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お風呂ライフ

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「そうそう簡単には見つからないでしょうし、コツコツ地道に取り組むとしましょう」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた) の子孫である未来人の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は、「一人で気ままにパラミタを歩きまわりたい」という申し出を陽太に快諾されたので、今日もブラリと見聞を広める旅をしていた。もっとも、「何かあれば必ず連絡を下さい」と陽太に念押しされたはいるが……。
「陽太様も環菜様もずっとパラミタ横断鉄道のために奔走していますから、今回温泉を見つけたらお二人に温泉旅行にプレゼントしてあげられますね」
 二人がずっと温泉旅行を計画していることを知る彼女は、羅針盤とパラミタ温泉ガイドブックを使ったり読んだりしつつ、【財宝鑑定】と【博識】を使用して根気よく【ダウジング】で泉質調査に励んでいる。
「(ハッ!? ……もしかして、お二人が温泉旅行をしなければ、私の存在が……なくなるのでは?)」
 一瞬、脳裏をよぎるそんな憶測を振り払うように舞花は頭を振る。
 彼女の考えを知らない陽太と環菜は、多分、自宅にて夫婦で仲良くTVのニュースでも見ながらティータイム&雑談を楽しんでいるのだろう。
 そんな舞花の横を、ブルーのビキニパンツ姿の男がフラフラと歩いて行く。
「み……」
「ん?」
 重量感たっぷりの巨大なリュックを背負って泉質調査をしていた董 蓮華(ただす・れんげ)がふと立ち止まる。
「あら? あなたはセルシウスさん?」
 夢遊病のような足取りでこちらにやって来るパンツ一丁の男が蓮華の目の前で倒れ、震える手を彼女へ伸ばす。
「み……みずを」
 蓮華のパートナーであるスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)がセルシウスの前にしゃがみ込み、
「持ってきてやったぜ? ほら、セルシウス!」
「す、すまない……」
 ニュルッとした感触が手に伝わる。
「……何だ、これは?」
「何って、ミミズだろ?」
 セルシウスの手には、一瞬蛇かと見間違う程の大ミミズが握らされている。
「ミミズをどうしろというのだ!?」
「いや、敵襲に備えて落とし穴キットで落とし穴掘ってたら、あんたの声が聞こえた。それで、丁度穴の中に居たコイツを持ってきてやったんだ」
 やや軽めのアメリカ的職業軍人であるスティンガーが、ショートの黒髪を掻き上げる。
「……」
「けどな、俺も戦場での非常食としてもミミズを食ったという話を聞いたことがあるけど、泥抜きと臭みを消すのが大変だったらしいぜ?」
 蓮華と共に訓練のつもりで臨んでいるスティンガーがセルシウスに真面目に語っていると、
「どう考えても水でしょう? ウォーターよ」
 見かねた蓮華がリュックの中から水筒を取り出して、セルシウスに渡す。
「おお! すまない!!」
 大ミミズを放り出したセルシウスが蓮華の水筒をゴクゴクと一気に飲み干す。
「何だ、水が欲しかったのか」
「当たり前でしょう。マグマ温泉に入ったのね、耐性もなく……」
「ああ。さっき蓮華も入ってたな。どうだった?」
「捕虜の尋問用にはアリかもしれないけど、湯治には程遠かったわね」
 水を飲んで生き返ったセルシウスが「ふぅ」と溜息をつく。
「温泉を見つけるのは大変だな」
「セルシウスさんは帝国の方なのですね。どうして温泉を?」
 蓮華にセルシウスは、アスコルド大帝の危機という事情を説明すると、彼女は「そう……」と呟く。
「ごめんなさい」
「何故、詫びる?」
「だって……セルシウスさんにとって大帝はとても大切な方なのね」
「……大帝無しで我がエリュシオン帝国が発展するとは思えん。私の仕事は、これまでの私一人だけのための仕事ではない……プレッシャーを感じる」
「……」
 大切な人のため、そして国の存亡、という重圧を感じることは、教導団所属の蓮華には痛いほどわかった。
「きっといい温泉が見つかるわ! 頑張ろう?」
 セルシウスを元気付ける蓮華に、スティンガーが同意する。
「蓮華にとっての団長とは意味は違うけど、大切だって事は同じだもんな」
 ハッとスティンガーの方を振り向いた蓮華が顔を赤らめて彼をぽかぽかと叩く。
「からかうな、バカっ! 団長とかこんな所で言うなあ!!」
 グラップラーである蓮華に叩かれてもスティンガーは笑みを絶やさない。頑丈なのだろう。
「団長? そうか、貴公も上司のために?」
「え? ……えぇ、まぁ、そうね」
「成る程、だからこそそんな大きなリュックを背負っているのだな。大丈夫か?」
 蓮華が背負うリュックは軽く見積もっても数十キロはある。というか、華奢な蓮華の体重と同じくらいあるのではないだろうか?
「えぇ。先輩たちなんか50kgの背嚢背負ってガンガン行軍するんだもの、私だって出来るようにならなきゃ! さ、温泉探しましょう?」
 明るく答える蓮華。
「私も蓮華さんと同じ意見です。良い温泉が見つかったら、環菜様と陽太様にも教えてさしあげたいですし」
 舞花が会話に加わる。
「うむ! では、諸君! 改めて温泉を……ん?」
 セルシウスがいそいそトーガを着つつ宣言する、と、そこに砂煙を上げた轟音が近づいてくる。
「何だ?」
 不測の事態に備えて携帯していたルミナスライフルをスティンガーが取り出す。
「こちらに……向かってきますね……あ、イコンも」
 舞花が見つめる先では、美羽のグラディウスが巨猿と一進一退の攻防を繰り広げていた。
「敵か!?」
 丸腰ながらセルシウスが一同の先頭へ出ようとするのを蓮華がやんわりと制止する。
「セルシウスさんは、後ろの警戒をお願いします」
「そ、そうか? いや、しかし私は……」
「先ほど干からびていたので体力的に無理です。満足に戦えぬ兵を先陣に出すとあっては教導団の名折れになります」
 セルシウスの攻撃力について色々聞いたことのある蓮華が、優しく、しかしハッキリとした口調で彼を制する。
「う、うむ……」
 蓮華は温泉水のサンプルを詰めたリュックを下ろし、スティンガーと共に前に出る。
「スティンガーは狙撃。私は接近戦でいくわよ」
「蓮華さん、私も戦います」
 舞花が言うと、蓮華はニコリと笑い、
「では、舞花。セルシウスさんの護衛を頼めますか?」
「え?」
 セルシウスが「女子に守ってもらうほど……!!」と声をあげようとするのを、スティンガーがなだめている。
「舞花。くれぐれもお願いするわね?」
 蓮華は舞花にそう言い、すぐ傍まで来ている集団を見て溜息をつく。
「団長もたまに温泉に来られるんだって。でもここは治安悪いからダメそうね」
「……あのさ、俺の話とか他の奴にした事あんの?」
「えっ?」
 きょとんとした顔で蓮華がスティンガーの発言の真意を掴みかねていると、
「ああ……ないのね」
 ガックシと何故か肩を落とすスティンガー。
「きます!!」
 舞花の叫びと同時に、二人は構える。