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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−1 

 それは、いつも通りの朝だった。季節柄、空気はキンと冷えていたが空模様は悪くなく、窓からそれを確認した瀬乃 和深(せの・かずみ)は、簡単に身支度をすると部屋を出た。
 ――まさに、冒険日和である。
「起きたか、和深」
「おはよう、兄さん」
「ああ、おはよう2人共」
 既に起きていたセドナ・アウレーリエ(せどな・あうれーりえ)瀬乃 月琥(せの・つきこ)は、温かそうな湯気立つマグカップを持っていた。月琥は、期待を込めた目で和深を見ていたのだが、それには気付かず彼も朝食を摂り始めた。まあ、期待を込めるといっても表情的にはいつもの眠そうな印象が勝っていたので気付かなくとも無理はないのだが。
「ごちそうさま」
 食事を終え、和深は愛用の武器を持って立ち上がる。今日も、どこかで何かの依頼があるだろう。装備を確かめて、さあ冒険へ――
「兄さん」
 月琥から呼び止められたのはその時だった。彼女は何か、もう我慢ならないというような、どこか怒った顔をしている。
「クリスマスなのに今日も冒険? どこか遊びに連れてってよ」
「クリスマス……?」
 部屋に掛けられたカレンダーを見て記憶と今日の日付を照合する。
 12月24日。クリスマスイブ。すっかり忘れていた。というか意識していなかった。
「そういえば、そうだったな」
「たまにはお休みしてもいいじゃない」
 和深が冒険に夢中になるのは、昔に亡くした友人が冒険好きだったからだ。友人が出来なかったことを代わりに行っているのを知っているから、月琥は普段、彼が出掛けるのを止めたりはしない。彼女としても、その友人のことを思うと止める理由はない。
 けれど、今朝ばかりは何だか腹が立ってしまったのだ。
 クリスマスの日くらいは、家族の――実の妹である自分を見て欲しい、と思ってしまう。
「だからね、どこでもいいから、今日は家族で遊びに行こうよ。行きたいの」
「そうだな……今日は家族サービスの日にしようか」
 珍しくわがままを言う妹に、和深はそう迷うこともなく頷いた。遊びに行こうとねだる月琥の姿を見ていると、彼女と、まだ和深達兄妹が地球にいた頃のことを思い出した。月琥には何かと世話を焼いてもらったし、当たり前のように、いつも隣には彼女がいた。
(そういえば、パラミタに来てから俺のやりたいことばかりしてて、月琥のことをおざなりにしてた気がするな……)
 だから、というわけではないが、クリスマスは1年に1度だ。家族と過ごすこんな日くらい、月琥と一緒にいてやろう。
「じゃあ、遊園地にでも行くか」
「やった! 行こう行こう!」
 そう言うと、月琥は嬉しそうな声を出して立ち上がった。支度を始める彼女に続いて、セドナも外出の準備を始める。
「遊園地か……興味深いな」
「や、セドナ……悪いけど、今日は家族サービスの日だから……」
「問題ない。我も将来の家族だからな!」
「……?」
 当然のように発されたセドナの言葉に、和深は意味が分からず首を傾げた。セドナは妹のような存在だが、妹ではない。
(……まぁ、月琥とも仲が良いし、せっかくパラミタで出来た友人なんだし大目に見るか)
 そして、3人は遊園地――デスティニーランドに向けて出発した。

              ◇◇◇◇◇◇

 その頃、デスティニーランドでは。
「来てくれてありがとね、プリム君」
 到着したプリムを、花琳がゴスロリ衣装で迎えていた。フリル多めのワンピースに、ケープ付きのコートを身に纏っている。
「え、え……花琳ちゃん?」
「……似合ってるかな? この格好」
「う、うん……」
 夏祭りの浴衣は別として、花琳が普段着ている服とは全く違っていてプリムは驚いた。この日の為に選んだのだというのは多少鈍感な彼にも解る。かつてスク水でナンパしてきた子とは思えず、ひたすら目を丸くするばかりだ。
「良かった! せっかくのクリスマスイブだもん。今日は楽しもうね、プリム君♪」
 花琳はプリムと腕を組んで、遊園地を歩き出す。
「まずはコーヒーカップに行こうよ♪」
 そう言って笑顔を向けてくる彼女は、悪戯をしたり写真を脅しに使ったりする花琳ではなく、普通の女の子にしか感じられなかった。過去に彼女とした、2回のキスを思い出す。
(びくびくすること、ないのかな……?)
