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雪花滾々。

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雪花滾々。
雪花滾々。 雪花滾々。

リアクション



6


 ピュリア・アルブム(ぴゅりあ・あるぶむ)の母、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)は外に出られない。
 つい最近生まれたばかりの赤ちゃん――ユノがいて、ユノの身体を気にしなければいけないからだ。
「赤ちゃんにとっては、ちょっとした風邪でも命取りなんだって」
「赤ちゃんって大変なんだなー」
 共に外で遊んでいた黄 健勇(ほぁん・じぇんよん)に話しかけると、彼は雪を集めながら呟く。
 だよねー、と雪だるまを作るピュリアに、
 ぼすんっ、
 と雪球が命中した。
「いえーい! 命中!」
 楽しそうにガッツポーズをする健勇に、ピュリアは頬を膨らませる。
「ちょっとー、お兄ちゃーん!」
「へへん、子供は雪の子だからな! 雪合戦だ!」
「それを言うなら風の子だもん! でもやるなら負けないんだからね!」
 雪だるま用にと丸めていた雪を、両手で掴んで放り投げる。が、大きすぎた玉は思うように飛んでいかずあっさりと避けられてしまった。
 悔しくなって、いくつも雪球を作り、投げる。雪球の応酬。
 動いていると、暖かくなってきて、楽しくなってきて、だから、家の中にいなければいけない朱里のことが気になった。
 傍にはアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)も居てくれるから、寂しくはないと思うけど。
「ピュリア?」
 動きを止めたピュリアをいぶかしんで、健勇が近付いてきた。
「ママ、ちょっとかわいそう」
 世界はきらきら銀色で、雪はふわふわ、幻みたいで。
 素敵な世界なのに、見ていることしかできないなんて。
「何か、できないかなあ……」
「何か、何か……うーん……」
 健勇と共に首を傾げる。
 寒いと、赤ちゃんが風を引いてしまう。
 なら、寒くなければ良いのだろうか。
 それなら、とひらめいた。
「お兄ちゃん!」
「んぁ?」
「ママのために、ママに内緒で『プレゼント』作ろう?」


 それまで外で遊んでいたピュリアと健勇が、アインを外に連れ出してからもうどれくらい経っただろうか。
 甘えてきたり、ぐずったりと気分の変わりやすいユノを見ていたら、いつも時間はあっという間に過ぎてしまう。
 朱里が外を見ると、三人の姿はなかった。さっきまで、雪合戦をしたり雪だるまを作ったりしていたのに。
 ――ここから見えないところで遊んでるんでしょうね。
 姿が見えないのは不安だけれど、先ほどまで見ていた感じ、とても楽しそうにしていたから。心配するほどのことではないだろう。
 うとうとしているユノを抱いて、子守唄を口ずさみながら揺りかごのように揺れていたら、
「母ちゃん!」
 健勇の声が、響いた。
「? どうしたの?」
「ちょっと来て欲しいの」
 ピュリアが、朱里の服の裾をちんまりつまみ、見上げてくる。
 断るのも悪い気がして、ほんの少しの間だけなら大丈夫だろうか、と朱里は庭に出てみることにした。もちろん、過剰なまでに防寒対策をした上で。
 庭にあったのは、立派なかまくらと四つの雪だるま。
「頑張って作ったんだぜ!」
 胸を張って、健勇。
「一番大きいのがパパでね、その隣の二番目のがママで、小さいのがピュリアとお兄ちゃん」
 指差しながら、ピュリアが教えてくれる。
 『ママ』と言われた雪だるまは、その両手に何かを抱っこしていて。
「あれは……ユノなのかな?」
「うん!」
「だってみんな、家族だからな!」
 当たり前のように、受け入れてくれていることが、なんだかすごく嬉しかった。
「……ありがとう、みんな」
「お礼はまだ早い」 
 アインが、朱里の肩を抱いて言う。
「さあ、入って」
 雪だるまの隣にあった、大きなかまくらへと、促す。
 かまくらは本当に大きく、内部は広く。
「これなら赤ちゃんも一緒にいられるね」
 それどころか、家族全員が入っても窮屈に感じないほどだ。
 ここならば寒くないし、みんなと一緒に居られる。雪を楽しめる。
「これで君も我慢することなく、この雪景色を間近で楽しむことが出来る」
 朱里の心情を読んだようなタイミングで、アインがふっと微笑んだ。
「さ、暖かい飲み物でも用意しようか。かまくら内部だからって油断をしてはいけない」
「えー、せっかくなんだから飲み物だけじゃなくて餅かなんかも焼いて食おうぜ!」
 立ち上がったアインに、健勇がせがむ。
「正月はもう終わったが」
「んな固いこと言うなって。家族で囲む食卓は、いつだって楽しいし美味いもんなんだから!」
「ならお兄ちゃん、お餅である必要はないよー。ピュリアはお鍋がいいと思うな」
 鍋。そうだ。
 健勇がまだ家族になる前、今日と同じように、『家族』で、『かまくら』で、鍋パーティをしたことがあった。
「ピュリア、お兄ちゃんやユノと一緒に、お鍋のパーティしたいな」
 まるで、家族の絆を深めるようだと朱里は思った。
「いいですね」
 だから、心から肯定する。
「君がそう願うなら」
 言って、アインがかまくらを出て行った。間もなくして、鍋の材料を手に戻ってくる。
 それから、カメラも持っていた。
「パパ、それで何するの?」
「写真を撮ろうと思って」
 素敵な考えだと思った。
 雪は、いつか溶けてしまうけれど。
 それでも、今日の思い出はいつまでも消えることがないのだと。
 アインの目を見て微笑むと、彼も優しく笑いかけてくれた。
「父ちゃんと母ちゃんがラブラブしてっぞ!」
「邪魔しちゃ駄目だよ、お兄ちゃん!」
 二人の会話にくすくす笑い。
「幸せです」
 朱里は、アインの耳元で囁く。
「僕は、この幸せを、家族の愛と絆を、守り続けるよ」
 囁き返してくれた言葉は、本当に、本当に嬉しくて。
 いつまでも、いつまでもこの幸せが続きますようにと、無意識のうちに祈った。


