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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第2回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第2回/全3回)

リアクション

「……先からチィチィと、うるさい雀だ」
 幸村は目を眇めた。
 現れて以来ずっと、何か、見覚えのない男が彼を指差して怒鳴っているが、全く意味が分からない。何やら自分に関係のあることを口にしているらしいが、その言葉の意味について考えるのも、集中するのも、面倒になってきた。
 もとより、やつらの言葉に耳を貸す必要などないのだ。
 あれは侵入者だ。
 用いる言葉にも、その身にも、かけらも価値はない。
 ああしかし、ああもがなりたてられては本当に耳障りだ。
「ルドラ殿は追い出せとご命令だったが……不殺とは申されなかったな」
 ならば動かぬ死体でも問題はないだろう。
「おっと」
 横合いから飛び出して双龍刀【一閃爪】を手に走り込んだ幸村の攻撃を受け止めたのは、又兵衛の霊妙の槍だった。
 刀と槍の穂先を合わせ、2人は至近距離から互いの顔を覗き込む。
「真田、あんたほんとに記憶がないって? 俺のことも忘れちまったのか?」
「……きさまなど知らぬ」
「へぇ、そうかい。
 俺のことは忘れちまってもいい。だが、伴侶と自分の子までも忘れたというのはいただけねえ。己の命賭しても護る存在まで忘れた上、刀向けようってんなら、容赦しねぇぞ!!」
 宣言とともに目の覚めるような槍術が幸村を襲った。
 又兵衛の巧みな捌きによってしなる槍は軽妙な動きで自在にその狙いを変え、刃をはじき、突き込んでくる。
 槍の間合いは刀より長い。だが言いかえれば、刀の間合いへ入ってしまえばその攻撃はほぼ封じられるということだ。
 幸村はヒロイックアサルトを発動させ、力で押し切ろうとする。
(又兵衛、頑張るのだ)
 他者にはおいそれと割り込めない激闘を繰り広げる2人を横目に、は戦場全体へと常に目を配る。
 だれかけがを負った者はいないか。負ったなら、すぐさま回復魔法を飛ばせる準備をして。
 彼女の前、パートナーであり恋人の孝高は、ヘイリーと戦っていた。
 彼女はドルグワントとは違う。傷つけないよう芭蕉扇を使用し、風を起こしてできるだけ彼女に矢を射らせまいとしている。
 密林で戦った少年たちはバリアを張っている間攻撃ができないようだった。ヘイリーの場合も同じようで、芭蕉扇による暴風を防いでいる間は攻撃ができないらしい。
 だがそれでも戦闘に長けた彼女は孝高の隙を見逃さず、矢を射かけてくる。
「――っつう…!」
「大丈夫か」
 ほおをかすめていった矢を見て、孝明が横に並んだ。
「ああ、これぐらい何ともない」
「彼女の相手を代わろう」
「しかし――」
「おまえは又兵衛の補助に回れ。あいつだけでは荷が勝ちすぎる。だが柳玄や坊主にそんな真似をさせたくはないだろう?」
 父の思慮深い言葉に、孝高は口をつぐんだ。
「分かった」
 孝高の返事を聞いて、孝明は奈落の鉄鎖をヘイリーに向かって放った。同時に等身大マリオネットやドッペルゴーストたちを向かわせて、動きの鈍ったヘイリーを拘束させようとする。
 孝明の方がよほど向いているようだ。
 ここは彼に任せると決め、幸村の猛攻に押され気味になっている又兵衛の補助へと向かう一時、孝高の脳裏をある思いがかすめた。
 自分も、一歩間違えればああなっていたのかもしれない。薫のことを忘れ、父のことを忘れ、友のことを忘れ……彼らを攻撃していたかもしれない…。
 直後、ぶるると頭を振る。
(今はよけいなことを考えるのはよそう。そういうのはあとでいい。今はただ、目前の戦いに集中するだけだ。そうしないと、俺たちも、彼らも、どちらも助からない!)
「又兵衛、助太刀するぞ!」
 壁際へ押し込まれそうになっている又兵衛の元へ駆け寄ると、孝高は素早く芭蕉扇をふるった。
 柳玄、天禰チーム7人とヘイリー、幸村チーム。総勢9人が総力で戦っているのだ、人目をひかないはずがない。ほとんどは下の階へ移動していて数は少なかったが、それでも少年・少女型ドルグワントがヘイリーたちの支援に駆けつけていた。
「くそッ! どいつもこいつもひとの邪魔しやがってっ!! 俺は自分の嫁を連れ帰りたいだけだッ!!」
 歯噛みしつつ氷藍は神威の矢を用いて対処するが、その数はとても捌ききれない。
「これ以上距離を詰められるとやばいか…。
 ええい! 大助、支援だ!」
「はい、母上!」
 鬼払いの弓を投げ捨て、接近戦に切り替えてバーストダッシュで走り込む氷藍を大助がサポートした。
 千眼睨みでエネルギー弾を撃とうとする彼らの動きを封じている間に間合いへ入った氷藍がレジェンドレイを発動させ、己を包む聖なる輝きでもって少年たちに対抗する。
 そして彼らの意識が氷藍へ向いている隙に疾風迅雷でもって壁や天井を蹴って走った大助が、忍び蚕で彼らを縛り、動きを拘束していった。
「すごいのだ! 大助ちゃん!」
 糸を引き千切る少年や、はじめから糸にかからず離脱する少年たちもいたが、一瞬でも手足を封じられた者は氷藍がこぶしをたたき込む。
 2人の連携技は、場が限定された通路ということもあって効果的に敵を倒していく。
「……まずいわね」
 離れた位置から戦況を見守っていた高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が、メガネを押し上げつつつぶやいたとき。
 彼女の横を影矢のように走り抜けた何者かが、忍び蚕の糸を一刀両断した。
「なっ!? シェスティンさん!?」
 突然の登場に驚く彼らの前、シェスティンは次々と糸を切り、少年たちを解放していく。
「そんな、どうして…!?」
 解放された少年たちの前に立ち、真紅の刃をした剣をかまえるシェスティン。その表情には何も……友である彼らが敵であることへのためらいも、苦悩も、何ひとつ浮かんでいない。まるで見知らぬ敵を前にしているかのように。
「まさか、彼女とも戦わないといけないのか?」
「――くそっ…!」
 いつでも対処できるよう、かまえをとる彼らの耳を、そのとき、突然野獣の咆哮のようなものがつんざいた。
「な、なんだ!?」
「ああ、この声は…!」
 希望に目を輝かせた鈿女がきょろきょろと周囲を見渡し、声の出所を探す。
 少年たちのみならず、幸村やヘイリー、シェスティンもぴたりと動きを止めた。
「一体……今のは…」
 ごくりと唾を飲み込み、おそるおそる振り返った孝高と又兵衛が見たものは。
 虹色の光をはじく銀色の髪を軍人のように短く刈り上げた、大男の姿だった……。