 コーヒーカップでは、2人は恋人のように指を絡めて手を繋いでゆっくりと回った。ふざけて高速回転させるようなこともなく、プリムはちょっと、どきどきした。

              ◇◇◇◇◇◇

 空京の街中、デスティニーランド内にある城の尖塔が少しだけ見える、まだ人々の日常の中にある小さな広場で、アクア・ベリル(あくあ・べりる)イディア・S・ラドレクトを抱くファーシー・ラドレクト(ふぁーしー・らどれくと)の言葉に眉を寄せた。
「誰かを誘う……ですか?」
「そう。明日のパーティー、わたしも結構声を掛けてるけど……皆でするパーティーなんだし、わたしだけが誘うっていうのも何か違うかなって。だから、アクアさんも大切な友達を誘ってみてね」
「…………」
 明らかな雑談として供された話題だったが、降って湧いたような突然の話にアクアは
驚きを隠せなかった。普段より目を開き気味にして、心なしか硬直している。てっきり、自分は出席するだけで良いのだと思っていた。自ら誰かを誘うなんて慣れない事この上ない。ほぼ未経験とも言っていい。これまで、彼女から誰かの中に踏み込む事は皆無に等しく、今ある関係は、話しかけられるままに、受身で交流を持った結果である。どこかに、自分は他者と相容れない存在なのだと、そんな凝り固まった『殻』があって――
 だから、改めて『誘え』と言われると、それは相当にハードルが高いことだった。
「リア充だな……」
 そこで、黙って聞いていたラス・リージュン(らす・りーじゅん)が、横目で2人を見遣りながら呟くように言った。困っているアクアを助ける気は更々無かったが、それは、多く友人がいないと、誰もが友人を持っていると思っていないと発せない言葉だ。まあ事実、ファーシーは友人が多いし彼氏もいるし子供もいるしで立派なリア充に見えるわけだが。
「お前それ、友達いない奴に言ったらぶっ壊されるぞ……」
 無意識だからこそ尚更、タチが悪いとも言える。
「え? でも……」
 ファーシーはラスに向けて何度か瞬きし、それから思い出したように付け加える。
「あ、ラスも誰か誘ってね? 明日のパーティー」
「は?」
 完全に他人事と思っていたところに不意打ちを受け、つい声が裏返る。だが、ファーシーはそれを気にする素振りもなく、「でも……」と、先程の話の続きをするように断言した。
「だって、大丈夫でしょ?」
「…………」
「大丈夫だよ! あたしが一緒に誘っておくから!」
 ラスが絶句して彼女を見返していると、そこでピノ・リージュン(ぴの・りーじゅん)が元気な声を出した。2人を見上げ、次いでアクアに笑顔を向けて明るく言う。
「アクアちゃんも大丈夫だよね!」
「え、ええ……」
 その勢いに呑まれるように、アクアは気付いたら首肯していた。半ば自動的な反応だったが、何故か、それが意思に反しているとは思えなくて――
「お待たせしました〜」
 待ち合わせしていた、シーラ・カンス(しーら・かんす)薄青 諒(うすあお・まこと)がやってきたのは、その時だった。諒は白いシャツに緑のネクタイを合わせ、サスペンダーつきの左右長さ違いのパンツにエメラルドと白のニーハイソックスを履いていた。その上からは、うさみみフードのついたジャケットを羽織っている。類としては、ゴスロリ衣装だ。
「「「「「…………」」」」」
 5人が思い思いにその衣装に感想を抱いていると、理由は不明だが、諒は何か緊張した面持ちで挨拶した。
「お、おはようございます……!」
「おはよう! 諒くん、今日はうさみみなんだね! お揃いだね!」
「えっ、おそ、お揃い……!?」
 いつもよりももこっとしたうさみみコートを着たピノに言われ、諒はびっくりして、次いで顔を赤くした。意識してはいなかったけれど、確かにお揃いだ。
「そうね、可愛いわ。遊園地って感じ」
「うん、すっごく可愛いよ! ね! アクアちゃん! おにいちゃん!」
