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「死の予言」を打ち砕け!

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「死の予言」を打ち砕け!

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第1章 長い夜のはじまり

イルミンスールの森の
無人の家で、その手記は見つかった。
熱に浮かされたように文字は乱れ、
手帳は所々が赤く染まっている。

「夜だというのに真夏の昼のように森はじっとりとした湿気に満ち、
まるで見えざる海獣の触腕のように衣服越しに素肌に纏わりつき、
滴る汗は別の生き物の滴らせた分泌液のように感じられた、
鬱蒼と茂る枝からは辛うじて夜空を望むことが出来、其処には煌々と輝く満月があった。

身体は疲労困憊しきっていたが、感覚は奇妙に鋭敏で、
指先まで不可思議のエナジィが満ちているのが理解できる。 いあ! いあ!
異本アグゲルグィユの黒書に記された逢魔の刻限、
徴の土地とは正に現在、此処であり、星辰は精緻適合していた。 

いあ! そして我は森のニュンペー、サテュロス、矮人どもが等しく崇拝する
かの蕃神に招請すべく、
キシュの印を結び、此処に記すのも憚られる7つの供物を捧げ、その神名を呼ばわった。

いあ! いあ! 幾つもの土塊が盛り上がり、木々がざわめいた。

いや、この「森」こそがかの神格の化身にして憑代だったのだろう。
そして、神格は自らを呼ばわる矮小なる者の聲に応え、使者を送り出したのだろう。

それは不可視であったが、蟠り供物を貪っているのが理解できた、何故ならば、
おお、その捻くれた異界の臓物を、
咀嚼され嚥下される供物が満たす所を見ることが出来たからに他ならない。

我自身の口から出た予言は我の死を示していた、
逃れるすべはNever more(もはやない)

この手記を読む者へ告ぐ、
不可視の、粘液滴る触腕を持つ忌まわしい使者は未だ其処で蹲り、
じっと生臭い息を潜めてお前達を観察し、襲いかかる好機を待っている」

「逃れるすべは―Never more(もはやない)」



DNA鑑定の結果、
手記に染みついた赤黒いものの一部は、
イルミンスール魔法学校クトゥルフ神話学科の、
瓜生 コウ(うりゅう・こう)の血液であると推定された。

しかし、あきらかに人間の血液とは異なった組成の液体もまた、
その手記には染み込んでいたのだった。


イルミンスール魔法学校クトゥルフ神話学科の
瓜生 コウ(うりゅう・こう)さん(19)が、
2022年8月某日未明、行方不明になりました。
警察は怪物に襲われて死亡した可能性が高いとみているとのことです……。



【森の魔女】の名を持つ魔術師が、
どのような最期を遂げたのか、それは手記から推測するほかはない。

しかし、それ以上に重要なことは、
「その存在」が、
いまだ、人里の近くを徘徊しているということなのだ……。



===
汝、瓜生 コウ(うりゅう・こう)は、
魔術儀式の結果、おぞましき存在を呼び出してしまい、
その身を生きたまま食われて死ぬであろう。
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