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リアクション
■ 懐かしき旧友と ■
時計に目をやってみると、まだ時間に余裕がある。
さりとて何かここでやっておかねばならないことも、特にやりたいことも思いつかず、ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)はただぶらりとスペインの街中を歩いて時間を潰した。
パラミタに行ってしまうと、なかなか地球に帰ってくる機会はない。
実家に近い見知った場所であるはずなのに、帰ってくるたびどこかが変わっている。
真新しい雑貨屋を見つけ、前はここに何の店が建っていただろうかとルファンが思い出そうとしていたとき。
「ルファンじゃねぇか! ひっさとぶりだなー!」
その背にやたらと元気な声がかけられた。
振り返るまでもなく、その声でもう相手が誰だかルファンには分かる。
「ウィル、久しいな。息災であったか?」
答えながら振り返ればそこにはやはり、ルファンの昔の同級生のウィルソン・レクサーがいた。
茶色の短髪も明るい青い目も、ルファンの記憶しているウィルソンそのままだ。
「へ?」
ルファンの言葉が良く聞き取れなかったのか、きょとんとするウィルソンにルファンは言い直す。そう言えばウィルソン相手に老人口調は伝わりにくかったんだと思い出しながら。
「ウィル、久しぶりだな。元気だったか?」
「あ、ああ。お前こそ、パラミタでどうしてるかと思ったけど、元気にやってるみたいだな」
「まあ何とかな」
ウィルソンとは親しかったから、こうして偶然にも出会えたことは嬉しい。
今はどうしているんだと、2人は互いに近況を報告し合った。
ウィルソンは現在、大学を目指して勉強中だと話した。
熱血で陽気なウィルソンだが、将来は医者になるんだという夢を見据えているしっかり者の一面もある。
そんなウィルソンなら着実に夢への階段を上って行くことだろう。
ルファンが今はパラミタにいるのだと言うとウィルソンは驚いた。
「別の学校に行くとは聞いてたが、まさかパラミタだったとはなぁ。で、あっちはどんなところなんだ?」
パラミタでのルファンの近況に面白そうに耳を傾けた後、ウィルソンは家のことを聞いてきた。
「ルファンとこの家族は良いのか?」
「まあな……。報告はしたし、今のところはこれが限界だろうな」
ルファンの家は代々軍人を輩出してきた家系だ。その中で、言動や外見共々許し難いものだということで、ルファンが幼い頃から家庭内はあまり良い状態とは言えなかった。
そこにパラミタ行きの一件がより一層拍車をかけて、険悪とまではいかないものの、不安定なのは事実だ。
本当は色々と話したいことも無くはないのだが、軍人である父や兄にわざわざ時間を割いて貰うのも気が引ける……という事で、今回の帰省も日帰り予定だ。
「俺がとやかく言うことじゃないけどさ。無理だけはするなよ。お前ん家の人、少なからずそう思っているだろうから」
ウィルソンはルファンの家庭内の事情を知っている。本人達のことなので口を出してくることはないけれど、心配してくれているのだろう。
「何とも有り難い事じゃのう」
「え、何?」
聞き返すウィルソンにルファンはただ笑みを向ける。
表だって礼を言うのは照れてしまうけれど、地球とパラミタに離れていても途切れない、ウィルソンとの縁に感謝をこめて。