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 今ひとつ状況のわからぬままセルシウスは、コンテスト会場の椅子に着席していた。
「……で、セっさん何で審査員なんかやってんだ? 年明けから仕事でカンヅメじゃなかったっけ?」
 同じ審査員で、隣の席のシリウスがコンテスト開始前にセルシウスに尋ねる。
「うむ。仕事が山積みでな、他の雑用も含めて私が何を書いたのかわからぬ書類が一杯あったのだ。恐らくその一枚にこのコンテストの何かが紛れ込んでいたのであろう」
「その書類の中に、詐欺めいたものは無かったんだろうな?」
 有無を言わさず山積みの書類にサインしていたセルシウスが目に浮かんだシリウスが苦笑すると、リーブラがつられて笑う。
「シリウスったら……せっかくアルカンシェルで忙しかったあなたのお休みに誘いましたのに。結局、いつも通りですわね……もう」
 諦め半分に笑うリーブラに、「まったくだ」と同意するシリウス。
「……で、審査って何やるんだ? こう、審査結果をボードに書いて10点9点0点とか?」
「うむ……手元には3つの札が置いてあるな」
「ええ……0点、5点、10点とありますね」
 リーブラがヒョイと札を手に取る。
「0点は可哀想だから、あんまり上げたくないな」
 シリウスとセルシウスが話していると、四人目の審査員席に葵がやって来る。
「あー、シリウスちゃんにリーブラちゃんも審査員なんだ。よろしくね!」
 同じ百合園女学院の生徒である二人に葵が挨拶する。
「葵も?」
「うん! はい、はい、あたしもやりたいですー! って言ってたらやらせてくれたの」
「……女性3名ですか。何か、甘いものが高評価を受けそうですわね」
 リーブラが言う。
「セルシウス、ちょっといいか?」
「む。貴公はダリルか。何だ?」
セルシウスの傍へやって来たダリルが紙袋を彼に渡す。
「コンテスト前に渡して置こうと思ってな。開けてみてくれ」
「……む!? こ、これは!!」
「そう。スマートフォンだ」
「ぬぅ! これはエポドスが使っていたボタンが数個しかない携帯電話だな」
「ああ。携帯、スマホ、パソコンの順で、大人ならぬ情報化の階段を登れば恐れる物は何も無いのだ」
「以前に貴公から貰ったものは、充電できず、エリュシオンに置いてきてしまった。申し訳ない」
「充電? ああ、箱はこれだ。一式渡すぞ。それと、使い方はまた紙一枚に纏めてきた」
 ダリルはそう言って、セルシウスに呟き投稿サイトと顔面本、さらにはフリーメールの登録も行なってやる。
「何かツイートしてみるか?」
「むぅ……では、フルーツ牛乳なう、と打つか」
「……セっさん。話の腰を折って悪いが、まだ飲んでないだろ?」
 シリウスが突っ込む。
「では、着席なう、と」
「……好きにしろよ」
 シリウスは呆れた顔を見せる。
「大帝のこと、心配か?」
 ダリルに尋ねられたセルシウスは、眉間にシワを寄せる。
「当然だ」
「俺達にできる事は……」
「いや、これはエリュシオンの問題だ。貴公にしては敵国だろう?」
「以前まではな。今はかつての敵国に親近感も持ち始めてる。何せ、友の居る国だからな」
「ほう……過去のしがらみに囚われないというのは良い事だ」
「そのための交流なんだろう……おっと、そろそろコンテストが始まるようだな」
 ダリルは「何かあったら連絡しろ」とセルシウスに言い残し、去っていく。
 司会の男が現れ、まず審査委員長のセルシウスに挨拶を求める。
「私がセルシウスだ。本日はお日柄もよく……」
「セっさん。結婚式じゃねぇぞ?」
 シリウスに耳打ちされたセルシウスが、咳払いをして話始めようとした矢先。
バツンッ!!!
 会場の全ての照明が落ちる。
「なんだ?」
「停電か!?」
 ざわつく会場。
「一体何が……」
 セルシウスが呟き、ハッとダリルから渡されたスマホを手に取る。
「これは、停電なう、と打ち込むチャンスか!?」
「そんな事してる場合かよ……ん?」
 シリウスが窓の外に何かを見つける。
「アレのせいだな……」
 皆がシリウスの指差す方角を見ると、そこには鉄塔に登った一体の巨猿と、その肩に立つ覆面の男がいた。さらに突如、スパリゾートアトラスの館内スピーカーに男の声が響く。
「私は、シェア大佐だ! 自然を愛し、秘めやかにそして迅速に、決して手を出さず、女体を見る事を渇望する諸君よ!! 時は来た!! 今こそ立ち上がるのだ!! そして、事が成った暁には、私は偉大なる大自然とノゾキの神の元に召されるであろう!!」
 後に語られることになる、スパリゾートアトラス・ノゾキ作戦の決行が告げられたのであった。