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【2021クリスマス】大切な時間を

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第30章 最高のプレゼントを貰いに

「メリークリスマス! って遅すぎたかしらぁ?」
 夜更け。部屋のドアを開けた桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)は、突然の来客に驚く。
「ふふ、御機嫌よう桜谷鈴子様。貴方のサンタクロースでぇす」
 彼女の名前は、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)
 白百合団団長の鈴子の部下であり、友人だ。
「プレゼントは……この間渡したので!」
 などと言いながら、リナリエッタは鈴子の部屋へと入っていく。
 彼女が纏っているのはナイトウェア。
 化粧をしておらず、いつものツインテールも解いていた。
「リナさん? 若い女性が、こんな時間に、そんな格好で出歩いたらダメですよ」
「出歩いたらダメって……ここ百合園の寮だから問題ないでしょぉ。うわぁ」
 綺麗に整理された部屋だった。
 本棚には、料理や手芸、小説、歴史書、学術書、魔道書と、さまざまな本がつまっており。
 机には、教科書とノートが置かれている。勉強していたらしい。
 その他に、桐の箪笥に三面鏡。掛け軸に日本人形なんかも置かれている。
 化粧品や服が散らばっている自分の部屋とは違う、日本女性の部屋にリナリエッタは思わず感動してしまった。
「でも、今まで街で遊んでいたのでしょ?」
 吐息をついて言いながら、鈴子はリナリエッタに座布団を勧めて、茶を淹れる。
「そうねぇ、今日はヴァイシャリー中、色々なパーティーがあって面白い一日だったわぁ」
「そのまま、イケメン男性の家に泊まってしまわないだけ、良かったのかしら」
 鈴子はリナリエッタの向かに座って、自分の湯呑にも茶を淹れていく。
「ふふ、鈴子さん、甘いですわぁ」
 リナリエッタはにやにやといつもの笑みを浮かべる。
「ディナーを共に、とかホテル用意しているからとかそりゃ散々この時期には沢山お誘いが有りましたぁ」
「……」
 何か言いたげな目で、鈴子はリナリエッタを見ている。
「でも、特別な雰囲気を作らないと女の子を引っ張れない、って感じの奴ばっかで……」
 男運が悪いのか、リナリエッタが付き合ってきた男は、そんなヘタレな男が多かった。
「そんなイケメンなんてこっちからお断りと毎年クリスマスはあえて一人で過ごしているんですよぉ」
 独自のイケメン論を語ると。
「鈴子さんはどうやって彼氏と過ごしますか?」
 茶を飲みながら、リナリエッタは鈴子に訊いてみる。
「学生のうちは、レストランで一緒に夕食をいただければ十分です。ケーキ付のコースがいいですわ」
 学校を卒業した後は。
 相手の家で、相手の家族とも過ごせたら最高だと鈴子は言う。
「クリスマスは2人だけで過ごすよりも、大勢で過ごした方が楽しいと思います」
「パーティーとかいいですよねぇ。でも今みたいな時間は? どんな夜をくれるお相手がいいのかしらぁ〜」
「静かに、過ごせるといいですわね。こうしてお喋りして過ごすのもいいですけれど」
「勉強して過ごすよりはるかにいいわよねぇ」
「そうですわね。……今日はもう、勉強は終わりにして。眠りましょうか」
 泊っていきますか? という鈴子の問いに。
 リナリエッタは勿論と答えた。そのつもりで来たから。

「ライナと一緒に寝る時は、布団を敷いて寝ているんです」
 畳の部屋に、布団を2組敷いて。
 鈴子とリナリエッタは並んで布団に入った。
 布団に入った後も、パートナー達の話や。
 百合園女学院の行事。
 白百合団の事。
 七不思議の話とか。
 他愛もない日常や、噂話をして。
 眠りについていく。
 2人はプレゼント交換をしなかったけれど。
 リナリエッタにとって、これが今年のクリスマスの最大のプレゼントだった。
 誰からもらった物よりも、ずっと嬉しくて、ドキドキ胸の高鳴るプレゼント。
 白百合団の団長でもない、白百合の乙女でもない。
 ただの『桜谷鈴子』の寝顔を見ながら、眠れるということが。
(イケメンと過ごすより、何十倍も……)
 眠りに落ちる鈴子を見ていたリナリエッタも、彼女の隣で深い眠りに落ちていく――。