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幻夢の都(第2回/全2回)

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幻夢の都(第2回/全2回)

リアクション


エピローグ

 廃都には町の人々の影はなかった。すると、そこにやって来たのは町に残っていたはずのスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)で、すでに人々が戻ってきていることが伝えられた。
 どうやら、帰りを心配したスティンガー達が黄金都市に足を運び、人々を救助したらしい。廃都と化した都市に驚きを隠せなかったが、何にせよ、町の人々が無事であったことは喜ばしかった。
 町に戻ってくると、人々がガウル達を出迎えてくれた。
「みんなー、おかえりー!」
 董 蓮華(ただす・れんげ)が声をあげながら手を振っている。その隣で、最初にガウルに助けを求めた町の女の子であるユフィが、同じように手を振っていた。
 ユフィを挟むようにその手を握るリフィ・アルクラド(りふぃ・あるくらど)も、笑顔でみんなを出迎えてくれた。
 どうやらガウル達がいなくなって数日が経っていたらしく、誰もが彼らの安否を心配していた。
 ユフィがガウルに抱きついてくる。めまぐるしい戦いになったが、今思えば事の発端というか、きっかけはユフィであって、ガウルはどこか感慨深いものもあった(嫉妬なのか、妙に蓮華が睨んでいることを除けば、だが)。
 果たして、町の人々は無事に救出され、邪竜アスターの伝説は破れ、町には平和な日々が戻ってきたのだった。


 そんな翌日というか、宴の夜。
 ガウルは喧噪から離れた場所で、仲間達の賑わいを眺めていた。
 その手にはカルキノスからもらった酒がある。何でも結構有名な銘酒だそうで、ガウルは皿に取ってきた肉の細切れを肴に、少しずつそれを飲んでいる最中だった。先ほどまではテーブルについてカルキノスやアキュートと飲み比べをやっていたのだが、三人のペースについていけず、テーブルに突っ伏してギブアップする者まで現れたので、さすがに自重して止めたのだった。
 シャノンとフレデリカが魔法理論を論争し合ったり、宵一や切が独自に剣術をお互いに披露し合ったり、そこかしこで仲間達が自由に楽しんでいる。
 ユフィはすっかり蓮華やリフィと仲良くなったようで、まるで姉妹みたいにぴったりくっついて離れない。それにしても、蓮華はよく出来た娘だ。机に突っ伏して眠る仲間には、どこかから持ってきた毛布をそっとかけてあげている。これなら介抱は任せても良いかと思っていたのだが、
「げっ、誰だ、蓮華にお酒飲ませたやつはっ」
 スティンガーが空になった酒瓶を担いで言うや、
「ぬふふふう〜ん、歌っちゃうわよぉ〜!」
 人が変わったように陽気になった蓮華が、急にテーブルに立って歌い出していた。
 おっとりしたリフィが、それをやんややんやと手拍子ではやし立てる。ユフィも事の大変さには気づいていないようで、きゃっきゃと嬉しそうにはしゃいでいた。
 そんな、宴の夜。
「ここにいたのか」
 ふいに、レンが横にやって来て言った。その手には同じように酒の入ったコップと肴の乗った皿があり、そっとガウルの傍に腰を下ろした。その紅い瞳には、すでにサングラスがかけられていた。
「スペアか?」
「…………サングラスの事か? まあな。一応は、いくつか持ってる」
 その庶民臭さというか、生活感に、ガウルがぷっと笑った。
「ひどいな」
「なに、ならこの砕けたサングラスはいらないってことだな」
 ガウルが懐から壊れたサングラスを取り出した。レンはそれを一瞥し、
「そうだな。お前が持っておいてくれ」
 さりげなくそう言った。それからしばらく、無言の時間が過ぎた頃。
「なあ」
 ガウルが先に口を開いた。
「……ん?」
「あの契約というのは、まだ有効だろうか?」
 訊かれて、レンは驚いたようにガウルを見た。
 獣人の血判状。あれをレンに提示されて、どれぐらいの時間が経っただろう。今なら、きっと誰かの為に生きる意味を、見出せるかもしれない。ゼノやアスターの事を思い起こし、そんな事を思ったのだった。
「――いつだって、だ。お前が望む限りはな」
 レンが言う。なぜかその顔が笑みに変わっていた。
 二人がそっとグラスを掲げた。カラン。その音は、どこまでも遠く、森の中へと響いていくようだった。

担当マスターより

▼担当マスター

夜光ヤナギ

▼マスターコメント

 シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。
 獣人シリーズ(ガウル編)最終回の「幻夢の都」、いかがだったでしょうか。

 私が蒼空に携わらせていただきまして、初のシリーズとなった今作。
 色々と思い入れはございますが、こうして無事に終わりを迎えたことが出来ました。
 何よりも、皆様の温かいお言葉やアクションのおかげで、ここまでやってこられました。
 そのことが何より、とても嬉しく思います。

 ガウルは今後、NPCとして登場することはなくなるでしょう。
 私の手を離れて巣立つことになりますが、たとえどのような旅をこれから迎えることになったとしても、それはガウルの一つの形。そして、PL様方がそれぞれに思うガウルの形が、時に一つになったり、時に色んな形になったりすれば、それで良いのかな、と思います。
 それもまた『蒼空のフロンティア』の楽しみの一つですから。
 ここまでお付き合いいただきまして本当にありがとうございました。
 
 それでは、またお会いできるときを楽しみにしております。
 ご参加ありがとうございました。