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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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・Chapter7


 聖カテリーナアカデミー。
「シスター、出撃許可、ありがとう」
 ジナイーダ・バラーノワとしてアカデミーで訓練を受けている富永 佐那(とみなが・さな)は、出撃前にシスター・エルザと顔を合わせた。
「あなたの役目は、ルルー姉妹のサポート。それを忘れないで。激戦になるだろうけれど、無理はしないこと」
 無理を承知で頼み込んだのには理由がある。まだ、【レヴィアタン】を諦めてない。それによって視野を狭めることはもうしないが、そこに手が届くように精進する。そのために、実戦で自らを鍛えるのだ。
「……死地にだって生きることはできるよ。それが、戦いなんだ――それじゃ、ちょっと生きてくるね、シスター」
 石畳を歩き、格納庫へと向かおうとする。だが、その前に、
「シスター、なぜあの時、あたしをジャンヌちゃんと組ませたの?」
 エルザの口元が緩む。なんだ、そんなことかと軽んじるかのように。
「あなたは一度知っておくべきだと判断したからよ。ジャンヌもあなたも、『執着している』という点では同じ。あの子の場合は、『神の意に背く者は全て断罪する』ということに。あなたの場合は『レヴィアタン』に乗るために。彼女の断罪は、その対象を救済するためのもの。少なくとも、本人はそう信じている。狂信者と言われようと、お前の方が悪魔だと罵られようと、決してブレることはない。彼女のあり方が正しいかどうかは別として、あなたとの違いは、目的の先が見えているかどうか。結局あなたは、【レヴィアタン】という力のみに固執しているのよ。英霊と交叉することによる新たな可能性を試したいなんて理由も、結局は『その力をどうしたいか』にまで至っていない。だから、見るべきものは『手にいれたその先』よ」
 本当は、自分でそのことに気づいてもらいたかったのだけれど……と、彼女は残念そうに続けた。
「分かってるよ……先なんて見ず、ただ自分の意地を貫こうとしているだけってことくらい。簡単に届くなんて思ってもいない。でも、いつかは届くと信じてる。だからあたしは、一生懸命になれる」
 先を見ろ。そんなことは分かっている。だが、見えないものはどうやったって見えない。
 ならば、無理に見ようとしなくていい。進み続ければ、いつか見えるようになる時が来る。そう、佐那は信じている。
「ほんとあたし、何を迷っていたんだろ。意地を貫くのは、いつも、この身ひとつ……そうだよ、どこに身を置こうと、あたしはあたしの意地を貫くまで。ただ、それだけだ」
「あくまでそれを貫くことで先を見出す姿勢は変えない。そういうことね?」
「どこにも答えがなくてもいい。それでもあたしは、あるはずの答えを探して、暗中を突き進む! これが、あたしの見つけた答え。あたしをあたしたらしめる目的であり、揺るぎない、この世界に貫く想いだよ」
 はっきりと、エルザに向かって言い放つ。
「愚かね。現実を知ってなお、誰からも同意なんて得られないと分かっていながらも、自分の姿勢を変えるつもりはない。だけど、嫌いじゃないわ」
 エルザが不敵に微笑んだ。この顔は、何かに強い興味を持った時の顔だ。
「行きなさい。そして、あたしたちの常識を覆してみせなさい。ささやかだけど、あなたへの贈り物を用意するわ」
 直後、彼女たちの前に、佐那が搭乗する予定の機体ファスキナートルの人型形態である【ドリェヴニー】が降り立った。
 コックピットから降りてきたのは、一人の少女だ。
「彼女は?」
「わたくし、オリガ……いえ、エレナと申します。宜しくお願いしますね?」
 エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が、佐那に向かって深々と礼をした。
「彼女、前々からあなたに興味を持っていたのよ。これは、彼女自身が選んだこと。あたしの見た限り、相性はいいと思うわ。良くも悪くも……ね」
 新たなパートナーを得、佐那は戦場へと飛び立った。