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よみがえっちゃった!

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よみがえっちゃった!

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 消えた麗華の行方を求めて優希とミラベルがあたふたと消えた公園に入れ替わりでやってきたのは、クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)だった。

「おお、これは…!」

 目前、展開されている無人島仕様風超ビキニと縄文人風ワンショルダー女の子たちばかり(七刀 切(しちとう・きり)は完全スルーされた)という光景に、クドは全身を大きくわななかせ、感動に打ち震えた。

「まさかこのような眼福に出会えるとは…! もしやここは桃源郷か…?」
「――うん。すごいこうけいだね。だからとまどってるのはわかるよ。ミルチェもそうだから。
 でもまずじーちゃんふくきたほうがいいとおもうんだ。たいほされちゃうから」

 じーーーんと感じ入っているパンツ1丁のクドの横に並んで立って、ミルチェ・ストレイフ(みるちぇ・すとれいふ)が冷静にツッコミを入れる。
 しかしクドにそれを聞き入れる様子はなかった。
 それどころか、1音も耳に入れていないようだ。
「……うん。そうだとおもったよ。だってじーちゃん、いっつもパンツだけだもんね」
 生ぬるい目をして、ミルチェは1人うんうんうなずく。

 クドがパンツ1丁なのはいつものこと。
 ただその言動が、いつもとは違った。


「ちょっとちょっとそこ行くおにーさん。あなたの過去か前世をよみがえらせてあげるのですよー」


 とか言って近付いてきたフードマントの占い師に、タダだと言うからためしに見てもらった直後。

「ここはどこだ…? ああ、まさかここはかの地ではないのか…?
 ああ! ああ! そうだ! どんどん思い出してきたぞ! わたしは求道の騎士ストレウス。パンティメディアスの鐘の音を鳴らすためにラランジュリの塔へと向かっているのであった! この名誉ある使命をなぜ忘れることができたのであろうか! おお、不覚であった! 
 こうしてはおれぬ! 一刻も早くあの地へ向かわねば!
 わが天帝より授かりし聖なる衣よ、われを黄金あふるる白布の都、伝説の地へと導きたまえーーーーっ!」

 とかなんとか、えらく古風な芝居がかった口調でぶつぶつつぶやき始めたと思ったら、いきなり服を脱ぎ出しパンイチになって走り出したのだ。
 そしてたどり着いたのがこの公園だったというわけだ。


「ここがじーちゃんの言ってたらんじぇりーのとうとかいうのがあるところ? だいぶちかかったねー」
「すばらしい! 見ろ、あの者たちを! 皆パンツを履いている!!」
「ああ、うん……そりゃあはいてるとおもうよ」

「なんということか…。わたしの生きていた時代では全て廃されてしまったパンツを! 
 ノーパンを至上とし、至高とし、信仰していたあの世界では失われてしまい、わずかにこの限られた者のみがまとえる聖なる衣数枚だけが残るのみとなったパンツを! こんな、いともたやすく身に着けている者に出会えるとは…!」

 いつしか目じりににじんだ涙がきらきらと輝いて流れるのを見て、ミルチェはぎょっとする。
「じーちゃん?」

「なんと、なんとすばらしい世界なのだ! まさかこのような世界が存在し得ようとは!!
 ああ、こうしてはおれん! わが従者ミルチェよ! 手綱を締めよ! 剣を抜け! 丘へ向かうぞ…!」
 ハイヨー! シルバー!



「え? おか? じーちゃん、かねをならすんじゃなかったの?」


 しかしやっぱりクドは聞いちゃいなかった。
 パンツ丸見え(?)の超ビキニはスルーして、まっすぐ縄文人スタイルの女性の元へ突っ走る。そして足の間めがけて頭からスライディングをかけた。
 ずざざざざーーーーーーーっ! と、まるでイメトレで陸上クロールでもしているような体勢で、ぴったり女性の足の間に頭を入れる。

「きゃーーーーっ!! 何っ!? あなた!!」
「おお! これぞまさしくわれが生涯かけて追い求めた至高の黄金(パンツ)なり! ――ぶっっ!」

 ついに目にすることがかなった、と感動しているところへ、女性の靴のかかとが落ちる。
 顔に靴跡をつけながら、しかしクドはめげなかった! 次の女性の足元へずざざざざーーーっ!