「……悪くはないですね」
「ああ、カワイイな。とてもカワイイ。自信を持ってイイと思うぞ」
「ばぶ」
「かわいい……」
 ファーシーとピノは本心から、アクアはゴスロリ愛好家としての観点から、ラスは諒がへこむという確信のもとで彼の格好を可愛いと評した。加えてイディアも肯定した。
「今日はパンツスタイルなのに……」
 そして格好良い系男子を目指している諒はやっぱり、へこんだ。だが、へこんでいる場合ではない。
「あ、あの! ピノちゃん! め……」
 ピノの前に立った諒は、ぎくしゃくとした動きで携帯ストラップを手のひらに載せて差し出した。勇気を爆発させて彼女に言う。
「め、メリークリスマス! ってこれ、ピノちゃんにあげようと思って……」
「あたしに? あ、これ……」
『め?』ときょとんとしていたピノは、諒の手のひらをじっと見つめる。うさみみパーカーを着たハートの髪飾りをつけた女の子の人形だ。シーラに教えてもらいながら自分で縫った、少し縫い目がふぞろいな小さな人形。たまに針を刺してしまったりもして、指にはいくつか絆創膏が貼ってある。
「…………」
 人形を見るピノを、彼女の次の言葉を、心臓が飛び出すくらいにドキドキしながら諒は待つ。ピノの後ろから「ふーん……」というように人形を見下ろすラスの視線にもまた、別の意味でドキドキするのだが。
「あたしの人形だね! うわあ……作ってくれたんだ。ありがとう!」
 諒の手からピノ人形を受け取って、彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべた。それは本当に無邪気な笑顔からは直接気持ちが伝わってきて、諒もほっとして笑顔になる。
「ピノちゃん、今年も楽しかったね! 来年も楽しくしようね!」
「うん!」
「よかったですね〜、諒ちゃん」
 人形の作成から見守っていたシーラが、それをカメラに撮りながら微笑ましげに言う。ピノは早速、人形を取り付けようと携帯を取り出した。だが、小さな穴に紐を通すのが苦手なのか苦戦していて、「ほら」とラスがそれを取り上げて、元から下がっていたストラップと一緒にピノ人形を仲間入りさせる。そこで、撮影を続けていたシーラがふとカメラを下ろして人形のついたストラップを取り出した。
「ラスさんにもあるんですよ〜。クリスマスプレゼントです〜」
「え……、俺に?」
「はい、作ってみましたのでどうぞ〜」
 ぎょっとして一歩下がったラスに、シーラはにこにことした笑顔で人形を渡す。手作りであることに特に深い意味はなく、諒がピノに作るなら、とただそれだけの“ついでな”理由で制作されたラス人形だ。
「…………」
「あ! おにいちゃんももらったんだね! 可愛いね!」
 驚いた表情のまま、指先でストラップを摘んでみる。ほぼ思考停止状態でどうすればいいのか分からずにいると、ピノが下の方から声を掛けてきた。確かに、明らかに本人なのだが本人とは思えないくらいに、可愛らしい。そして手作りらしい。
 ……とりあえず、彼はそれを仕舞っておくことにした。
「……あー、まあ……。貰っておくな」
「あれっ、携帯につけないの?」
「!? 携帯にって……」
「うれしくなかったですか〜?」
「い、いや、そういうわけじゃなくて……」
 小首を傾げてくるシーラを前にすると仕舞うに仕舞えない。見えない何かに抗えず、ラスは彼女達の前で人形を携帯に取り付けた。手早く仕舞い、話を逸らすようにシーラに言う。
「2人だけなんて珍しいな」
「大地さん達はチェラ・プレソンでお仕事なんですよ〜。クリスマスイブですから〜」
「ああ……」
 ケーキ販売の、まさに書き入れ時だ。
「それじゃあ仕方ないわね。じゃあ、7人で行きましょう!」

(あ、来たみたいですね)
 それからしばし。
「マリー、行きますよ」
「う、うん……」
