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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~
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 第9章 お茶会でひとときを2 〜バレンタイン、の意味〜

「おおっ、ケーキだ!」
 近くにある噴水だろう、ささめくような水流の音が微かに聞こえる部屋の中で、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は1人の少女と対面していた。出生的な事情でまだまだ世間知らずな少女。男性が苦手な彼女は、だがイーオンのことは信頼しきっているようで躊躇いなく接している。
 ケーキに目を輝かせている少女を見て、来て良かった、と彼は思った。甘い物が好きそうだとは感じていたが、それは当たっていたらしい。
「故郷の祝い事の日でね。キミにもおすそ分けをと思ったんだ」
「祝い事! そうか、それはおめでたいな!」
 日頃の感謝にお茶会を、と予定を尋ねた先日、少女はなんのてらいもなく空いていると言い、楽しみにしている、と返してきた。そしてこの反応を見るに――やはり、彼女はバレンタインを知らないらしい。
「この花束ももらっていいのか? ん? このカードは……」
 そこで、少女は「?」という顔になった。ケーキと一緒に持参した花束。そこには『貴女のバレンタインより』というカードが挿してあった。抜くのは憚れると思ったのか、彼女はそのまま腕を組んで首を傾げる。
「どういう意味だ? おまえはバレンタインという名ではないだろう? ……はっ! ま、もしかしてこれ、別の誰かのものなんじゃないのか!? それを間違えて持ってきたとか……うわあああああ! た、大変だあああああ!」
 何だかパニックを起こしてしまった。イーオンは急いで彼女の名を呼び、落ち着けと繰り返す。
「大丈夫だ、これは、確かに俺が買ってきたものだ。プレゼントだよ」
「?? で、では、このバレンタインというのは……」
「それは、帰る時にでも説明するよ」
「そ、そうか? それじゃあ……いただきます!」
 イーオンがケーキを切り分けて渡すと、席に着いた少女は嬉しそうにフォークを使い、口へ運び始めた。
「うまい! うまいぞイーオン!」
 少女の笑顔を嬉しく思いながら、彼も共にケーキを食べる。背は伸びたか、とか髪が伸びてきたんじゃないかとか聞く度に、少女はきょとんとして「そうか?」と言った。頭に手をかざしてみたり、銀色の髪を摘んでみたり。
 ゆるやかに、平和な時間が流れていく。

「バレンタインというのが、故郷の祝い事の呼び名なんだ」
 約束通り、帰り際。今日は楽しかったぞと見上げてくる少女に、イーオンは言う。
「愛する者へお菓子や、花束を贈るという行事だ」
『お?』というようにぽかんとする少女を残し、彼は部屋を出た。
「待たせたな」
 ドアの前で待機していたセルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)にそう声を掛け、2人で廊下を歩いていく。
「愛する、をどう取るか……楽しみだよ」
 黙々とついてくるセルウィーへなのか独り言なのかそう呟いた時、遠く背後から「うわああああああああ!?」という声が聞こえた気がした。