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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−7

 デスティニーランドは、パラミタに住まう人々に更なる夢を与える場所だ。そして、その夢を叶える場所でもある。
 園内の中央にはデスティニーランドの有名建築物――この遊園地の代名詞とも言える城が建っていて。
 そこで一組の恋人達が、この日、夢を叶えようとしていた。
「なんやろう……柄にもなくそわそわする」
 新郎の控え室で、白いタキシードを着た七枷 陣(ななかせ・じん)は1人、落ち着かない気持ちで室内に視線を彷徨わせる。
 今日、この城で彼はリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)小尾田 真奈(おびた・まな)の2人と結婚式を挙げる。彼女達はまだ、選んだドレスを身に着けている最中だろう。
(2人とも、どんなドレス着てるんやろ。真奈は綺麗に着飾ってるんやろうか。リーズも……馬子にも衣装とかになってなけりゃえぇんやけど)
 控え室の時点で、もう物凄く“ウエディング”という感じだ。真っ白、と言っても差し支えないような白い部屋に、洗練された調度品が揃っている。もてなしと祝福の意が感じられる、特別な部屋。
 ノックの音がしたのは、その時だった。どきりとして立ち上がる。ドアを開けた先に立っていたのは――
「陣さん、お祝いに駆けつけました♪」
「歌菜ちゃん、羽純さん……」
 友人の遠野 歌菜(とおの・かな)と、月崎 羽純(つきざき・はすみ)だった。

「ついに、陣さん達も結婚かあ……」
 控え室に入った歌菜はにこにことした笑顔を向けられ、陣は照れくさくなって苦笑した。
「なんや歌菜ちゃん、えらく笑顔やなあ……」
「うふふ、何だか自分の事みたいに嬉しいの♪ 結婚、おめでとうございます!」
「おう。……2人とも、来てくれてありがとうな」
 今日の式。正式に招待状を送ったりとかしたわけではないから、当日は自分達と、仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)の4人だけかもしれないと思っていた。でもこうして、歌菜と羽純が祝いに駆けつけてくれた。
 最初は驚いたけれど、それがとても嬉しい。
 だから、2人には――
「陣、俺からの結婚祝いだ」
 そこで、羽純が彼に小さな箱を差し出した。クリスマスと式の両方を意識した、シンプルな包装に赤緑2色のリボンが掛かっている。
「結婚祝い……、開けてみてもええか?」
 頷かれ、包装を解く。そして現れたのは、ウッドスプーンだった。
「木で作ったスプーンを新居のキッチンに飾っておくと、料理上手になり、幸せな結婚生活を約束してくれる……らしい」
「あと、小さなシュークリームを積み上げたクロカンブッシュも作ってきたのです! 凄いでしょ♪」
 柔らかに微笑む羽純と、明るく、楽しそうに言う歌菜。2人の気持ちがストレートに伝わってきて、陣は胸が熱くなった。
「ありがとう……。ホント、ありがとうな」
 だから2人には――心からの、最大限の感謝を伝えたい。
 その想いを込めて、彼は言った。

「歌菜様、羽純様……」
「にゃははっ、来てくれたんだね!」
 支度が整った新婦の控え室に行くと、真奈とリーズは笑顔で迎えてくれた。
「結婚式おめでとう! 花嫁さんが幸せになれるように、サムシングフォーを用意してみたよ」
 サムシングフォーとは、花嫁が式で身に着けると幸せになれる、という結婚式の伝統の1つだ。歌菜は『何か新しいもの』としてコサージュを、『何か古いもの』として6ペンスコインを。『何か借りたもの』としては――
「私が結婚式の時に使った、レースのハンカチだよ」
 照れ笑いを浮かべながら、歌菜は彼女達にハンカチを1枚ずつ渡した。
「泣き虫だから、2枚も使っちゃったんだよね」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
 リーズと真奈は、ハンカチを大切そうに受け取った。最後に『何か青いもの』として青い真珠の髪留めをプレゼントして。
 結婚式まで、あと少し。

 ――やっぱり、結婚式は女の子の夢だ。
 ボク達はこれから先も、ずっとずっと一緒にいる。
 それを再確認する意味もあるけれど。
「ボク達が出逢って、告白して……つきあい始めて。いつかはやるって思ってたけど……き、緊張してきたなぁ」
 陣の待つ式場へと、花嫁の2人は広い通路をゆっくりと歩く。シャンデリアの下を行きながら、リーズは真奈に声を掛けた。
「ボク、ヘンじゃないよね?」
「はい。とても……とても可愛らしいです」
 真奈はにっこりと笑ってリーズに応えた。式が始まる時まで、彼女達が陣の伴侶となる時まで、もう、ほんの十数メートルだ。
 出逢った頃は、想像すらしなかった。
 私はあくまで使用人として……傍にいるものだとばかり思っていた。
 これは、私が見ている泡沫の夢なのではないか……とも。
 ――でも、夢じゃない。
 これは……夢なんかじゃない。
「今日の日を、私は忘れません。メモリの奥深くまで……刻みつけます」
 強い、確かな意志をその双眸に宿し、真奈は通路の先を真っ直ぐに見つめた。そして、リーズに優しく柔らかい笑顔を向ける。
「さぁ行きましょうリーズ様。私達の愛する……あの人の元へ」

