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デスティニーパレードinニルヴァーナ!

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デスティニーパレードinニルヴァーナ!
デスティニーパレードinニルヴァーナ! デスティニーパレードinニルヴァーナ!

リアクション

「時間を食っちまったぜ」
 軽食として用意していたサンドイッチを頬張り、長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)は「よしっ!」と鋼色のボックスを叩いた。
「これで設置完了だ」
「長曽禰さん、終わったの?」
「おう、たった今な」
 振り向くと、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が手に飲み物を持って立っていた。
「はい、差し入れです」
「お、サンキュー」
 喉が渇いていたのか、広明は一気に流し込む。
「んくっ、んくっ……ぷはぁっ! 力仕事の後はやっぱうめぇな!」
「ごめんなさい。私、機械のことは詳しくないから見ているだけで……」
「あん? そんなこと気にするな。元々これはオレがやりたくてやったことだからな」
 空いた手で撫でるは鋼色の箱。
 ニルヴァーナの生物と仮想空間で戦える、いわば戦闘シミュレーターだ。
「こいつがあれば、これからのニルヴァーナ開拓も幾分楽になるだろう」
 この大地で猛威を振るう『イレイザー』に『インテグラル』。それに対抗する戦力を育成するには、こういった仮想現実世界の構築が必要不可欠だった。
「でも、どうしてデスティニーCに作ったの?」
「多種多様の人が訪れるからだ。何かの折で有効な対抗策が発見されるかもしれない。それに、若い連中が集まるここだと、遊び感覚でできるだろ?」
 ニッと笑う広明。その表情がイタズラを仕込んだ子供みたいで、九条はクスッと笑ってしまった。
「おっと、時間が押しているんだったな。後は起動させて簡単なデバッグ作業――」
「あ、それなら私にもでき……いえ、協力させて!」
「おおっ? 急にどうした?」
「あ、いえ、あの……」
 予想外に大きな声を出してしまい、赤面して俯く九条に目を丸くした広明だったが、直に顔を綻ばせると逆に頼んだ。
「まあ、実際にシミュやってもらうだけだしな。オレだけだと偏ったデータしか取れないし、手伝ってくれるか?」
「も、もちろんです!」
 先程とは違う色で頬を高揚させる九条。それは手伝える嬉しさと、彼の造ったシミュを最初に体験できる喜びからだろう。
「んじゃ、中に入ってくれ。今起動させる」
「わかりました」
 中はイコンのコックピット仕様になっていた。着座すると画面が青緑に光る。
「先ずは自身の操作キャラ選択だ。好きなものを選んでくれ」
「えっと、それじゃあ」
 選択したのは魔法少女。生身である。
「……その発想はなかった」
 流石に広明の予想を越えたチョイスだった。
「まあ、オレにない発想をしてくれないと、デバッグの意味もないからな……」
 バグ確認はありとあらゆる状況を試す。そういう意味ではこの選択は間違いではない。
「よし、次は敵の選択だ。といっても、生身で相手するなら『イレイザー・スポーン』が妥当だろう」
 九条も分かってか、敵の設定は予想通りだった。
「んじゃま、シミュレーション、スタートだ!」

