな箱も。
「メイリンのこと前から好きだった。
付き合ってからは、もっと好きになった。
これからもずっとメイリンのことを大事にしたいと思う」
カオルは薔薇と、箱の中の――高価な指輪を、メイリンに差し出した。
「……だから、オレと結婚してください」
「……」
突然のことに、梅琳は驚いて。
とりあえず、差し出された薔薇を受け取って。
指輪のことは目を瞬かせながら、ただ見ていた。
カオルはそんな彼女の手を取って、薬指に指輪を嵌めた。
「メイリンが大好きだ」
彼の突然の、いつにない真剣な言葉に。
少し梅琳は考えたようだったけれど。
表情を軽く崩したかと思うと、自分の左手の薬指を見て「無理しちゃって」と、声を上げた。
カオルの給料三か月分の指輪だ。
「そうね、いつかはしたいわね」
そして、そう微笑んだ。
カオルはたまらなくなって、梅琳をぎゅっと抱きしめる。
「ちょっと早いのもわかってるけど。この先いつ何があるかわかんないし……もし、メイリンがよければ、今よりもっと絆を感じていたい」
「どんなふうに?」
そう尋ねた梅琳の口を、カオルは自分の唇で塞いだ。
梅琳はカオルの背に手を回して、キスと抱擁と、彼の熱い愛情を受け取る。
唇から、首筋へ。
カオルはキスの雨を降らしていく。
「……パジャマ、着れそうもないわね」
梅琳は愛しげに、ずっと彼を抱きしめていた。