「さっきの人といい、何なのよ! もおーーーっ!!」



 女性たちの悲鳴を聞きつけ、皆川 章一(みながわ・しょういち)がたどりついたとき、そこには女性たちに囲まれ一斉に蹴られているパンイチクドの姿があった。

「うっ…」

 よもやこんな光景が展開しているとは思ってもみなかった章一は、一歩後ろに退いてしまう。

(た、助けに入るべきだろうか…?)
 しかしクドは一切無抵抗で蹴られるがままになっているし、鼻血をたらしつつもその面には幸せそうとも見えるうっとりした表情が浮かんでいるし。
 それに、そもそも自分は彼女たちを助けるべく走ってきたのではなかったか?


 だがどう見ても助けが必要そうな女性はどこにもいない。


「このっ! このっ! このっ!!」
「変態っ!!」
「クズ!」
「死んじゃえっ!!」
 ゲシゲシ、ゲシゲシ。
 クドを踏みつけ、蹴りつけている。
 この場合、見なかったフリして立ち去るべきかとも思ったが、元来おひとよしの章一はどうにも放っておけなかった。

「待ってくれ」
「なに? あんた。あんたもこの痴漢の仲間なわけ?」
 ギロリ。わけも分からず服を破かれ、その後パンツを覗かれた女性たちの怒りはハンパない。


「いやっ! 違う! 全然違う!!」
 章一は全力で首を振る。
「だがもう十分じゃないか? そいつ、無抵抗で蹴られているし、血も流してる」

 ――鼻血ですが。


「やだ! キモい!」
 よくよく見れば、痴漢の男はされるがまま、まるで「これもご褒美です」と言わんばかりの恍惚の表情をしていることに気づいて、女性たちも身を退き始める。

「おや? あなたは」
 開けた視界にようやくクドが章一に気づいた。
 章一は反射的、ビクッと身構えてしまう。

「ああ……あなたはもしや、前世で私を殺したノパンの一派の騎士ではありませんか…?」
「い、いや、俺は――」
「いえいえ。隠すことはありません。もう私たちに敵同士である理由はない…。昨日の敵は今日の友、さすれば前世の敵は今生の親友です…」
 ずりずりと、クドはずたぼろの体で匍匐前進をし、章一に近付こうとする。


 鼻血を垂らし、左のまぶたをぷっくり腫らしているのに満面の笑顔。その異様さに、思わず章一はあとずさった。


「おや? あなたももしや、パンツをはいておいでで…?」
「……あ? そ、そりゃ……はいてるに決まってるだろ…?」
 何が言いたいんだ? こいつ。
 いぶかしむが、それをクドはごまかしととったようだった。
「ふーむ。どうもあやしいですね……なにしろあなたはノパン一派。
 脱いで見せてください



「……はあっ!?」


 ずりずり。
「本当にはいているのであれば、なにも隠さずともよいでしょう……それもまさかその服はごまかすためで、実ははいてないのではないですか…?」
 ずりずり。
「なっ、なんで俺がここで服脱いでおまえにパンツ見せなきゃなんないんだよ!!」
 なんだ? 真正の変質者なのか? こいつ!?

「頑固ですねぇ…。これはもしや本当にはいてないのでしょうか。いけませんね、あなたほどの騎士ともあろう方がそんなことでは」
 よっこらしょ。身を起こしたクドは、いきなり自分のパンツを脱ぎだした。
「私の聖なる衣を貸し与えてあげましょう」


「……!」


 衝撃のあまり、章一はとっさに声が出なかった。
 青ざめた顔で懸命に首を振って見せるが、クドは止まらない。

「なに、あなたは私の親友、遠慮することはありません……さあこの聖なる衣をおつけなさい…」


 砂と血で汚れた自分のパンツを手に笑顔でふらふら近寄ってくる、まるでゾンビのようなクドを見て。
 ぷちっと章一のこめかみのあたりで何かが切れた。

「ち、近付くんじゃねえーーーっ!! このドヘンタイ野郎ッッ!!」

 ショットガン連射!!
 近距離で発射されたゴム弾は次々とクドの体にめり込んで紙のように吹っ飛ばす。


「げふゥッ!!」


「あーあ。やっぱりこうなった」
 ぴくぴくしているクドを見下ろし、ミルチェは驚きもせず、ふうと息をついただけだった。


 一方で。


「……ぱんつ…?」
 七刀 切(しちとう・きり)が、だれにも聞き取れない小さな声で、ようやく初めてつぶやきをもらした。