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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~

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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~
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リアクション

 
 第15章

「やー兄、がんばってねー!」
「パフォーマンスに出るなんてすごいね!」
「まぁ、よぉ見ときや♪ これでも地元の祭りで叩いてたりしたんやで? お祭り男は伊達やないっつってな♪」
 パフォーマンスの出番が近付き、社は2本のバチ片手に未来と千尋、ピノ、ファーシー達や真菜華達に陽気に言う。それから、ラスに向けてにかっと笑った。
「どや? ラッスンもいっちょやってみるか? その細い腕でどれだけ叩けるか分からんけどなぁ?」
「……は? 細い?」
 そう続いた言葉に、ラスはこめかみをひくつかせる。演奏に引き込もうと挑発しているのは見え見えだったが、『細い腕』とか言われると若干いらっと来る。
 お望みであれば出場してもいい――と思ったが、だがそこで、彼ははたと我に返った。待て、こっちは体験ではない。パフォーマンスということは――
 ふっ、と笑って一歩下がる。
「……太鼓くらい余裕だろ。でも、ほらあれだ、俺があんまり目立ってお前が注目されないのも悪いしな、まあ今回は……」
「お? まさか恥ずかしいんか?」
「…………」
 簡単に看破されて黙り込む。こちらも見え見えだったらしい。ピノや集まった女子達に目を移しても、もれなく全員が「ああ成程」と納得した顔でラスを見ている。納得するな。
「……恥ずかしい? 誰が?」

 一方、体験コーナーには、沢山の太鼓が並んでいた。多くの祭客が、適度に間隔が取られた太鼓を前に笑顔を浮かべている。数人で1台を囲む姿が良く見られたが、個人で奏者にアドバイスして貰っている者もいる。
 太鼓の正面に立った陣に、真奈が聞く。
「ご主人様は太鼓を叩いたことはあるんですか?」
「……や、太鼓の音ゲーは割とやった事あるんやけど、モノホンは未経験なんよねぇ……」
 そう言って、陣は楽しげに軽く叩いてみる。ゲームとは違う、「ぼん」とも「どん」とも言える空気を含んだ音がする。
 見本にしようかとパフォーマンス側を見ると、社の隣にはラスが立っていて。
「ラスくんがああいうのに参加するのって珍しいなあ……」
 思いつつ、社の手の動きを真似て連続で叩く。何だか、気持ちよかった。
「おーーーー、陣くん、うまいねえー!」
 出店の食べ物を大量に買い込んだリーズがもぐもぐとしながら言う。
「にゃははっ、ボクもやってみたいな!」
「……まずそれを食いきってからやな。にしても、よくそんなに食えるなあ……」
 ここに来る前にも、ピノと一緒に色々と食べ歩いていた気がする。どこに入るのか、とちょっと呆れた。
「わたしも叩いてみたいなー……」
 ファーシーがうずうずとした様子で覗き込んでくる。陣は彼女にバチを渡してみた。
「ファーシーちゃん、やってみるか?」
「え、いいの?」
 嬉しそうに受け取って。それから、彼等は順番に太鼓を叩いた。
 こちらは実にほのぼのと、のんびりとした雰囲気だった。
 パフォーマンスは終わった。地元でやっていたというだけに、社の腕は皆の目をひととき奪う迫力を持っていた。
 ――お祭の元気な『音』
 ――花火の綺麗な『音』
 ――そこにいる人達の幸せな『音』。
「今日も色々な音が聴けて素敵ね♪」
 拍手の余韻が残る中、それを見ていた未来が社に近付く。晴れ晴れとした、明るい笑顔だった。
「マスター! これからも素敵な音を聴かせなさいよ♪」