 デスティニーランドに入ってすぐの場所にあるアーケード通りで買い物をしていたシュリュズベリィ著 セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)は、ファーシー達の姿を見つけて店を出た。慌ててついてくるマリオン・フリード(まりおん・ふりーど)を連れ、背後から声を掛ける。
「ファーシーさん、アクアさん、それに皆さんも、偶然ですね」
「……? あ、セラさん、久しぶりね!」
 振り返ったファーシーは、そう言って笑顔になった。セラの顔を認め、アクアも皆と一緒に足を止める。無表情だった顔が、マリオンを見て微妙に変化した。
 アクアの視線に気付き、セラは「?」とアクアとマリオンを見比べた。やがて、得心したように笑みを浮かべる。
「この子を紹介しませんとね。マリオン・フリード……マリーです」
「よろしくお願いします、マリーです」
 マリオンはぺこりと頭を下げる。
「うん、よろしくね!」
「……よろしくお願いします」
 ファーシー達が初交流に花を咲かせる中、アクアもマリオンに挨拶する。彼女の事はイルミンスール内で見たことがあり、それはルイ・フリード(るい・ふりーど)の近くだったのだが、これで理解出来た。彼女はルイに用事があったのだろう。
 ちらちらとこちらを伺ってきているような気がするのが、気にはなったが。
 歩き出しながら、セラが言う。
「ちなみに、今日はルイは来てませんよ。サルカモ達の里帰りにアルカディアに行きたいって言っていましたが……」
「アルカディアに……?」
「『1人で行動厳禁、ただ遭難したいドM思考ならオッケー』と言ったら自重したようです。ドMではないと思っているみたいですね」
 アクアの表情の変化を観察しながら、セラはそう説明する。彼女が見たところ、アクアは当初、ルイの事を全く気にしていなかった。セラ達を見ても、顔さえ思い浮かべていなかった。それが『ルイが来ていない』と言ったら明らかに肩の力を抜き、『アルカディアに行く』という話をしたら眉を顰め、『自重したよう』の言葉でどこか安心したようだ。
(ふむ、面白いですね……)
 ルイがいない、と聞いてアクアがどう反応するのかを見たい。それもあり、彼女達がデスティニーランドに行くと知ったセラは、自然な流れを装って合流することにしたのだ。このアーケードなら、入場した来園客が必ず通る。
「同行出来なくてルイには悪いですけど、セラはいろいろと行ってみたい所があったので。遊園地も、その1つですね」
「義父さんと一緒じゃないのが残念です……」
 マリオンは俯きがちに、少し声を落として言った。最近ルイは、こういう特別なイベントの時に忙しくなることが多い。タイミングって大事なんだね、と彼女は常々思う。
 でも今日は、ルイが『私も残念ですが、たっぷりと楽しんで来てください』と言っていたから。
「だから、ちゃんと楽しみます!」
「…………」
 本当に寂しそうで、ルイに懐いていることを伺わせるマリオンをアクアは見下ろす。マリオンにとってもアクアは少し気になる人で、目が合ってにっこりと笑いかける。
 正しく言えば、気になる人……というか『義父さんの悩みの人』であり、近くに居るなら何か行動したい、とも思う。
 けれど、遊園地も楽しみたくて。
(……大人の事情ってヤツだと思うから遊園地を楽しむ事を重点的にいくのです!)
 難しい事だと野生の勘が告げているし、その点は諦めてセラについていきながら楽しもう。セラは、何やらいつもの企み笑顔な気がするし。
「マリーちゃんは、遊園地は初めて?」
「はい、初めてです!」
 ファーシーに聞かれて、マリオンは周りを見渡しながらそれはそれとして目を輝かせる。初めて来る遊園地はおもちゃ箱みたいで、今からとても、楽しみだ。
「あ、ルイは明日のパーティーに出席するようですよ」
「……そうですか」
 セラに応える若干硬めのアクアの声が聞こえる。
 ……やっぱり、こっちも気になるけれど。