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デスティニーパレードinニルヴァーナ!

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第三章


「いらっしゃいませ!」
 入店してきた客に、笑顔で接客する白波 理沙(しらなみ・りさ)
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませー。たいむちゃんの売店へようこそー」
 瑠樹とマティエも反応して声を上げる。
「可愛いグッズが揃ってます! どうぞご覧になってください!」
 理沙は手で道を促し誘導するのだが、
「あんなに可愛いたいむちゃんのお店なのに……」
 客も疎らな店内に、侘しさを感じていた。
 理沙の視線を追うと、客と楽しげに話しているたいむちゃんの姿。しかも、大好きなウサギ姿にハロウィンコス。ここに手伝いへ来た時から理沙のテンションは上がりっぱなし。
 彼女をもっと喜ばせるたい。そのために自分ができること。
「そうだわ! 呼び込みとかあってもいいわね。たいむちゃんが店頭に居てくれればきっとお客さんの興味を引けると思うわ♪」
 思い立ったが吉日、すぐにパートナーの美麗・ハーヴェル(めいりー・はーう゛ぇる)へと呼びかける。
「美麗、用意はできてる?」
「ふふふ、もちろんですわ。割と自信作ですのよ」
 取り出したのは、たいむちゃん着ぐるみ。
「ハロウィンということで、オレンジカラーがメインのドレスを着させてみましたわ」
「流石、仕事が速いわ!」
 こんなこともあろうかと、事前に作成してもらっていた着ぐるみ。それを更に改良していた。
「さて、これを着るのはやっぱりピノよね。ピノ、いる?」
「ピノを呼んだ?」
 呼ばれて寄ってくるピノ・クリス(ぴの・くりす)。小柄な身長でぺたぺた歩く姿はそのままでも可愛いが、衣装のことを考えると最適なのはやっぱりゆる族なのだろう。
「ピノも一緒に呼び込みを手伝って」
「お客さんを呼ぶ係り? うん、いいよー」
「それじゃ、これに着替えてね」
「一人じゃ着るのが難しいですから、私も手伝いますわ」
 二つ返事のピノに、着ぐるみを着せる美麗。その合間に、理沙はたいむちゃんに声を掛けた。
「たいむちゃん、ちょっといい?」
「ん? 何かな?」
 近寄ってくるたいむちゃん。それだけで理沙の意欲は満たされていく。
「お願いがあるんだけど、呼び込みをしてくれないかな?」
「呼び込み?」
「うん、外で『こんな商品がありますよ』ってお客さんに呼びかけるの」
「それって、この格好でいいの?」
「もちろん! 寧ろ、その格好の方がいい!」
 前のめりになる理沙は、
「ピノも呼び込みを手伝うって言ってるし、一緒に行ってくれるわ・よ・ね?」
 たいむちゃんの手を取り懇願。いや、これはもう有無を言わさない脅迫に近い。
「た、たくさんの人に来て貰えるなら、やってもいいわよ」
「ホントッ? ありがとう!」
 陽気なたいむちゃんも押され気味に承諾。それを見計らったように、
「理沙様、準備が終わりましたわ」
 衣装を纏ったピノが現れる。
「わあぁ、可愛いね」
「キミの着ぐるみなんだよ」
 対面したたいむちゃんとピノ。
「これなら集客間違いなしですわね……あら、理沙様?」
 小刻みに震えている理沙。何事かと思いきや、そそまま両手を挙げて、
「もうダメっ! 少しだけ時間を頂戴! 記念撮影させて!」
 臨界点を突破してしまった。
「あらあら、理沙様は本当に可愛い系がお好きですわね」
「はいはーい、二人並んで並んで!」指示をしつつ、ポケットから携帯を取り出し、「はい、チーズ!」
 写した写真を眺め、
「これ、待ち受けにするわ!」
 恍惚に浸る。
「完全に浸ってますわね」
「ピノたち、どうしよう?」
「予定通り外で呼び込みをお願いいたしますわ。理沙様は復帰するまで私が傍に就いていますわ」
「ちょっと待って! 私も一緒に外へ行くわ!」
「まあ、お早いお帰りで」