「……疲れた……」
 そして、死ぬほど恥ずかしかった。解放されたラスが二度とやるかと思っていると、ケイラが真菜華と歩いてきて缶ジュースとタオルを渡してくる。
「お疲れさま。はい、これ」
「ん? ああ……」
「もうちょっと下手でもよかったのににゃー。ね、ピノちゃん!」
「うん! 普通に出来るとつまんないよ!」
「お前ら、人を何だと思ってんだ……」
「でも、おにいちゃんもお祭、適当に楽しめたよね! ほら、前に言ってたじゃん」
 適当どころではなかった。だが、楽しくなかったかといえば多分嘘で。
「ラッスン、そんなこと言ったんか?」
 そこで、社がやってくる。彼はうんうん、と腕を組んで頷いて先を続ける。
「祭を適当に楽しむっちゅうのはアリやな! こうやって仲間達が集まって楽しくやれるなら、それだけで祭として成功しとると思うしな♪ いつ何処で何したっちゅうのも勿論大事やけど、そこに誰かがいて一緒に過ごした時間が嬉しいやん?」
「…………」
 少し驚いて社を見る。それは、確かにその通りで。
「ま、何が言いたいかというとやな! これからも宜しくっちゅう事やで♪」
「……また、随分綺麗に纏めたな」
 呆れたように茶化しつつ、だが、ラスは彼の言葉を否定しなかった。

              ◇◇◇◇◇◇

「すみません、盆踊りの太鼓叩きって飛び入りできますか?」
「飛び入り? 経験はあるのか?」
 真は、曲の切り替え等を行う控え室でレオンと話をしていた。ドラムならあります、と答えるとレオンは難しい顔になる。
「ダメなら太鼓パフォーマンスに入ろうと思っているので、無理にとは言わないけど」
「いや、そうじゃなくてな……」
 レオンは、この後の曲について考えていた。このステージは仕事であり、普通ならば断る話だ。だが、ドラムが出来るのなら、後に櫓に立てばより迫力のあるステージになるだろう。しかし、彼が体験したいのは多分、そちらではない。
「民謡や盆踊り用の音頭は、あと2曲の予定なんだ。最後の曲のリハーサル映像が残っているから、これを見て可能そうならやってみてくれ。出来れば、その後の曲にも参加してもらいたい」
 そうして、レオンは演出切り替え後の曲について説明した。

「久々に祭とやらに参加するな……」
 昼は人数も多く慌ただしかった。落ち着ける夜が、左之助にとっては祭りの本番だ。真が控え室に行っている間に冷酒を買い、彼は座れる場所を目で探す。そこで、京子が話しかけてきた。
「さのにぃ、コレは何ていう踊りなのかな」
「……京子は盆踊り、知らねぇのか。簡単に言うと、死者を供養するための踊りだ」
「へぇ……盆踊り、っていうんだ。死者の供養……」
 京子は踊る女性達を、彼女達と一緒に踊る人々をじっ、と見ている。何かを感じたらしい事を察し、左之助は言った。
「踊り自体は簡単だから、見よう見まねでも行けるぞ。荷物見といてやるから行ってこい」
「……うん、私も踊ってみるよさのにぃ」
 京子は輪の中に入っていく。預けられた荷物に、左之助は「何だこの量!?」と驚いた。その殆どが、屋台の空容器だ。
(京子のやつ、最近素直になったっつーか遠慮無くなったっつーか……まぁ、俺の知らない所で何かあったんだろう)
 そんな事を思いつつ、彼は木製のベンチを見つけてそこに座った。酒の封を開ける。
「しかし、このプルトップとかいう酒は未だに慣れねぇ……」
 曲が終わり、櫓上段に真が現れて新たな演奏が始まる。
 ゆっくりと、京子も踊りだす。昔々、昔々の皆の顔を思い出しながら。
 誰の為に踊っているのかと聞かれれば、それは――彼女達、彼等の為。
 ――皆も確かに、双葉京子という今の“彼女”をつくった大切な人達なのだ。
(太鼓のリズムに合わせて、周りの人たちの動きを見て……)
 楽しく踊ることが大切なんだよね、きっと――

 ――きっと、彼女は誰かの為に踊っている。
 櫓の上にいる真の目からも、それは解った。京子は楽しそうに踊っていたけれど、同時に何だか寂しそうで。
 言葉で現すのが難しいような、そんな感覚。
(……それなら、俺はその誰かの為にも、余計に気合入れて叩かなきゃな)
 腕に、更に力を込める。その時、ふと、ベンチに座る左之助が見えた。
(あー……兄さんまだ缶の日本酒に慣れてないのか……)