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うるるんシャンバラ旅行記

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うるるんシャンバラ旅行記

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 近くにと呼ばれ、エメはジェイダスの傍らで、打ち上がる花火にうっとりと見とれていた。それに。
「結構なお点前だったぞ」
「あ、ありがとうございます!」
 ジェイダスにそう褒められたのは、なにより嬉しいことだった。
「もうすぐだ。見ていろ」
「はい」
 ジェイダスに促され、エメは空に目をやる。
 煙が晴れ、黒々としたキャンパスは、今はただ静謐な闇だ。
 そのなかに。
 不意に、美しく。幾重にも重なった花火が咲いた。しかもそれは、ただ咲くだけではない。光の色が移り変わり、やがて白く輝きながら、花弁が散るように螺旋を描いて落下していくのだ。
「綺麗……」
 エメは、息を呑んだ。花火を見ている人々も、一時、言葉をなくす。
 しかも、その花は一輪だけではなかった。高さを変え、連続で。まるで夜空を埋め尽くすように、大輪の薔薇が咲き誇る。打ち上げのわずかな差が生み出す、色とりどりの光の花園が、視界いっぱいにきらめいた。
 しばしの沈黙。そして、それから。
 いっせいに、賞賛の歓声があがった。
「素晴らしいです、ジェイダス様」
「ああ。私の予想以上だったな」
「記憶の中に留めおくしかできない、一瞬の薔薇なのですね」
 それ故に美しいとわかっていても、少し切ない気がする。そう、エメが目を伏せると、ジェイダスは微笑んで。
「咲き続ける薔薇ならば、私の側にいるからな」
「……はい」
 その言葉に、エメは恥じらいつつも、頷いた。


「なかなかのものだったな」
 若干エメとジェイダスのやりとりが気になるようだったが、ラドゥもさすがに今はただ花火に心を奪われている様子だ。
「ねぇ、ラドゥ様」
 また、次々と花火があがる。誰もが空を見つめるなか、そっとリュミエールはラドゥに話しかけた。
「……なんだ?」
「笛の事件の時、勿論僕一人の手柄ってわけじゃないけど、ちょっとは役に立ったでしょう? だから、ご褒美ちょうだい?」
 キスをさせて、と。リュミエールが、己の唇を指さしてねだる。
「…………」
 ラドゥは眉根を寄せ、つんとリュミエールから顔をそらした。
「あれしきでは駄目だ」
「じゃあ、今度ね。約束だよ?」
「それは……」
 できるものならな、とラドゥは返そうとしたが、ふと先ほどのヘルの言葉が脳裏をよぎる。
「ラドゥ様?」
「約束はしない」
 舐められては困る、とラドゥは素っ気なく返した。
「そう。残念」
 リュミエールはそう肩をすくめて笑う。
 どんなに素っ気なくしたところで、ちゃんとリュミエールの贈った浴衣を、わざわざ選んでくれたということは、実は陽から聞いている。それだけでも、リュミエールには嬉しかった。
「今日は着てくれてありがとう。とても綺麗だよ」
「べ、別に貴様のためでは……っ」
 そういつものように強がるラドゥに、リュミエールは優しげに微笑んだのだった。






 花火も終わり、呼雪はあたりに気づかれる前に、そっとヘルから離れた。
 あの薔薇花火の間、ヘルはずっと、こっそり呼雪の手を握っていたのだ。
 気恥ずかしくはあったが、きっと誰にも気づかれまいと、そっと呼雪もその手を握りかえした。
(前もあったな、こんな事……)
 そんなことを、ちらりと思いながら。
 再び行灯に灯が戻り、ひとときの夏の夢が終わる。
「レモ」
 ぼんやりと余韻に浸る中、呼雪はそっとレモに近づき、声をかけた。
 いよいよこれで、旅も終わりだ。
「旅行は、楽しかったか?」
「オレも聞きてぇな。どうだった?」
 昶も尋ねる横で、マユもまた、じっとレモを見つめている。
「うん。……いろんな事が、あったなぁって、今思いだしてた。嬉しいこととか、びっくりすることとか、……ちょっと、怖いこともあったし」
「そうなのか?」
 昶がぱたんと尻尾を振り上げる。それに、レモは両手を振って。
「でも、大丈夫だよ。それ以上に、いっぱい、いっぱい、素敵なことがあったから。また……行きたいな」
「そっか。……パラミタだって、地球だって、まだまだレモが知らない世界があるんだぜ。また旅行しような」
「うん」
「それに、今回訪れた場所でも、季節が変われば違う表情が見られるだろうから、またこんな風に旅行出来ると良い」
 呼雪がそう言うと、マユも同意を示して頷いた。
「こういう機会をくれたカールにも感謝しなきゃな」
「……そう、ですね」
 カールハインツは、一人離れた場所に立っていたが、レモが振り向いたことに気づくと、やおら背中を向け、帰って行く。
「僕、行くね。お礼言わないと。それに……」
 レモは立ち上がり、続けた。
「カールハインツさんて、寂しくなると、わざとああいう態度するんだよ。だから、追っかけてあげないとね」
 しょうがないよね、とレモは笑う。
 どうやらこの旅行で、ずいぶんこの二人の関係も変わったようだ。
 そして、同時に。
 レモはきちんと、鬱屈を乗り越えたのだ。
 たくさんの景色と、たくさんの想いを感じて。



 その、一方。

 「まじで……」
 がっくりと灰になる男が一人。佐々木 八雲(ささき・やくも)だ。
「やっぱり、気づいてなかったんだ。ほんと、こういうところ鈍感すぎるよね」
 可笑しそうに、真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)が笑う。
 先ほど、屋台を閉めるにあたり、何度も娘はお礼をいった。そして、続けたのだ。
「これからも、夫婦仲良く、頑張っていきますね」と。
「アリかよ……」
「兄さんが、下心で動くからだよ」
 気の毒には思うが、ばっさりと佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は呆れる。まぁ、かわりに、またおもしろいレシピが増えたけれども。
「薔薇の学舎に戻ったら、作ってみようかな」
「それは嬉しいですね。俺たちは食べられませんでしたし」
「変わった名前だったな、あれ」
「パラミタではポピュラーらしいんだよ。ワタシも初めて作ったけどね」
「また少しアレンジしてもいいかもしれないよね!」
 落ち込む八雲をよそに、山南 桂(やまなみ・けい)神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)を含め、四人は和やかに歓談しつつ、宿泊先へと戻っていったのだった。




 花火の終わり。
 夏の終わり。
 
 そしてまた、新たな季節が、始まろうとしている。







担当マスターより

▼担当マスター

篠原 まこと

▼マスターコメント

 このたびは、ご参加ありがとうございました。
 無事、シャンバラの各地をまわることができて、とても嬉しいです。
 いつもはタシガンをメインで書いているため、私自身、新鮮な気持ちで書くことができました。

 各地の紹介文については、多くはマニュアルを参考としましたが、以下2つのシナリオも多く参照させていただきました。
 「ヴァイシャリー観光マップ」http://souku.jp/scenario/guide/4/SNM000583
 「あばよ! 今年の汚れ」https://souku.jp/scenario/reaction/8/SNM001504
 ご快諾いただきましたマスターにも、感謝いたします。

 また、花火大会も賑わいをみせ、成功におわりました。
 ありがとうございました。
 みなさまの夏の終わりの思い出となりましたなら、幸いです。