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うるるんシャンバラ旅行記

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うるるんシャンバラ旅行記

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 再び飛空挺に乗り、雲海を越える。
 次の目的地は、険しい山岳地帯にある、ヒラニプラだ。
「大きい建物が多いね」
「工場だろう。ここは、機晶都市とも言われているからな」
 剥き出しの山肌、その谷間に沿うようにして、種々様々なプラントが立ち並んでいる。その間を縦横無尽にダクトやベルトコンベアが走り、全体に巨大な灰色の無機物体のようだ。合間にそびえ立つ塔や巨大なクレーンの先端で、赤い光が明滅している。
 ヒラニプラの空港は、観光というよりは輸送用といったほうが近い。賑やかだがどこか荒削りな、ここもまたプラントの一部のような雰囲気だった。
「あ、泰輔さんだ!」
「よー、具合どうや?」
「ごめんなさい、遅れてしまって。もう大丈夫だよ」
「それは、よかったです」
 この空港でレモを出迎えたのは、薔薇の学舎の大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)と、シャンバラ教導団のトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)中尉、ならびに魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)の三名だ。
「ファーニナル中尉、忙しいやろうに、案内役引き受けてくれてありがとな」
「いえいえ。教導団は他と地域とは少し違って、立ち入り禁止区域も多いですから」
「さすが軍隊ってとこか。厳しそうだぜ」
 カールハインツが肩をすくめる。
「今日は許可もとっていますし、あまり緊張せずに楽しんでくださいね」
「はい。ありがとうございます」
 挨拶を終え、一同は和やかに空港を出発した。
 最初の見学は、上空からも見えた、工場地帯だ。
 現地では、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が彼らを待っていた。
「ヒラニプラといえば機晶都市、機晶都市といえばやっぱり工場見学よねー」
 うきうきとセレンフィリティが言う。どうやら、彼女自身、相当楽しみにしているらしい。
「この周辺は、機晶石の採掘場なのよ。それをこの工場で研磨しているわ。他に、発見された機晶姫の修理も行っているの」
 手短にセレアナが説明する。
「ヒラニプラ家は、機晶姫の制作と修繕で名高いのですよ。多くのかつての技術は失われていますが、かわりに地球の技術を積極的に受け入れているのです」
 子敬が生徒に教え諭すように、優しげな口調で補足した。
 工場のほとんどは自動化されており、技師の数は少ない。石を研磨する騒々しい音が、ひっきりなしに周囲に響いていた。
 見学ルートに沿って歩きながら、セレンフィリティは身を乗り出して興味津々だ。レモを案内するというよりも、一番自分が楽しんでいる様子だ。
「あー! あれは最近導入された機器なのよ。以前のものに比べて、時間効率でいうと一五〇%アップ、精製率もあがっていてね」
「そりゃすごいな! あっちのはどうなってるんだ?」
 意外にも、セレンフィリティの勢いについていっているのは、カールハインツだった。どうやら、巨大な機械系に興奮するタイプらしい。
「カールハインツさんが、あんなにはしゃいでるの初めて見ました……」
「意外な一面やな」
 驚くレモに、泰輔はにやにやと笑いながら同意した。
「あまりこういったものは、タシガンにはないですからね」
 触れる機会も多くないだろう、とトマスが言う。
「そうですね。ほとんどが手仕事中心なので……。イコンの整備場は大きいんですけど、あまり僕は行ったことがないんです」
 そんなことを話す間にも、セレンフィリティとカールハインツは、楽しそうにあれやこれやと工場機械について盛り上がっている。ほっておけば、何時間でもここで過ごせそうだ。
「そろそろ小腹が空かない? 昼食の用意があるわよ。ね、セレフィリティも」
 暴走気味のパートナーにもそう声をかけ、セレアナが促す。
「え? ……あ、そうだった!」
 ようやくセレフィリティも思い出したらしい。
「ごめんね、じゃあ、行きましょうか」
「ここで昼食ってことは……もしかして、あれですか?」
 トマスがセレアナに尋ねると「ええ」と意味ありげにセレアナとセレンフィリティが首肯した。
「あれ? ってなんやねん」
「まぁまぁ、お楽しみに」
 トマスもまた、にっこりと笑った。

 工場見学のルートをようやく回り終えると、工場近くに借りた一室で、彼らは昼食をとることにした。
「さぁ、どうぞ。ヒラプニラと言えば教導団で、教導団の食事というとミリメシだからね」
 セレアナが楽しそうに、手にしていた段ボールからどさーっと糧食をテーブルに広げる。缶詰やレトルトパウチ、お弁当型と形は様々だ。
「ミリメシ??」
「戦闘用糧食、レーションとも言うわ。どのような事態にあっても、手軽に栄養を補給するためのものね。そのため、携帯しやすさと調理のしやすさ、および保存期間の長さが重要視されるわ」
「もちろん、味もね!」
 セレフィリティの説明に、セレアナがそう付け加える。
「見た目はどうしても無骨なものが多いんですが、味はなかなか良いんですよ」
「あ、これが今一番教導団内で人気のミリメシなの。山菜おこわ! 定番メニューなんだけど、前よりさらに美味しくなったのよ」
「じゃあ、それをお願いします」
 缶詰を湯煎で暖めている間に、ビスケットやクラッカーをつまみ、ついでにコーヒーを淹れる。その間に、そういえば、とレモがタシガンから持参した土産を四人に手渡した。
「ありがとう! ああ、そうだ。去年旅行のときに植えたコーヒーの木って、大きくなったのかな?」
「ええ、ちゃんと成長しているそうですよ。まだ収穫はできないそうですけど、今度、写真送りますね」
「楽しみにしているわ」
 セレンフィリティとセレアナにレモがそう約束をするかたわら、「この後は、どうするん?」と泰輔がトマスに尋ねている。
「PS隊を見ていただこうかなと。ちょうど、午後に模擬訓練があるんです」
「パワードスーツか。おもしろそうだな」
「僕も仲間達とPS隊を運用してますよ。まだまだ、エキスパートというには程遠いですがね。戦闘だけではなく、危険な場所での工作や救助活動なんかにも用いることができます。……平和的に、マイムマイムを踊ったりもね。ごく例外的にではありますが」
「マイムマイム??」
「例外的ですよ」
「おもろいやん、そういうのも」
 そうこうしているうちに、缶詰が暖まる。予想外のおいしさに、一同は舌鼓を打った。

 食事の後は、トマスのプラン通り、PS隊の訓練の見学だ。
 パワードスーツは、イコンよりずっと小さいが、その分身軽に運用可能な機体といえる。
 模擬訓練では、パワードスーツでの射撃だけではなく、いかに使いこなすかを重要視し、装着時でのタイムをはかっての徒競走や、跳躍など、ちょっとした体育の授業のようでもある。もっとも、トマスがレモを案内するにあたり、あまり過激な訓練は見せないように配慮したともいう。
「なんだか、可愛いですね。ずんぐりむっくりしてて」
「あれでマイムマイム踊るんやろ? 見たいわぁ」
 レモはその図を想像して、可笑しそうに笑った。
「確かに、救助用にはイコンより向いているだろうな。土木作業にもよさそうだぜ」と、カールハインツは興味深げだ。
「そうですね。トマス坊ちゃん…否、ファーニナル中尉たちも、色々な可能性を試しているところです。道具は、道具。その力をいかように使うかは、心によるものですから」
「心に、よる……」
 子敬の言葉を、レモは小さく繰り返した。
「ええ、そうですよ」
 子敬は目を細め、レモを見つめる。レモはじっとPS隊に見入り、また、様々なことを感じているようだった。