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うるるんシャンバラ旅行記

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うるるんシャンバラ旅行記

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 その日は、ヒラニプラの街中に一泊し、翌日はいよいよ教導団施設内の見学となる。
 セレンフィリティとセレアナとは別れ、今日の案内役は、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が引き受けることになっていた。トマスや子敬、泰輔とは、今日も一緒である。
「ようこそ皆さん、教導団へ」
「今日はお世話になります」
「楽しんでいってね。ルドルフ校長はお元気かしら?」
「はい」
「見学コースとやらがあるんやろ? よろしゅうたのんますわ」
 泰輔が、レモを背にするようにして立ち、ルカルカに微笑む。
「うん。とりあえず、美術室、音楽室、教室のあたりを一通り回って、食堂に向かう予定よ」
「そうですね」
 トマスも、見学ルートについては把握しているらしい。ルカルカに頷き、彼は列の最後に立った。
「美術室なんかあるんだな」
 カールハインツはやや意外そうだ。案内された美術室は、一般的なそれとはかなり趣が異なる、水墨画や書の掛け軸、中国風の甲冑などが一面に飾られた重厚感溢れる部屋だった。壁際の展示ケースにも、ずらりと展示品が並んでおり、ちょっとした博物館のようだ。
「顕仁さんに以前いただいた書みたいですね」
「ああ、そうやな」
 泰輔は頷く。レモはそのときのことを懐かしく思い出しているようだ。
 次の音楽室は、板張りの床に、備品の楽器がいくつか並んでいた。大きなグランドピアノがとくに目をひく。こちらのほうは、いわゆる『音楽室』の印象そのままだ。
「次は、教室ね」
 うってかわって、各教室は、どちらかというと『小会議室』といった雰囲気だった。ぴしりとならんだミーティングチェアと、前方にはスクリーンが設置され、他に装飾品の類いは一切ない。
「年末には大掃除したりするのよ。その後、新年会もあったりするけど、かなり危険。羽根突きの羽は手榴弾だし……。あ、嘘じゃないのよ」
 え……と頬をひきつらせたレモに、ルカルカはふふっと笑った。
「他にも、兵科ごとに別棟があるの。あれはルカの属してる機甲科、あれはダリルの技術科」
 窓から外を指さし、ルカルカがそう説明する。
「へぇ、じゃああっちは?」
 窓のない別棟を指さし、カールハインツが尋ねると「んー、一寸言えない所ー♪」と彼女は笑って流した。
 おそらく、機密が関係するところなのだろう。やはり軍事基地ということもあり、他の場所とは、規律の厳しさが全く違うのだ。
 一通り見学ルートを見て回ると、別棟の食堂に向かう。入り口の警備員と敬礼をかわし、巨大な食堂施設へと一同は到着した。
 テーブルが並ぶ奥には、広い配膳台と、その奥にまた広い調理場が覗き見える。今の時間は、そこそこ賑わっており、調理場ではひっきりなしに白い湯気があがり、きびきびと食事する教導団員の姿が多かった。
「座っててね。せっかくだから、飲茶をご馳走するから♪」
「ありがとうございます」
 ダリルとルカルカが、連れだって配膳台へと歩いて行く。テーブルに並んで座り、レモと泰輔はあたりを物珍しげに見渡した。
「いつも缶詰ってわけじゃないんだね」
「あれは作戦中だけですよ。普段は、僕もここで食事してます」
 トマスが苦笑する。
「はーい、お待たせ!」
 ルカルカが運んで来たのは、中国茶のセットと、ダリルが用意しておいた餃子などの点心がたっぷり詰まった蒸籠だ。
「美味しそう!」
「ダリルの料理は美味しいからね。たくさん食べて?」
「ありがとうございます」
 レモはダリルにそう礼を言うと、両手を合わせて「いただきます」と頭をさげた。
「それにしても、大きい食堂ですね。ここには、何人くらいの方がいるんですか?」
「配備されている人数は約70000人だ」
 ダリルがすぐさま正確な返答をする。
「ななまん! すごいですね。道理で、設備も大きいんですね」
「あっちの山脈にはね、温泉とかもたくさんあるんだよ」
 ルカルカはそう言うと、窓の外に微かに見える山脈を指さした。
「シャンバラ地方って、温泉がわりと多いよな」
「そうだねー」
 カールハインツの言葉に、ルカルカが頷く。
「ふぅん。この包子美味いわ。お茶にようあう」
「うちの喫茶室は、中国茶はあんまりないんですよね」
 今度提案してみようかな、とレモは呟いた。

 和やかに飲茶を終え、教導団施設の見学はおしまいだ。
「これからどうするの?」
「鉄道に乗って、一端空京に向かう予定だぜ。そこから、海京に降りるつもりだ」
「ヒラニプラ鉄道か」
「僕、鉄道に乗るの初めてだから、楽しみです。……あ、そうだ!」
 忘れないうちに、とルカルカとダリルにもお土産のコーヒーを渡して、レモは「今日はありがとうございました」と礼を述べた。
「トマスさんも、二日間ありがとうございます」
「いや。楽しんでもらえたなら、よかったです。泰輔君にも久しぶりに会えましたしね」
「せやな」
 泰輔が同意する。それから、レモの頭を泰輔はぐりぐりと撫でた。
「もう少しやけど、先に薔薇学で待っとるからな」
「はい!」
 笑顔のレモに、やや声を潜め、そっとトマスが言う。
「泰輔君から聞いています。君はまだ不安定なのだと。沢山の事を見聞きする中で『自分』を見つけてくれると嬉しく思います」
「……はい。本当に、お世話になりました」
「道中、お気をつけて」
 優しい眼差しで、トマスと子敬は、そうレモを見送ったのだった。