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 庚とハルが巨猿と接触する少し前……。
「止まれーッ! 止まるんだー! この猿ッ!! ……あ、猿って馬鹿にしてないからな?」
 ジャイアントピヨに乗るアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は、ビーストマスターの特性とスキルを駆使して、必死に並走する巨猿達に向かって呼びかけていた。
「おいこらおめーら。こっちは人間たちの住む世界だ。おめーらがいくと人間たちにひどい目に合わされちゃうから、こっち来ちゃだめだぜ!?」
 アキラの呼びかけも、先を急ぐ巨猿達には効いていないようだ。
「(困ったな……パートナー達との待ち合わせ時間に遅れちゃうぜ……)」
 因みにアキラの悩みはもう一つあった。野生動物はその『本能』で危険を察知する。ならば、その動物たちが選んだ温泉こそが滋養効果のある良い温泉の可能性が高い。つまり、傷ついた動物たちの後をついていき、巨猿達が入る温泉に自分たちも入ろうとしていたのだ。別に温泉のハシゴは苦ではない。スパリゾートアトラスで待ちぼうけを食らうパートナー達は怒るだろうが……。
「(どうせスパの温泉にピヨは入れないだろうし、仮に入れてもお湯が大量に溢れるだろうし、ゆっくりまったりできなさそうなんで巨猿たちが向かう天然温泉の場所へピヨと共に向かうのが得策だ)」
 うん、と頷くアキラ。
「(まあ男は男で裸の付き合いってな……初生ひな鑑定師に聞いてないから、ピヨがオスかどうかは知らないけど)」
「ピー!」
 アキラの悩みを察したのか、ジャイアントピヨは、【ビームアイ】で巨猿達に攻撃をしようとする。
「駄目だ、ピヨ!」
 慌てて止めるアキラ。
「ピ?」
「別に彼らだって好きでこっちに来てるわけじゃない。怪我をしてるから、傷ついた体を癒しゆっくり休みたいから温泉に入ろうとし、ちょっと道を間違えてこっちに来ちゃってるだけなんだよ」
 そんな動物たちに力づくってのは忍びねぇ……と、アキラは考えていた。
 しかし、猶予は余り無い。この森を抜けて荒野を少し行けばスパリゾートアトラスだ。荒野にはエアカー等で同場所へ向かう客達もいるだろう。暴走する巨猿達に巻き込まれると、事故になってしまう。
「……仕方ないか。ピヨ!!」
 アキラはピヨに命じて、空中を少し飛び、彼らの前に躍り出る。
「(どーしてもだめなら猿の群れならきっと一匹ボスザルがいるだろう。それをピヨで打ち負かし、群れを従わせて皆で天然温泉の方へ移動する!)」
 アキラは奥の手を使うことにしたのだ。
「おい! おめーらの中で一番のボスザルと俺のピヨが勝負してやるよ! それで決着をつけてやる。ヒヨコが猿を率いるってのは色々アレだけど……ピヨが勝ったら文句なしだからな!」
 アキラの呼びかけに、巨猿の中から一匹の茶色い猿が出てくる。サイズはイコン級だ。
「面白い判断だ……だがな青年。それだけで私達の進軍を止められると?」
 仮面を付けた金髪の男が真っ赤なマントを翻しつつ巨猿の肩から姿を現す。
「……誰だ?」
 人が居たことに驚くアキラ。よく見ると巨猿達の背や肩に、全てではないが人間の姿が見える。
「人に名を聞く時は、まず自分から、だろう?」
 やたら上から目線で話す仮面の男に、少し苛立ちつつもアキラは冷静に応答する。
「……俺はアキラ・セイルーン。こっちはピヨ。温泉を目指す湯治客だよ」
 アキラの名乗りに頷いた仮面の男は、二重アゴの目立つ口元に笑みを浮かべた後、静かに告げた。
「私はシェア大佐。この地ではそう呼ばれている」
「この地?」
