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リアクション
・Chapter19
「さて、こいつは手強そうだ……」
緑色の体格のいい巨人を引き受けた榊 朝斗ではあったが、これは当初とは予定外の行動だった。
本来は全員で施設を進んでいき、ここにいるであろうヴィクター・ウェストの元へ辿り着くという手筈だった。
「……想定外だけど、やむを得ないわ。むしろ、私としてはあのジャンヌさんに気付かれずにここまで来れただけでも僥倖よ」
ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)がパワーブレスを自分たちに施す。本当にジャンヌが気付いていないかは疑わしいが、輸送機内で何かあったらしく、出発前よりは契約者たちに協力的であるように思えた。
「これまでの『パッチワーカー』とは、明らかに違いますね。これ一体で、あの五人組と同程度の強さはあります」
アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が告げた。ハイドアンドシーカーで敵の戦闘力を図った結果だ。
「まあ、そうだろうね。元が元だし……」
朝斗はこのキャラクターを知っていた。超能力科はその特性からか、特撮ファンやヒーローものが好きな生徒が多い。そのせいもあって、施設内にいた怪人やヒーローが大体何かは分かったのである。
――グリーン・ジャイアント。
ほとんど見たまんまの名前だが、登場作品では戦車を片手で投げ飛ばし、ミサイルを受けても無傷な肉体を持ち、さらには列車と並走するほどの速度を持ち合わせているというとんでもないキャラクターである。悪を懲らしめる役回りなのだが、その見た目ゆえに人々から恐れられているという設定のヒーローだ。
「にゃー!」
ちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)が朝斗たちにゴッドスピードを施す。そして、四人でグリーン・ジャイアントを囲んだ。
次の瞬間、敵が動いた。朝斗の身体を敵の拳が突き抜けていく。
幻影だ。
「鋼の肉体を持つグリーン・ジャイアントにも、弱点はある」
アイビスが奈落の鉄鎖で敵の動きを封じ、朝斗は鋼の蛇を投擲した。その図体に似合わず、わずかに上体をそらしてそれを避けたが、その瞬間にサイコキネシスで先端の刃を操り、目玉に突き刺した。そのままワイヤー部分で頭部を縛り付けた。
そのワイヤーを手繰り、朝斗は敵の頭部へと跳躍した。グリーンジャイアントも、頭はそれほど強固ではない。劇中では特殊なマスクを被っているが、さすがにそれは再現できなかったようだ。
「やらせないわよ」
朝斗を掌で叩き落とそうしたところに、ルシェンがシーリングランスを繰り出した。
(……触れるのを避けた? ということは、この中身もやっぱり)
ルシェンの退魔槍:エクソシアは、魔を祓う力を持っている。ジャンヌの持つ銃剣と光剣が教会の加護によって魔祓いの力を与えられており、パッチワーカーの着ぐるみたちの動きを封じていたのと同等の効力を発揮するようであった。
アイビスが魔弾の射手で、頭部を撃ち抜く。この程度では倒れないということは、ここに来るまでのパッチワーク戦で知っている。これは、アイビスが敵の注意を引くためのものだ。
さらに、ちびあさにゃんが二個のPPWを操り、これをサポートする。
そして、グリーンジャイアントの頭頂部にウィンドシアを突き付けた。闇人格と同調、意識を集中。
(鈴麗さんが言っていた『自分が最大限生かせるようにアレンジ』すること。……『イメージしたもの』が具現化するなら、自分の動きを『銃』の動作と重ね合わせるとどうなるか……ッ!)
真空波のイメージは、弾丸。突きとともに、それはグリーン・ジャイアントの内部に浸透し、敵を内部から破壊した。
グリーン・ジャイアントの巨体が倒れる。中身がなければ、動くことはできない。
しかし、
「…………ッ!」
敵の体内から触手のようなものが伸び、朝斗を拘束した。
「朝斗!」
敵を至近距離で囲っていたのがいけなかった。ルシェン、アイビス、ちび あさにゃんも捕えられてしまう。
そして触手状の腕を操っているのは、グリーン・ジャイアントの中に入っていた普通の人間サイズの怪人だ。六本の腕のうち四本が伸びている状態である。
「まさかグリーン・ジャイアントがやられちまうたぁな。ったく、それ造るのにどんだけの『素材』を使ったと思ってんだよ」
若い男の声が聞こえてきた。
「ま、それを倒す奴だ。最高級の素材だ? 念のため、仕込んどいてよかったぜ」
パーカーにジーンズという、ラフな姿だ。フードを目深に被っており、その顔は判然としない。
「お前が……パッチワーカー?」
「ああ、そうだ。……っと、やめてくれよ。俺ぁお前らに殴られたら一発で死んじまうような、ひ弱な一般人なんだからよ。まあ、その状態じゃろくに動けやしねーだろぉがな」
男がメスを取り出し、朝斗たちに歩み寄ってくる。
「あの着ぐるみの中身……全部、生きた人間だよね? それも、『生命機能を維持したまま』原型が残らないまで切り刻んだ。強い個体は、何人もの人間の選りすぐりの部位を集めて繋ぎ合せた。『継ぎ接ぎ屋(パッチワーカー)』たる由縁、というわけだ。本当にえげつないな」
中身に関しては、道中で確認済みだ。かなりこたえたが……。
「依頼主のオッサンにも、悪趣味だっつわれたな。お互い様だろうに。あと、素材は『契約者』だ。一体造んのに、最低二人必要ってわけだ。それによ、生かしとかねーとせっかくの力が台無しだろ? ま、間に合わせんときゃその辺に転がってるただの人間使う時もあるがな」
「じゃあ、外にいたのは?」
「この施設にいた連中だ。質は低いが、多少の時間稼ぎくらいにはなっただろ。んじゃ、早速『加工』させてもらうとするぜ。ああ、そっちの二人は使えそうにねーな。生身じゃないけねーんだよ」
くるくるとメスとナイフを回している。完全に、朝斗たちには何もできないと油断していた。
「それが聞けて、よかったよ」
朝斗がちび あさにゃんに目配せし、ポイポイカプセルのスイッチを押して、地面に落としてもらう。落下中に中からPキャンセラーが飛び出し、落下の衝撃で装置のボタンが押された。
強化型じゃないため動きを封じるには至らない。だが、一瞬の隙を作ることはできる。
「な……!」
その瞬間に触手を振りほどき、パッチワーカーに接近した。
「残念だけど、『契約者』だって完璧な存在じゃないんだ」
「く……、てめえ、よくも俺の顔を見やがったな!」
パッチワーカーのフードを剥ぐ。その下には、色違いの皮膚とそれを縫い合わせたような縫合跡が刻まれた顔があった。
「お前に何があったかは知らない。だけど……人の命を弄ぶような真似は、許さない!」
胸倉を掴み、地面に叩き付ける。
「……殺しはしない」
殺す価値もない。
気を失ったパッチワーカーを、朝斗は拘束した。
「あとは……」
背後の六本腕に振り返った。
まだ、戦いは終わっていない。