*...***...*


 獣人の村。
 そこには、孤児院兼児童館である『こどもの家』がある。
 家の名前は、『こかげ』。
 ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が提唱し、建設までこぎつけた施設である。
 設立者だから、とか。
 責任があるから、とか。
 そういうのとは関係なしに、ネージュはこかげのことを気にかけていた。
 休みの日になれば、しょっちゅう出向いては家の手伝いをして。子供たちと遊んで。
 それが、とても充実していて楽しくて。
 キッチンの扉を隔てた向こう側から聴こえる声をBGMに、ネージュはカレーまんを作っていた。
 ネージュ自慢の甘口ひき肉カレーを作ったら、生地に包んで、蒸し器に入れる。
「さすがの手際ですのね……」
 じっ、と見ていたユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が、ほうっと息を吐きながら言った。
「そうかな?」
「はい。無駄な動きがありませんでしたもの。何かお手伝いできれば、と思っていたのですが」
 そんな必要はなかったみたいですわね、とユーリカが笑う。ネージュとしては、何かしようとしてくれる、その気持ちだけで十分嬉しい。
 が、ユーリカは悩んでしまっているようだ。
「カレーまんは、柔らかくて辛いものだから……」
 ぶつぶつと、呟く。
「ユーリカちゃん、何か作ってくれるの?」
「対極となるものを用意しておければ、と思いましたの」
 硬くて、甘いもの。
 二人で一緒に、協力して作れるもの。
「「クッキーとか」」
「どうかな」
「どうでしょう?」
 声が重なった。同じ発想に行き着いたことに、顔を見合わせて笑う。
「じゃあ、作ろっか!」
「はい! ですわ!」


