天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【2021クリスマス】大切な時間を

リアクション公開中!

【2021クリスマス】大切な時間を
【2021クリスマス】大切な時間を 【2021クリスマス】大切な時間を 【2021クリスマス】大切な時間を 【2021クリスマス】大切な時間を 【2021クリスマス】大切な時間を

リアクション


第25章 愉しませて

 ヴァイシャリー近郊のホテルの一室で、緋桜 ケイ(ひおう・けい)はささやかなクリスマスパーティの準備を進めていた。
 グラスは2つ。食器類も2組ずつ。
 そう、2人だけのクリスマスだ。
 テーブルの上にはミニツリーを飾り。
 部屋にもわずかながら、飾り付けをしておく。
「本当は親しい友人をもっと沢山誘いたかったけど、さすがに今日はそれぞれに都合があるみたいだからな」
 呟きながら、ケイは持ってきた料理を並べる。
 招待している相手、メニエス・レイン(めにえす・れいん)は、色々な事情が重なって、イルミンスール魔法学校に戻ってきていた。
 歓迎していない生徒達ばかりだが、ケイは彼女と分かり合いたいと思っていた。
 いつか皆もそうなって、彼女にとってまたイルミンスールが『帰るべき場所』になってくれればとも思っていた。
「こんな日なら、メニエスの心に少しでも触れることができるかもしれないから」
 クリスマスケーキを用意しながら、ケイはそう呟いた。
 ――コン、コン。
 部屋のドアがノックされる。
 次の瞬間。ケイが開けるより早く、ドアが開き。
「鍵、かってないのね」
 メニエス・レインが姿を現した。

「綺麗な、街並みだな。ここも、いい都市だよな」
 部屋に招いたケイは、メニエスを窓辺に誘った。
 外にはイルミネーションやライトアップで彩られたクリスマスのヴァイシャリーの美しい街並みが広がっている。
 まだ、完全に日は落ちておらず。
 その美しい街並の奥に――メニエスは百合園女学院を見た。
 校長の桜井静香のことを思い出す。
 静香に銃を向けた時の事。その時の反応。
 攫ってからのこと。
 たまらなくなって逃げて。
 それでも、静香は自分を連れ戻そうとしていて……。
 だが、その手を掴むことはなく。
 自分を静香の元に連れて行こうとした者達を、静香を、メニエスは拒絶した。
「……エス、メニエス? どうかしたか」
 苦虫を噛み潰したような表情で外を見続けているメニエスに、ケイが声をかけた。
 過去の記憶に囚われていたメニエスが、我に返ってケイを見る。
「……貴方は、どうなの?」
「メニエ……!?」
 突如メニエスは鋭く激しい勢いで、乱暴にケイを壁に押し付けた。
 ガチャンと音を立てて、テーブルに並べられていた料理が弾け落ち、グラスが床に転がった。
「な……」
 驚くケイの首を、逃げられないように掴みながら。
 メニエスは闇術を唱えた。
「あ……ぐ……っ」
 そして、苦しんでいるケイに顔を近づける。
「地球人はどいつも自分の身に危険が及べば本性を表すわ。所詮欲に目が眩んでこの地に来るような人種。貴方もそうでしょう?」
 ケイが答えるより早く、メニエスは次の言葉を口にする。
「あたしが好きなんでしょう? あたしの為なら何でもできる? ほら、答えないと大変なことになるわよ」
 再度闇術を、先ほどより威力を強めて放った。
 ケイは苦痛に顔を歪めながら、口を開く。
「メニエス……本当に『好き』なら、相手の言いなりになったり、こうやって無理やり相手を従わせるようなことはしない。……確かに俺にも醜い部分もある。たぶん、『人間』なら、誰にだってあるものだと思う。……でも、そういった部分も受け入れて、互いに助け、支え合い、共に歩もうとするのが本当に好き合う者同士の姿なんじゃないか?」
 苦しげに、ケイは言葉を続けていく。
「……だから、俺は、メニエスを受け入れるよ。自分の意思で。俺に出来ることなら、何だってしてやるつもりだ」
 メニエスは無言で睨みつけたまま、首を掴んだ手を緩めることなく聞いている。
「……あ、でも、悪いことはなしだぜ?」
 ケイはそう精一杯強がっておどけて。
 それから、真剣な眼差しを彼女に向ける。
「メニエスは、一体何を求めているんだ? ……俺に、どうしてもらいたいんだ?」
「なら……」
 メニエスがケイに顔を近づける。
「あたしを愉しませて」
「!?」
 次の瞬間、彼女はケイの首に噛みついた。
「メニエス……っ」
 そして、彼の血を吸う。
 苦痛、そして眩暈がケイを襲う。
 心を、奪われてしまったら――。
 自分の心で、彼女を助けることも、支えることも、共に歩もうとすることもできなくなってしまう。
「無理やり、相手を従わせても……意味はない。こんなことをしなくても、俺は自分の意思で……」
「ええ、貴方の意思で愉しませて」
 メニエスは首を掴んでいた手を襟の下へ。
 もう一方の手を彼のウエストから服の中へと滑り込ませた。

 彼女は今日。自分の誘いに応じてくれた。
 誘わなかったら、きっと一人で過ごしだのだろう。
 街に溢れた人々は、家族や、恋人や、友人と楽しい時間を過ごすのに。
 こんな日、だから。
 彼女の心に少しでも触れることが出来るかもしれない。そう思ったから……。
 ケイは抵抗はしなかった。

 だけれど、彼女が求めるままに、動いても。
 彼女に心を開かせることは出来ないことはよく解っている。

 抵抗はしない。
 だけれど、真に愉しませてあげることは――出来なかった。