「そう……とある者の思想に感銘を受け、スパリゾートアトラスを目指すために!」
 アキラの勘が、目の前のシェア大佐を「危険人物だな」と認識する。そして、ジャイアントピヨのビームアイが、シェアの操るボスザルに向けて放たれたのは、その数秒後の事であった。


「こっから先は通行止めだ……他ぁ当たれ」
 進路方向に対して壁になるように立ち塞がるソルティミラージュを見て、進軍を止めた巨猿達。
 ソルティミラージュはランスを威嚇するように構え、じりじりと天然温泉へ追いやっていく機動を取る。
「グァァ!」
「キー!」
 巨猿達が威嚇するように吠える。
「……カノエくん。お猿さんの数が多いよ」
 ハルが小さく呟く。
「わかってる。それでも呼びかけはしてくれ」
 ハルはイコン外部スピーカー使用して呼びかけてみる。
「はい、あっちー! 猿さんは向こうの天然温泉だよー!」
 できるだけフレンドリーに、誘導員の気分で巨猿に誘導を促すハル。
 だが、突然響いたスピーカーからの声に巨猿達は驚き、ソルティミラージュに向かって襲いかかってくる。
「……チッ!」
 庚は舌打ちし、【加速2】と【鉄の守り】を即座に使用して自機の守りを固める。何匹かの巨猿がソルティミラージュの脇をすり抜ける。
「カノエくん! 右を抜けられたよ!」
「わかってる、小物は無視する!!」
 ランスを地表深く刺したソルティミラージュは、正面から向かってきた一際大きな巨猿の死角へ機動性を生かして回りこみ、【ワイヤーロープ】を繰り出す。
「ギィィ!?」
 拘束した巨猿がワイヤーロープを解こうと藻掻き、地表に降り立っていたソルティミラージュが地響きを立てて引き寄せられる。
「なんて凄い力!?」
 余談であるが、地球上のチンパンジーの握力は200から300Kg程あるという。決して重装備では無いにしてもイコンと互角以上の綱引きをする巨猿にハルが驚く。
「……それもわかってる」
 冷静に相手を見ていた庚がワイヤロープーを一瞬弛ませ、宙で輪っかを作ると、それを巧みに巨猿の胴体へと引っ掛ける。
「悪いな。捕縛させて貰う」
 仲間が捕まったのを見た他の巨猿がソルティミラージュに迫るが、庚は素早く上昇し、今捕縛した巨猿と繋がったワイヤーロープを地面に刺したランスに引っ掛ける。
「……とりあえず大きな一匹は捕縛したが……」
 庚は森を更に進軍していく巨猿達の軍団を振り返る、と、そこに。
ドゴオオオォォーーン!!
 森を貫く光線がソルティミラージュの前に光る。
「……ビーム?」
 庚が見ると、そこを赤いマントを翻した男を肩に載せた茶色い巨猿が通過していく。
「ハーッハハハ! アキラ君。よい勝負だった。また会おう!」
「……」
 森の奥から今度はジャイアントピヨに乗ったアキラが姿を現す。
「ハァハァ……なんてヤツだよ。ピヨのビームも体当たりも避けて避けて避けまくるなんて……」
「……アキラ?」
 上空のソルティミラージュに気づいたアキラが声をあげる。
「庚殿! アイツを追ってくれ! ピヨの体力がもう限界なんだ」
「……アレは何だったんだ?」
「わからない。でも、スパリゾートアトラスを目指していることは確かなんだ!」
「……他には?」
「いや、俺には其れ位しか……せめてまともに話せる巨猿でもいればいいんだけどね」
 アキラの言葉に、庚が下方を指さす。
「……そこに天然温泉まで誘導しようと捕縛した猿がいる。アキラ、ビーストマスターの君ならそいつから何か聞き出せるかもしれない。頼んでも?」
「俺もピヨも追いかけっこして疲れててね……丁度いい休憩になりそうだ。あー、汗かいたし早く温泉入りたいよ。な、ピヨ?」
「ピー」
 苦笑するアキラに頷いた庚が、ソルティミラージュを急旋回させて飛び去っていく。