 一方その頃、施設の外では。
 樹乃守 桃音(きのもり・ももん)が、孤児院の子供たちと一緒に庭を駆け回っていた。
「みんなに会うの、久しぶり、だね!」
「ほんとだよ!」
「桃ねーちゃん、連絡もしないんだから」
「ごめんね。だから、その分、いーっぱいお話するね」
 ヴァイシャリーでの生活。
 ネージュや、他のパートナーとの関係。
 新たに出来たお友達。
 雪で遊び、まみれながら話を聞かせる。
 上手に話せているのか、『こかげ』の兄弟姉妹からは絶えず笑い声が響いていた。
「ところで、お花のお姉ちゃん平気?」
 不意にそう言われ、桃音は『あっちのお姉ちゃん』を見遣る。
 そこには、ふるふると震えながら桃音たちを見守る常葉樹 紫蘭(ときわぎ・しらん)の姿があった。
「紫蘭おねえちゃん……」
 保護者というか、先生というか。
 見守っていてくれるのは、嬉しいしほっとするのだけれど。
「無理しちゃダメだよ……ちょっと顔色悪いよ?」
 花妖精である彼女は、寒さに対する耐性が低い。
「水穂おねえちゃんと代わってもらったほうがいいんじゃない?」
「いいえ、いいえ。元気な子供たちの姿を見れるこの役割、交代させてなるものですか」
 紫蘭が子供好きなのは知っている。知っているが。
「でも……」
「……うう」
 青ざめてきているし、震えているし。
「……ちょっとだけ、厚着してくることにします」
「うん。そうした方が、いいと思うの」
「同感だ」
 さらに、肯定の意見を重ねてきたのはイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)だった。イグナも、紫蘭と共に外で遊ぶ子供たちを見守ってくれている。彼女の方は一切顔色を変えず、また大して身じろぎもせずに立っていた。ある種、対照的といえよう。
 最初は怖いと思う子もいたようだが、イグナが子供たちの安全に気を配っていることが雰囲気で伝わってきたので、「静かなおねえちゃん」と評されている。
 閑話休題。
「ハイブラセルは、ここまで寒くなかったんですよぅ……ぶるぶる……」
 イグナに子供たちを任せ、紫蘭は一旦室内へと退いていった。そんな彼女の背姿を目で追いながら、桃音は考える。
 室内の子供たちも楽しめているだろうか、と。


 所変わって、ぱちぱちと暖炉にくべられた薪が小気味良い音を立てる暖かな室内では。
 高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)が遊戯室で子供たちと遊んでいた。
 寒さが苦手な子や、外で遊ぶのが好きではない子。そんな面々を相手に、絵本の読み聞かせをして一緒に楽しんでいた。
 絵本に飽きた子には、おもちゃを与えて、また別な遊びをさせてやって。
 みんなが楽しめるようにと気を配る。
 うとうとしはじめた子には、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が『幸せの歌』を歌ってやって、寝かしつけてくれたりもしている。
 静かで、穏やかな時間。
 幸せだと、思う。
 ふと、窓の外を見た。
 大きな窓から見える向こうでは、元気に走り回る桃音の姿や、愛する子供たちのためにと寒さに負けず一緒に遊ぶ紫蘭の姿。見守るイグナの頼もしさ。
 ここにも、幸せが広がっている。
 いつまでも、こうあってくれればいい。
 そう思っていると、一人の少女が水穂の傍に寄ってきた。獣人の少女だ。水穂の尻尾をじっと見つめている。
 くるん、と尻尾を前に回し、
「どうぞ」
 と微笑みかける。彼女が、尻尾を触りたがっていることに気付いたから。
 何を求めてそうしたかったのかはわからないけれど。
「私のでよければ、いっぱいもふもふしてくださいね」
 水穂は全てを包み込むように、優しく笑った。


 さて、そんな風に各々が子供たちのために尽くしている最中。
 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、のんびりと面々を見ていた。
 近遠は、何もできない。
 ユーリカやネージュのように、子供たちのために料理することができないし、桃音や紫蘭のように外を一緒に走り回ることもできない。
 イグナのように、用心棒さながらに見守るのだって難しいし(そもそも役に立てるだろうか。疑問だ)。
 かといって、水穂のように愛情を惜しまず注ぐような接し方もできないし、アルティアのように掃除や片付けをすることも。
「……うーん。何をすれば良いのでしょうね」
 することがないわけではないのだ。現に、みんな忙しそうに動き回っているのだから。
 できることがない。
 困り果てていたけれど、ふと思いついた。
 今日のことを、形に残そうと。
 文字で、記録として綴るのでもいい。
 写真や絵に、収めてもいい。
 なんとかして、この思い出を残せないだろうか。
「……できるでしょうか?」
 やってみないと、わからないか。
 『できない』と諦めるのではなく、やってみよう。
 そう思えたので、動いてみた。
 結果どうなったのかは、当事者である彼らのみが知るところ。