「二人をずっと眺めて居たいもの。あ、ちゃんとお手伝いもするよ?」
 欲望に忠実な理沙を見て、たいむちゃんは「クスッ」と忍び笑いを漏らした。

 外に出た四人。
 そこに鉢合わせる形で佐野親子、セレンフィリティとセレアナ、エース、キロスとルカルカがやってきた。
「あっ、お母さん! たいむちゃんが二人いるよ!」
 駆け出す悠里の後ろから微笑んで歩いてくるルーシェリア。
「これは、理沙さんじゃないですかぁ。ということは、こちらはピノさん?」
「そうだよ! かわいいでしょ?」
「ええ、とっても可愛いですぅ」
「ルーシェリアたちも、ハロウィンコスが似合ってるね」
「ありがとうございますぅ」
「お母さん! 早く早く!」
「はいはい、今行きますよぅ」
 店内へ入る佐野親子。
「へぇ、ここはぬいぐるみを売っているのね。セレアナ、ちょっと寄って行きましょう」
「セレンがぬいぐるみを欲しがるなんて……やっぱり女の子なんだ……」
「な、なによぉ! あたしだって女の子なんだから!」
 言い合いつつも、腕を絡めて入店する二人。
「お嬢さん、こちらに馬系のぬいぐるみは置いてありますか?」
「はい、ありますよ」
「ありがとう。それにしても可愛らしい耳ですね。それもこちらに?」
「確か、瑠樹さんが用意してくれてたと思うから、中で尋ねてみてください」
「これはご親切に。園内だとなぜか耳を付けたくなるんですよね。特に可愛らしいお嬢さんの様な耳だと」
「まあ、ありがとうございます」
「おっと、俺としたことが忘れていました。これは挨拶のしるしです。それでは」
 たいむちゃんに一輪の薔薇を捧げ、リリアへのお土産とたいむちゃんの耳を手に入れるため歩を進めるエース。
「やっほー、たいむちゃん!」
「って、連れて来たのはここかよ」
「ルカルカさんにキロスさん!」
「ねぇ、ここでぬいぐるみを作ってくれるって聞いたんだけど」
「はい。メルヴィアさん?」
「私を呼んだ?」
 奥から現れたのはメルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)。言わずと知れた、可愛いもの好きの少佐。本人は隠しているつもりらしい。
「メルヴィア少佐、昇進おめでとう御座います」
「ルカルカか。おまえもおめでとう」
「ぐはぁ、ここでもかぁ」
「ここでもって、どこかで言われたのか?」
「ええ、長曽禰中佐に」
「ああ、中佐か。確かに言いそうだ」
「聞かれたら怒鳴られますよ?」
 笑いあう二人。
「そうだ! これ、お祝いです」
 そう言って差し出したのは先程貰ったぬいぐるみ。
「……ありがとう。気は進まないが貰っておく」
 とか言いながら、内心は感謝で一杯だった。それを隠すため、話題を変えるメルヴィア。
「ところで、さっきもう一人、人影が見えたが?」
「それは多分キロス……って、居ない?」
「キロスさんなら、着ぐるみに着替えて行きましたよ?」
 たいむちゃんの視線を追うと、走る着ぐるみの姿が。
「もうっ! メルヴィア少佐、すいません。ルカはこれで失礼します」
「ああ、ダリルにも宜しくな」
「はい!」
 去ってくルカルカの後に、たいむちゃんのぬいぐるみを持った悠里が戻ってくる。
「ねぇねぇ、さっき言ってた、ぬいぐるみを作ってくれるって、本当?」
 その質問に答えたのは十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)だった。
「ああ本当だ。メルヴィアさんが君の作って欲しいぬいぐるみを作ってくれるよ」
 そして、着替え終わったリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)もやってくる。
「そうでふ。メルヴィアさんにかかれば、お茶の子さいさいでふ」
「わあっ! お母さん! たいむちゃんが三人になったよ!」
「あらぁ、良かったわねぇ」
 喜ぶ悠里を優しく見つめるルーシェリア。リイムは二人に尋ねる。
「お客さんは、どんなぬいぐるみがいいでふか?」
「そうですねぇ、私たち二人の人形をお願いできますかぁ?」
