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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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   二一

「ベル!!」
 洞窟から戻ってきた面々にベルナデットを見つけ、平太はその場に立ち尽くした。
「何やってるんだ、行けよ」
 入り口にいた柊 恭也は、煙草に火を付けながら言った。彼と麻篭 由紀也が攻撃する直前に、オーソンのサークレットが壊れ、ベルナデットの動きが止まった。二人は咄嗟に軌道を変えたが、【サンダークラップ】はカルスノウトに当たり、【シャープシューター】は三つ編みの縛っている部分を弾き飛ばした。
 ベルナデットは二人に体育館へ運ばれ、他の機晶姫や剣の花嫁と共に、並べられた布団で眠っていた。
「ベル……」
 抱きつきたい衝動に駆られたが、気恥ずかしくてとても出来ない。平太はしゃがみ込み、ベルナデットの顔を見つめながら「お帰り」と笑った。
 由紀也と恭也は、顔を見合わせ、パチリと手を合わせた。
 役目を終えたカタルは、力尽きて、医務室に運ばれた。後から駆け付けたオウェンが、今は傍についているという。
 房姫と匡壱は、任務の完了をハイナへ報告しに行った。オーソンの言葉のほとんどは真実らしかったが、最後の最後、房姫は「嘘をついている」と感じた。しかし、それが何であるかは分からない。


「それで結局、どうして元に戻ったの?」
 レキ・フォートアウフは、リプレス――ユリンの残したガントレットと、オーソンが捨てたサークレット――を前に、尋ねた。二つの違いは、高月 玄秀が黒曜石と呼んだ黒い石が嵌まっているかどうかだ。
「ユリンがいなくなった後、落ちていたこれを拾って試しに腕に嵌めてみたのよ」
 それはかなり勇気のいることだった。下手をすれば、他の仲間のようにおかしくなる可能性もあった。だがユリンが指揮官で、このガントレットがその道具なら、別の人間が成り代わればいい。
 漆髪 月夜は左腕にそれを装着した。特に何も起きなかったが、目を瞑って一つの言葉を一心に念じた。
「任務解除」
――と。
 実際、それが成功したのを知ったのは、猪川 勇平たちと合流してからだ。
「こっちのサークレットにも、石があったんじゃろ? それが割れたというのは、どういうことじゃ?」
「オーソンの方は、不完全な品だったんじゃないですかね」
と言ったのは、水無月 徹だ。
 新風 燕馬の推論が正しければ、ユリンのリプレスが本体で、オーソンのそれは中継機とも言うべき物だろう。実際に操ることは本体にしか出来ず、また「新たに操ること」と、「命令の更新」を同時に行うことは難しい。――不可能と言い切れないのは、指揮官であったユリンの性格を考慮してのことだ。
 そう考えれば、ユリンと明倫館という遠距離にも関わらず、中継機が壊れるまで草薙 羽純やアストライトたちが元に戻らなかった理由が分かる。また、中継機だったからこそ、ローザ・シェーントイフェルは再度操られることもなかった。
「これは、機晶石なのかな?」
 レキはガントレットをちょいちょいと弄った。さすがに石そのものに触れる勇気はない。何が起きるか分からない。
「黒曜石にも見えますけどね……まあ、それはこれからの調査次第でしょう。――もう大丈夫なんですか?」
 後の言葉は、部屋の外に向けてだ。会議室の扉が開き、平太がベルナデットと一緒に入ってきた。
「はい。ベルが皆さんにお礼を言いたいそうです。どうしてああなったかは、よく覚えていないそうですけど、とにかく、ご迷惑をおかけしたみたいだからって」
 三つ編みが切れたベルナデットは、後ろが中途半端な長さになり、前髪が目を覆っていた。
「この度は、ご迷惑をおかけしました」
 声はくぐもり、明らかに普段の彼女とは違う。
「大丈夫か? 【命のうねり】をかけてやろうか?」
と、ミア・マハが心配そうに尋ねた。
「大丈夫です……」
「あっ、それ、リプレスですね。僕にも見せてください」
 机に置かれたリプレスを見つけ、平太は駆け寄った。ベルナデットはミアに会釈すると、平太に続く。
「面白いですねー。これ、機晶石なんですか?」
 レキと同じ質問をしたために、その場が軽い笑いに包まれた。なぜ笑われたか分からず、平太は目をぱちくりとさせた。
「随分と和やかだな」
 その声に、全員が凍りついた。
 咄嗟に武器を抜き、声のした方へ構える。
 窓枠に、ドライア・ヴァンドレッド(どらいあ・ばんどれっど)と黒装束――これは、東 朱鷺(あずま・とき)だった――が座っている。
 徹がドライアへ斬りかかり、ミアが【稲妻の札】を投げつけた。月夜も「ラスターハンドガン」を構えたが、彼女には戦う力はほとんど残っていなかった。
 窓が吹き飛び、その周辺に大きな穴が開く。
 誰もが二人に集中していたその隙に、細い手がリプレスを掴んだ。真っ先に気付いたのは、平太だった。
「……ベル?」
「危ないぞ!」
 ベルナデットがドライアと朱鷺へ向かうのは、攻撃のためだと誰もが思っていた。
 次に彼女がガントレットを己の腕に装着したとき、ベルナデットの洗脳は解けていないのか、と全員がそう考えた。
「ベル、何してるの?」
 くすり、とベルナデットは微笑んだ。黒い髪をかき上げ、目を細めて契約者たちを見つめる。
「……あれ?」
 平太がぽつんと呟いた。
 黒い髪、白い肌。それは確かにベルナデットだった。
 だが緑の優しげな瞳は、全く違う、紫へと変化していた。
「残念ですねえ、坊や」
 声こそベルナデットのものだ。だが、その口調は、そう――、
「坊やの大切なお姫様は、もういないんですよ」