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あの頃の君の物語

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あの頃の君の物語
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男の娘誕生の秘密〜崎島 奈月〜

 放課後。崎島 奈月(さきしま・なつき)が通学カバンに荷物を詰めていると、友達数人が集まって何かをしているのが目に入った。
「なにしてるの〜?」
「あ、奈月」
 奈月が来ると、友達たちは奈月を話の輪の中に入れ、みんなで話題にしていた小説を奈月に見せた。
「これこれ、これの話をしてたんだよ」
「なあにこれ?」
「人気急上昇のライトノベルだよ! 男の子の魔法少女もの!」
「男の子なのに……魔法少女なの?」
「そうそう、ほら、こんな感じ」
 友達はライトノベルの表紙をめくった。
 そのラノベには最初に数枚のカラーページが付いていて、かわいらしい男の子がステッキを持って変身し、真っ赤な顔をしながら魔法少女の衣装を身につけているイラストが載っていた。
 奈月が他のイラストも見てみようとすると、友達が気前よく言った。
「それ貸してあげるよ! 面白いから奈月も読んでみて!」
「あ、うん。ありがとう〜」
 奈月は友達の好意に甘えて、その小説を借りて帰ることにした。


 家に戻ると、奈月は服を着替えて、ベッドにころんと転がった。
 奈月の部屋は男の子の部屋にしては少し可愛い感じの部屋だった。
 カーテンやベッドカバーもかわいらしい柄だし、枕元には黒いうさぎのぬいぐるみが置かれている。
 本人もそれを可愛いと思っていたので、あまり悩むことなく、この部屋に住んでいた。
 友達から借りた小説は読みやすく文章も軽妙でどんどん読めた。
 でも、奈月は読みながらどうしてもこのライトノベルの根幹たる部分が気になっていた。
「奈月〜、シフォンケーキが焼けたわよ〜」
 階下から母親に呼ばれて、奈月は小説を持ったまま下に降りた。

 甘い物が大好きな奈月は、母の焼いてくれるお菓子がとても好きだった。
 シフォンケーキを頂いた後、奈月は両親に尋ねた。
「なんでこの小説、男の子なのに魔法少女なんだと思う?」
 奈月は両親にその小説を見せた。
 母と父は額を寄せて、しばらくその小説を見た後、おもむろに父がこう言いだした。
「うちの奈月の方がもっと似合うはずだ!」
「…………?」
 父の言うことの意味が分からず、奈月は首を傾げた。
 しかし、母は父の言いたいことが分かったらしく、カレンダーに目をやった。
「来月はハロウィンですね。布を買ってこないと」
 両親が考えてることが全然分からず、奈月はますます???となった。
 いったい両親が何をしようとしてるのか、それを奈月が知るのは次の月のハロウィンの日になる。


 10月31日。ハロウィン。
 この日は日本でも各地でハロウィンの仮装イベントが行われる。
 仮装パレードが行われたり、街中がハロウィン一色に染まるところも少なくない。
 奈月はそこに母お手製の魔法少女の衣装を着て、連れ出された。
「わあ、あの子可愛い〜」
「え、ティーンズ雑誌の読モの子?」
 周囲の人が奈月の可愛さに振り返り、口々に奈月のことを褒める。
 その言葉を聞いて、両親は満足そうだ。
「やっぱり、うちの奈月が一番かわいい!」
 いきなり魔法少女の衣装を着せられて、どうしようと思った奈月だったが、両親も周りの人も喜んでくれるし、これでいいのかも?と思った。
 そうこうしている内に、奈月の両親の友人がやってきて、奈月の魔法少女姿を取り囲んだ。
「お、かっわいいなー、奈月ちゃん」
「すごいすごい! 本物の女の子より可愛いよ!」
 父の友人にも好評だったが、さらにテンションが上がったのが母の友人だ。
「誰か、少し薄めのリップ持ってない?」
「あ、軽くチークのせようよ。奈月ちゃんの肌のキレイさがもっと引き立つよ!」
「つけま……はいらないか、奈月ちゃん、まつ毛長いし」
 母の友人たちは自分たちのバッグを探って、淡い色の化粧品を出し、奈月にメイクを施していく。
 なんだかみんなが楽しそうなので、奈月はされるがままになってメイクをされた。
「やーーん、超可愛い、奈月ちゃん!!」
「おー、予想以上! これはすごい!」
「このままパレードに乗り込もう!」
 奈月はハロウィンパレードの列に混ぜられ、その歩く様子を父たちが動画で撮り始めた。
「こっち向いて、奈月ちゃんー」
 親の友人たちも携帯端末を撮りだして、魔法少女姿で歩く奈月を写真に収める。
 すると、知り合い以外からも声がかかった。
「すみません、撮っていいですかー?」
 その声に奈月は反射的に答えた。
「あ、はい〜」
 人を疑うタイプではない奈月はニコニコと笑顔を向ける。
「奈月ちゃん、こうよ、こう」
 母の友人が奈月に女の子らしいポーズを取らせようとする。
「ちょっと膝を折った方が」
「そうそう、それでこっちを振り返るように」
 言われるままに素直に奈月は女の子らしい仕草で振る舞う。
 いや、女の子らしいと言うと語弊があるかも知れない。
 スカートの下にジャージを履いて足を広げて座ってるような世の女の子たちなんかの百倍、奈月は可愛かった。
「あの、この子とも撮って頂けますか?」
 幼稚園生くらいの女の子を連れたお母さんが奈月に写真を求めてきた。
 小さな女の子は奈月を見て、目をキラキラさせていた。
「本物のプリティーハルリーゼみたーい!」
 どうやら人気の魔法少女番組らしい。
 奈月の母はそれを参考に衣装を作ったのかもしれない。
「あ、どうぞどうぞ。それじゃ並んで〜」
 母の友人が気を利かせてカメラを受け取り、奈月と幼稚園の女の子を並べて、シャッターを切る。
 その日、たくさんの人に囲まれて、両親の笑顔を見て、両親の友人の楽しそうな表情を見て、知らない人まで喜んでくれるのを見て、奈月は思った。
「みんなが喜んでくれるんだ」
 両親に愛されて、周囲からも可愛がられて、何一つ不自由なく育った奈月だったが、人を喜ばせてあげられるという体験はそれまであまりなかった。
 自分がこうやって魔法少女の姿をすることで、こんなにもたくさんの人が喜んでくれるなら。
 そう思ったことが、奈月が女の子の服装を普段から身につけるようになったキッカケだったかもしれない。