「思うに、難易度変更をつけたほうがいいかもしれません。ニルヴァーナの生物は強敵ですが、それを倒せないとなるとアトラクションとしては面白くないかもしれませんね」
「やはりそうか……」
「といっても、訓練目的であるならそうでなければ困りますし、参加する相手である程度切り替えが出来るようにしておくのもいいと思います」
「そうだな、ありがとう。参考になった」
「いえ……お役に立てて何よりです……」
「だが九条、魔法少女でプロレス技というのは……」
「あ、お客さんが来たみたいですよ。ようこそ、シミュレーションルームへ!」
 二人の相談は来客第一号によって中断された。
「やっほー! 予告通り来たよー!」
「ルカ、作戦中ではないとは言え、長曽禰中佐は上司だぞ。もう少し慎みをもて」
 元気に暖簾を潜ってきたのはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を連れたルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。
「お、来たか」
「そりゃ来ますよ。何たって長曽禰中佐が造ったシミュレーターだもん。あ、中佐昇進おめでとう御座います!」
「おいおい、止してくれ。別になりたくてなったわけじゃないんだ。それに、ルーも大尉になったんだろ?」
「ぐはっ、反撃がきたぁ」
 片目を瞑り、お腹を押さえるルカルカに渋い顔を向けるダリル。
「だから、上司にはもっと礼節を弁えてだな――」
「ガイザック、気にするな。本部で会っているわけでもないし、任務中でもないんだ。お前ももっと夢の国とやらを楽しめよ?」
「はっ、そうさせていただきます!」
「おいおい、硬ぇよ……」
「大丈夫だよ、長曽禰中佐。こう見えてダリル、ここに来るまでそわそわしっぱなしだもん」
「何だ、トイレか?」
「もう、中佐でも失礼だよ? シミュがやりたくてうずうずしてたんだよね?」
「いや、俺は決して、そんなことは……」
「隠してもバレバレなんだから」
 自宅にもシステムを構築するほどの機械好き。そんなダリルがこのシミュレーターに興味を示さないわけが無い。
「……お恥ずかしい限りです。僭越ではありますが、私どもに体験させてもらってもよろしいでしょうか?」
「だから硬いって」
 変わらないダリルの態度に苦笑する広明は提案を持ちかけた。
「わかった、やらせてやる代わりに、その敬語を止めろ」
「は?」
「それと、後で意見も聞かせろ。どうだ?」
「長曽禰中佐がそれでよろしいのであれば……」
「はい、だめー!」
 手でバッテンを作る。
「そんなんじゃ、改良点を話し合う時、言いたいことが言えねぇだろ。オレは生の意見が聞きてぇんだ。このシミュを完璧にするためにな」
 そう思っていることも事実だが、これは広明の気遣いでもある。
「……わかりました。協力します」
「おう、それでいい。ちったぁ、マシな面になったぜ?」
 歯を見せて笑う姿は、上官と言うよりも気のいいおやっさんだった。
「それでよ、お前ら、ルーとガイザックはイレイザーと戦ったことがあるよな?」
「戦ったこと有りますよ。だから外皮を切り裂く感触も、骨をへし折った音もわかりますよぉ」
「いや、そこまでを期待して聞いたわけじゃないんだ……」
 笑って話すルカルカだが、内容は意外と残忍。広明も多少引いている。
「それを踏まえての感想などを頼むわ」
「わかったよ!」
「了解です」
 シミュレーターに入った二人の選んだ機体はヨク。自分達の手持ちイコンならば、より正確なデータが検証できるだろう。
「よっしゃ、一つ、派手にやってくれ!」

 筐体の扉が開き、ルカルカとダリルが出てくる。
「流石にすげぇスコアだな……」
 感嘆を漏らす広明。
「彼女達が前線に立っているのも頷けますね」
 九条もそれ以外の感想が出てこない。
 躍動的に前へ出て、引き付けた攻撃を紙一重でかわしてからの一撃。そのまま縦横無尽に動き回ったルカルカ。
 対照的に遠距離から相手の動きを予測し、無駄や危険性を排除して攻撃を加えたダリル。
「悔しい! ダリルに負けるなんて!」
「アルゴリズムが少し単調だったのでな。動きの予測が直にできたんだ」
 勝敗を分けたのは、仮想演算というダリルの十八番部分だった。
「複雑にしたつもりだが、まだ足りなかったか」
「経験上、今の動きで問題はないですが、相手は生物。予想の上を行く可能性も考慮しないと」
「そうだな。だが今は時間が無い。このままアトラクションを進めるしかないな」
「そうですね、仕方ないですが。でも――」
 ダリルは広明に要望を挙げた。
「俺達がテーマーパークを作る時、これの改良版の作成を依頼してもいいですか?」
「ああ、もちろんだ……っと、これは景品だ、受け取れ」
 快諾すると広明はポイッと景品を投げる。
 それはインテグラルとファースト・クィーンのぬいぐるみだった。
「景品ってそれだったんだ……」
「やったね!」
「ありがとうございます」
「んじゃま、今度こそアトラクション開催……つっても、機械は勝手に動くか」
 筐体はこのまま放置でも稼動する。それ幸いに、プログラムの吟味を始めだす広明。
「俺も手伝います」
「私も感想を言ってもいいですか?」
「おう、ありがてぇ」
 その背から、ダリルと九条、二人は体験したことを元に意見を交わす。
「あーあ、完全に話し合いになっちゃったよ」
 その間どうしようかとルカルカが辺りを見ると、へとへとになったキロスを発見。
「ああー、しんどい。やっと自分の足で歩けるぜ……」
 どうやら、やっと『インテグラるん』から解放されたらしい。
「ほえ? キロス?」
「なんだ、ルカルカか」
「今一人?」
「まあ、そうだな」
「よし、それじゃちょっと付き合ってよ」
 そして二人は遊園へと出かけていった。