 青白いウェディングドレスを着たリーズと、少しだけエメラルドグリーンの混ざった白いウェディングドレスを着た真奈が、しとやかに彼のもとへと歩いてくる。
「…………」
 華やかなドレスを着た彼女達はどこまでも清楚で美しく、可愛らしい。元気いっぱいで、まだ子供らしさの方が勝っているリーズも、ちゃんと1人の花嫁に見える。
 陣はしばし目を奪われ、言葉を失くした。
「……黙ってればそれなりに見えるんやなあ……」
「ええー! それ、どういう意味だよ陣くん!」
 どっちとは言わなかったのに自分のことだと分かったらしく、途端にリーズはいつもの彼女に戻り、ぷんすかと抗議した。こんなささやかな会話でも、緊張はほぐれるものだ。
「冗談や。綺麗やで……2人とも」
 そのおかげか、彼は穏やかな気持ちで、そう言うことができた。

 パイプオルガンの音が、ホールに響く。
 舞踏会が行われそうな円形の式場を、左側に真奈、右側にリーズを連れた陣が歩いていく。
(遂に……と言うべきか、ようやくか……と言うべきか)
 黒のタキシードに身を包んだ磁楠は、それを、歌菜と羽純と一緒に見詰めていた。式の全てを目に焼き付けるように、彼等から視線を離すことなく、じっと静かに見守る。
 自分が居たあの世界も、歯車が少し違えばこういう未練もあったのかもしれない。
(……未練だな、全く)
 磁楠が共に在りたかった彼女達はもういない。
 こんな未来もあるのだ、と。
 こんな幸せもあるのだ、と見せて貰えた事に不満などない。
 寧ろ……救われるというべきか。
(そうだろ? リーズ……真奈)
 ――××××!
 ――×××××××××。
「……!」
 途端に聞こえてきた声に磁楠は驚き、身を固めた。だが、すぐに力を抜く。それはきっと……いや、間違いなく幻聴だろう。今目の前に居る彼女達が、発するはずのない声だ。
「…………」
 彼は一度、背後を振り向く。
 ――そうだね、陣くん!
 ――はい、そう思います、ご主人様。
 あの空で消えてしまった、『オレの』パートナーだった、あの元気なちみっ娘ヴァルキリーと優しく笑いかけてくれる機晶姫の少女の声が――
 どこかから、聞こえたような気がした。

「汝、健やかなる時も病める時もこれを敬いこれを助け、喜びの時も、悲しみの時も、その命の限り愛し続けることを誓いますか」
「誓います」
「誓います!」
「誓います」
 新婦2人の最後に、陣は静かに神父へと宣誓する。
 彼等がつきあい始めたのはクリスマスイブだった。それならゴールインも同じ日が良い、と、式の日取りをこの日に決めた。
 身も蓋もない言い方をするなら、式をしたところで何かが大きく変わるわけではないのだが。
(……まぁ、区切りって意味とケジメ付けって意味があるか)
 白い服を着て白い翼を持つ――天使を模しているのではなく正真正銘の守護天使が、可愛らしい小箱を持ってくる。その中から指輪を取って、お互いに交換する。
「……では、誓いの口付けを」
 リーズと真奈に、陣は順に口付けをする。
 派手な演出はいらない。ただ、シンプルに。
 こうして彼女達は、彼女達にとっての伴侶の証を作り上げていった。

              ◇◇◇◇◇◇

 挙式が終わり外に出て、城の中層階から伸びる石橋を、家族となった3人が歩いていく。
「陣もついに身を固めたか……きっと幸せになれよ」
「3人とも、絶対ぜーったい幸せになってね♪」
 羽純と歌菜は、彼女達の頭上にフラワーシャワーとライスシャワーをまいて祝福した。歌菜の風術で舞った花びらを、羽純のサイコキネシスが空に、『おめでとう』という文字とハーとマークを形作っていく。
「うわぁ……」
 幸せへの希望が込められた花びらを、リーズは陣と、真奈と一緒に見上げて感嘆の声を上げる。
「……空高く高く……まーいあがれっ!」
 そして、持っていたブーケを風に飛んでいく花びらの中に、思いっきり高く舞い上げた。
 もし受け取る人が居なくても。
 これから先にある幸せに、想いを馳せて。