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あの頃の君の物語

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百合園中等部で〜ミーナ・リンドバーグ〜

 百合園女学院はパラミタだけでなく、日本にもその学校がある。
 神奈川県新百合ヶ丘に名門女子校・百合園女学院があり、パラミタにある百合園女学院がその姉妹校なのだ。
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)はその姉妹校にいた。
「ミーナ先ぱ〜い」
 後輩の声に、ミーナが振り返る。
 すると、3人の後輩が、透明の袋とピンクのリボンで可愛くラッピングしたマドレーヌを持っていた。
「調理実習で作ったんです」
「食べて頂けますか?」
 おそるおそる差し出されたお菓子を、ミーナはニコッと笑顔で受け取った。
「どうもありがとう! いただくのです」
 ミーナが受け取ると、後輩たちは「きゃ〜」と黄色い声を上げながら、走っていった。
 心なしか頬がピンクに染まっている。
「あ、いいな、ミーナ。お菓子いっぱい持ってる〜」
 ミーナのクラスメイトが後ろからぎゅっと抱きついてきて、ミーナのお菓子を覗き込んだ。
「今もらったのです」
「見てた見てた。やっぱり新百合ヶ丘のマスコットガールはプチ有名人だね〜」
 ミーナは小学生の頃、新百合ヶ丘商店街のマスコットガールをしていた。
 マスコットキャラというと、自治体から小さなイベント・大会までゆるキャラがマスコットのメインだったが、ゆるキャラブームが頂点から下がり始め、ゆる族が地球に来ることでゆるだらけになってしまったため、新百合ヶ丘商店街はあえて違いを出すために、人間の女の子をマスコットにしようと決めたのだ。
 そこで白羽の矢が立ったのはミーナだった。
 ミーナが目に留まったのは商店街の運動会。
 小学生の頃、かけっこが早かったミーナは、運動会で小学生の部の一等賞を取り、ミーナのかわいさと元気さを見て、急遽、一等賞の賞品に新百合ヶ丘商店街マスコットガール権が加わり、マスコットガールになる運びとなったのだ。
「あの頃は、足早かったな〜」
「えー、今でも早いじゃん」
 友達の言葉にミーナは首を振る。
「ゼンゼンなのです。小学生の頃は世界が狭かったから、ミーナも自分が足が早ーいとか思ってたけど、中学になると全然ダメでしたのです」
 それはミーナの謙遜ではなく、中学に入って陸上部になって強く感じたことだった。
「陸上部でも全然成績がパッとしないしさ」
「そっかなー。去年の運動会でもリレーで活躍して女の子のファンが増えたじゃん」
「それはちょっと良かった」
 かわいい子大好きなミーナは女の子が取り囲んでくれたことがうれしかった。
 ミーナはいわゆるお姉さま系ではなく、
『小さいけど、運動が出来てかわいい』
 というところが後輩に受けていた。
「ねーそれ、食べないの?」
 友達に聞かれ、ミーナはマドレーヌを見る。
「あ、そうだ。教室戻って食べよう」
「あたし、あたしには?」
「一口あげますです。ミーナにくれたんだから、ちゃんと食べないとですよ」
 そう言ってから、教室に戻ろうとして、ミーナはあることを思い出した。
「あ、大事なこと忘れてたです」
「大事なこと?」
「あんなに可愛い子たちだったのに撫で忘れたですよ」
 ミーナの言葉に、友達はあははっと笑った。
「今度、お礼を言うときに撫でてあげるといいよ」
 そして、ちょっといたずらっぽく続けた。
「きっとあの子たち喜ぶよ〜」
「それならミーナもうれしいです」
 可愛い子を撫でるのが好きだから、自分が撫でて可愛い子が喜んでくれるなら、ミーナはなおさらうれしかった。
「うん、ミーナはえらいえらい♪」
 友達がミーナを撫でる。
 ミーナはそれがうれしくて、少しデレた。
「もらったマドレーヌ、一口じゃなくて半分こにしてあげますです」
「お、やった〜」
 友達がさらにミーナをナデナデする。
 2人は教室に帰り、一緒にマドレーヌを食べたのだった。


 数日後。
 クラスで修学旅行についてのホームルームが行われた。
「今回の修学旅行はパラミタに行く。空京以外は未開の土地だからな、絶対にそれ以外に行くなよ」
 行こうとしても何かの力で阻まれるらしいけどな、と教師が付け加える。
「パラミタかぁ」
 どんな出会いが待っているのだろう。
 修学旅行の栞を見ながら、ミーナは心を弾ませた。