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あなたが綴る物語

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あなたが綴る物語
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リアクション


■オープニング

「もう。だめだよ、笑ってばかりいないで、ちゃんと考えて」
「いやでも、だって…」
 ドア越しにかすかに聞こえるふざけ合う声に、なかに人がいるのを確信して、コンコンとノックする。
「入るわよ、ミシェル、佑一」
 プリムラ・モデスタ(ぷりむら・もですた)が本を片手にドアを開いたとき、なかの光景は、ちょうど腹を立てたふうのミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)矢野 佑一(やの・ゆういち)が笑いながらぽかぽか叩かれているところだった。
「「あ、プリムラ」」
 申し合わせたように2人が彼女の方を向く。
「どうかしたの?」
「借りてた本を返しにきたのよ。何かあったの?」
 見ると、2人の向かっていたテーブルの上には、1枚のハガキがあった。
「何? これ」
「ミシェルが新刊フェアで応募したハガキが当選したんだ。本の登場人物になれるっていうからちょっと考えていたんだけど、結構難しくて」
「……恋愛物なのね」
 当選ハガキの内容をつらつらと読んで、ぽそっと言う。
「うん。あ、そうだ。プリムラも参加しない? 人数は4人までってあるから」
「そうね。それも面白いかも」
「じゃあついでにあいつも呼ぼうか」
 佑一はシュヴァルツ・ヴァルト(しゅう゛ぁるつ・う゛ぁると)を召喚した。
「恋愛物語の創作?」
「そう。シュヴァルツさんも一緒に考えてくれる?」
「ふむ」
 ミシェルの出してくれたコーヒー片手にゆったりと腰かけ、シュヴァルツは少し考え込むようなそぶりをしたあと、さらさらと紙にペンを走らせた。
「ほら、ミシェル」
「うわ。はやーい。もうできたの?」
「プロットだけだがな」
 見せて、と無邪気に受け取って読んだミシェルは次の瞬間、ピシッ! と空間に亀裂が入ったような空耳が聞こえるくらいみごとに固まった。
「ミシェル!? どうしたの!」
 プリムラと話し込んでいて全く注意を払っていなかった佑一があわてて前に回る。
 ひらひら手からこぼれた紙を拾って読んだプリムラは、無表情でバリッと真っ二つに引き裂いた。
「こんなハードエロ、ミシェルに見せるなんてあなた 真正の ks ね」
「あっ、プリムラちゃん、それひどい。2人の出てくる話を考えてと言われたからそうしただけなのに。おとーさんは悲しいなあ」
「あんなばかはほうっておきましょ。キャラ設定と大まかな流れは私が考えるから、ミシェルと佑一は意見をちょうだい」
 泣き崩れる(フリをした)シュヴァルツをバッサリ切って捨て、今度はプリムラがテーブルに向かう。その脇から佑一とミシェルが覗き込み、笑顔でなんやかやと意見を出し合っているのを見てふうと息をつくと、シュヴァルツは悠然と足を組み換え、笑みの浮かんだ口元にコーヒーを運んだのだった。



*            *            *



 ひとの行き交う大通り。
 スクリプト・ヴィルフリーゼ(すくりぷと・う゛ぃるふりーぜ)は落ち着きなくきょろきょろと辺りを見回して様子を探った。
 どこもおかしなところはない。というか、彼女を気にとめている者などだれ1人いない。いや、いるかもしれないが、せいぜいが「なんかあそこでキョドってる人がいるなあ」ぐらいのものだ。
 それでもいつ何時、どこからだれが現れるとも知れない。スクリプトは丸まった背中でこそこそと郵便ポストに近付き、こっそりそれを投函した。
 やった。やり遂げた。
 ほっとすると同時に脱力して、へちゃっとポストに両手をつく。
(ううう…。だってさ、フリーゼに見つかったらとりあげられちゃうかもしれないもん)
 どちらにしても本になったらきっとバレるんだろうけど。そのときはもうどうしようもないと開き直るしかない。
(フリーゼのことだから真っ赤になって「フィルくんにどう弁明しよう?」ってもだつくんだろうなあ)
 その様子が目に見えるようで、くくっと笑う。
 そのとき、となりのポストがコトンと音をたてた。
 白い髪の少女が、大仕事をやり遂げたあとのように「ふうっ」と大きく息をついて、ポストにへちゃり込む。
「キミは…」
「あっ」
 スクリプトを見て、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は真っ赤になった。
「あっ、あのっ。ち、違うんですっ。これはひとに投函を頼まれただけでっ、わたくしが書いたわけでは……決してっ、そのっ」
 そこではたと自分の挙動不審さに気付いて、イコナは動きを止めた。
 それは本当に事実だったのだけれど、これでは絶対信用してもらえない。
 そしてますます赤くなる。
 どう受け取られたのだろう…? おそるおそる伏せていた視線を上げると、ニッとスクリプトが笑ったので、つられるようにイコナも笑みを返した。
「楽しみだねえ、本」
「――はい」
 そう言い合って、2人は分かれた。








 そして数カ月。
 完成した物語が、ついに彼らの手元へ届けられた――――――。