「うんっ、お母さんと一緒がいいわ!」
「とのことですが、メルヴィアさん?」
「わかった」
 簡潔に答えたメルヴィアに、たいむちゃんが申し訳なさそうに言う。
「ごめんね、私が裁縫できなくて……」
「気にするな。趣味、みたいなものだからな」そこでフッと表情を和らげると、「おまえは笑っていろ」
 ポンッと肩を叩く。
「は、はい!」
「やっぱり、メルヴィアさんは憧れまふ!」
 それを見ていたリイムの表情が蕩けそうになっていた。
 宵一は「それでは」と佐野親子に向き直り、
「製作には多少のお時間をいただきます。その間、遊園されていただいても構いませんが、こちらでお茶のご用意をさせていただいております。どうぞ、ご使用ください」
「ありがとうですぅ」
「楽しみだわ!」
 執事服で腰を折る。更に、
「メルヴィアさんも休憩に使ってください」
「ああ、そうさせてもらう」
 製作者への気遣いも忘れず行っていた。
「ねぇ、あたしたちもお願いしていい?」
 そこへ新たに注文にやってきた客、セレンフィリティとセレアナ。
「って、メルヴィア少佐?」
「なんだ、おまえらも来ていたのか」
「もしかして、少佐がぬいぐるみを?」
「プライベートでな」
 気兼ねしなくても良いようにそう述べる。それを理解した二人は、
「それじゃあ、あたしたちも二人の人形をお願いするわ」
「折角のハロウィンなので、セレンは魔女、私は吸血鬼の格好で」
「わかった、待っていろ」
「お二方もお茶などいかがでしょうか?」
 後を引き継ぐ宵一。
「そうね、そうするわ」
 椅子に腰掛け、紅茶を傾けだすセレンフィリティたち。
「私は製作に入る。後は頼んだ」
 宵一にそう告げると、メルヴィアは店内を奥へと進む。
 その後姿を見送り、リイムはたいむちゃんに声を掛けた。
「あの、たいむちゃん」
「何かな?」
「メルヴィアさんのために、一つぬいぐるみを取って置いて貰ってもいいでふか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうでふ!」
 申し出にたいむちゃんは快く応じてくれた。


 それからしばらく経ち――。
「流石に少し疲れたか」
 縫製のために設えられた部屋。
 受注された分を縫い終え、一息ついたメルヴィア。
 首を鳴らすと、丁度ノックが聞こえた。
「入れ」
「大尉、お疲れさんです」
 入ってきたのは瀬山 裕輝(せやま・ひろき)だった。
「あ、こないだ昇進して少佐になっとりましたね。遅ればせながら、おめでとうですわ」
「おまえ、おちょくりに来たのか?」
 半眼で睨むメルヴィア。
「いやいや、滅相もない。オレはオレのしたいことをしに来ただけやさかい」
「ほう? 言ってみろ」
 興味を持ったのか、口の端を吊り上げ促す。
「こないな祭りの時に辛気臭い顔してたら幸せどころか何もかも逃げてってしまうやん? 少佐も仕事とかしんどそーやし、実際しんどいんやろーけど、まあ、気分転換くらいは付き合ってやろうかと思ぅて」
「それは私を慰めてやる、そう言っているのか?」
 その問いに、裕輝はこう答えた。
「や、ちゃうよ? オレはオレがしたいことに少佐を巻き込もうと思っただけや」
 それは何とも傲岸不遜な台詞だった。
 流石のメルヴィアも目を丸くしたが、
「今まで私に、これほどまで無遠慮な奴がいただろうか?」
 いや、居ないな。そういうと、堪えきれず笑いを零す。
「ハハッ、面白い。その話、乗ろうじゃないか」
「ホンマですか? ほな、よろしゅう頼んますわ。ついでに呼び方も考えてみたんやけど」
「この際だ、言ってみろ」
「『メルヴィン』でどうでっしゃろ? どこぞの勇者っぽい感じで」
 七と五を合わせたお人。性別は……気にしない方向で。
「ふん、好きに呼べ」
「ならそうさせてもらいますわ」
 そうしてメルヴィアは腰を上げ、
「それじゃ、付き合わせて、いや、付き合ってもらおうか」
 部屋を出て行く。裕輝は少しだけ部屋に留まると、
「ちょい待ってや」
 慌てて追いかける。
 その場にかぼちゃでじゃれる猫のぬいぐるみを置いて。