*            *            *



 少年型ドルグワントに追われて走るリネン遙遠。少年たちの走る速度は驚異的で、とても振り切れなかった。
 ブリザードで壁をつくり、視界をふさいだうちに側路へ逃げ込んでも、熱探知ですぐに居場所を悟られてしまう。エンドレス・ナイトメアを放ったりもしたが、効果があるように見えなかった。
「あれは、機械人形と同じよ……不安や混乱を感じる「心」はないわ。自分で腕を切り取ったりして、痛みも切り離せるみたいだし」
「同じ姿をしていても、ドゥルジとは全く別物というわけですね」
 ならばと背中の氷翼からアイシクルエッジを飛ばし、切り刻む。
 そうして足止めを繰り返しながら走っていた彼らと同じ通路に、いきなりだれかが飛び込んできた。
「エース!? リーレンも!」
「リネン! と、遙遠か!」
 思わぬ再会にエースの面が輝いたのもつかのま。ハッとした表情で振り返った彼は、リネンたちの方にリーレンを突き飛ばした。
「彼女を頼む!」
 同時に、びゅっと突き込まれた剣がエースの脇をかすめていく。
「エース、そろそろあきらめたら?」
 剣の主、リリアが姿を現した。
 彼女がエースのパートナーであることを知るリネンと遙遠は驚くと同時に状況も悟る。
「そうですよ。往生際が悪いです」
 リリアに続いて、チャスタティソードを手にしたエオリアが、最後にメシエが現れる。
(これはまずいわね)
 1人なら強引に中央突破もかけられるが、3人もいては難しい。退路を断った少年たちとどちらに突貫するのがマシだろうか、思案する。リーレンを遙遠との間にはさみつつ、双方をうかがったとき。エースが声を張った。
「リリア、エオリア! おまえたちは本当にこんなことをしたいのか!? 俺のことはこの際どうでもいい! おまえたちはどうなんだ! こんなふうにひとを傷つけたいのか!!」
 反応したのはリリアだった。エースの胸元のバラの花を見つめている。ポケットに挿された真紅のバラは、一生懸命リリアに「彼は信頼できるとてもいい人よ」と訴えていた。
 植物は嘘を言わない。彼女はそう信じている。その花がかばおうとする彼を斬ることに、かすかにためらいがあるのも事実。
 だけど。
「私たちには使命があるの。それは私たち個々の思いなんかよりも、ずっとずっと大切なものなのよ」
「そうです。そのために僕たちは今、この時、ここにいるんです。分かりますか? エース。数千年前、この世界に撒かれた種が僕たちのなかで結集し、芽吹いたというこの奇跡が。
 これははるか昔から決められていた、宿命なんですよ」
 喜びに輝いた面で誇らしげに告げるエオリアに、エースはぶるぶる震えた。
「――分かるか!! そんなこと!!」
 エースにはただの気の迷い、自己陶酔にしか見えなかった。
 使命? 奇跡? 宿命? そんなことがひとを傷つけていい理由になるか!!
「目を覚ませ、エオリア!!」
 敢然とエースが槍を手に、エオリアへ向かっていこうとしたときだった。
 ――ウオオオオオオオオオオオオオーーッ!!

 背後から、野獣の咆哮のようなおたけびがとどろく。
 驚き、振り返った彼らに感じ取れたのは、おそるべき速度で向かってくる銀色の影――そして激痛だった。
 自分の身に何が起きたかも分からないまま、彼らの意識は途切れた。