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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』
サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』 サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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【2022年12月24日 08:30AM】

 フレデリカは更に、他の簀巻き連中を訪ねて廻ったが、どうもあまり秘宝の問題とは関係がなさそうな面々が大勢簀巻きにされているようで、調査は難航を極めた。
 ドクター・ハデス達の簀巻きポイントから50メートル程、東に離れた地点。
 そこには、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)マイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)マネキ・ング(まねき・んぐ)屋良 黎明華(やら・れめか)鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう)夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)オリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)、そして高崎 朋美(たかさき・ともみ)といった顔ぶれが、まるでマッチ棒を並べるかのように、整然と簀巻き姿を横一列に並べ置かれていた。
 これはある意味、ちょっとした壮観でもあった。
 厳密にいえば、マイキーとマネキは簀巻きではなく樽詰めにされて転がされていたのだが、境遇としては同じようなものであろう。
「いやはや……よくもまぁ、これだけ盛大に簀巻きが並んじゃってるものね。皆さん、一体何をやらかしたのかしら?」
 フレデリカの呆れ返った声に対し、甚五郎とオリバーの両名が抗議した。
「何をいうておる! わしらはパーティー会場を警備しておっただけで、悪いことなどしておる筈がない!」
「んだんだ。オラ達ゃ悪くない……筈、なんだけどなぁ。いや、何ていうか、ちょっと自信がないけど」
 このふたりについては、フレデリカも何かの間違い、或いは誰かに嵌められたか、簀巻きマニアのテロ行為に遭ったのではと同情すべき部分が多々あることを認めた。
「そうね。あなた達は職分を果たす為に努力をしてた……それは、認めるわ。さっきの言葉をお詫びと共に訂正するわ」
 いいながら、フレデリカは甚五郎とオリバーを戒めている簀巻きの縄を解いてやった。
 誤解が解けたことで気を良くしたのか、甚五郎は僅かに相好を崩した。
「しかし、わしら以外にも簀巻きにされる程の理由もなくして、ここに放置されている者が少なくないようだ。まずはひとりずつ、事情を聞いて廻るか?」
「もとより、そのつもりよ」
 フレデリカの了解を得て、甚五郎とオリバーはまず黎明華、貴仁、黒羽の三人について、事情を聞くと同時に簀巻きを解いてやろうとした――が、すぐにその手が止まった。
 実は黎明華のナイスなボディラインに巻きついている簀巻きの下は、布らしい布が一枚もないことに気づいたのである。
 要するに、全裸なのだ。
 これは流石に、このまま簀巻きを解くのは拙いと判断した甚五郎が、困り果てた様子でフレデリカに助けを求めるような視線を送った。
「ま、仕方がないから、当分そのままにしておくしかないんじゃない?
 そんな訳で、黎明華だけは簀巻き継続となった。
 しかし黎明華は然程気にした風もなく、甚五郎に問われるまま、昨晩の記憶について語り始めた。
「何かよく覚えてないけど、たかひととガンガンお酒呑んで、超絶泥酔モードだった気がするのだ」
 曰く、貴仁がいきなり貧乳賛美を始めたのが気に入らないので、激論が始まったところまでは何となく覚えているらしいのだが、それ以後の記憶は綺麗さっぱり、消えているようだ。
 ところが、簀巻きにされる直前だけは、妙に鮮明な記憶が残っているのだという。
「突然後ろから、誰かに一発かまされたような気がするのだ。あれは何者だったのだ〜?」
 逆に貴仁と黒羽は、何も覚えていないのだという。
 貴仁はべろんべろんに泥酔してたから、秘宝の力に頼らずとも勝手に意識が消し飛んでしまったようだし、黒羽は黒羽でプロレスなんぞを始めたまでは良かったが、誰かに失神KOされてしまい、こちらも見事に記憶が飛んでしまったようである。
 だがいずれにせよ、簀巻きにされる程の悪行を重ねたという訳でもない。
 一体、誰が彼ら、或いは彼女達をこんな目に遭わせたというのだろう。

 更に謎なのが、樽詰めにされているマネキンとマイキーの両名である。
 ふたりが何となく覚えているところでは、誰かに酒類や特殊なノンアルコールドリンクを提供していただけ、ということだった。
 本当か嘘かは分からないが、ふたりの言葉を信じるならば、樽詰めにされる道理がない。
「我は決して、悪意を持って参加していた筈などない。しかるに、かような仕打ちを受けるとは迷惑千万な話である」
「ボクも皆に楽しんで貰いたいって気持ちで、昨晩のパーティーに参加したんだよ。ボクの愛は、きっとお客さん達に通じていた筈さっ!」
 樽から首だけだして切々と訴えるふたりの姿に、しかし何故か同情心というよりも、失笑しか湧いてこないのは何故だろう。
 だがセリスに対してだけは、普通に同情心が湧いてくるようである。
 少なくとも甚五郎は随分と気の毒そうな面持ちで、セリスの簀巻きを解いてやった。
「いや……俺は単純に酒を楽しんでただけの筈なんだが……気づいたら、簀巻きになってた。一体、何があったんだろう?」
「その気持ち、俺も分かります。どうしてこうなった、っていうのはこういう時の為にある台詞ですよね」
 簀巻きを解かれた貴仁が、腕を組んで納得顔を見せながら何度も頷いているが、単なる二日酔いで記憶が飛んでしまった者と認定された貴仁に、同意してくれる者はひとりも居なかった。
「申し訳ないけど、俺、普段はそんなに泥酔するまで呑まないから」
「あぅ……そ、そうですか。やっぱり泥酔は駄目ですか。お酒はほどほどにってことですね」
 セリスの素っ気無い対応に、貴仁はがっくりと項垂れた。
「簀巻きされるのもほどほどに、なのだ。すっぽんぽんじゃ何も出来ないのだ」
「黎明華くんがすっぽんぽんなのは、きっと自業自得なんじゃないかな。根拠はないけど」
 簀巻きのまま仁王立ちになっている黎明華に、黒羽の鋭いツッコミが飛んだ。有り得る話なだけに、笑うに笑えない。
 オリバーが必死になってマネキンとマイキーの樽を叩き割っている隣りで、フレデリカは朋美の簀巻きを解いてやった。
「あなたはどういう経緯で、簀巻きになったのか覚えてる?」
「う〜ん……本当に、全然思い当たる節がないなぁ。ボクはただ、聡君に生徒会長としてのあるべき姿を説いてただけ、っていう記憶は残ってるんだけど、他は全然……」
 しかし、聡も別の場所で簀巻きにされているという現実を鑑みると、朋美に非がなくとも、聡が何かをやらかして、その巻き添えを食らったという可能性は十分考えられる。
「山葉生徒会長って、やっぱり何っていうか、簀巻きにされても仕方がない部分がありますよね」
 貴仁が、しれっとした顔で結構酷い台詞を平気で放った。
 誰も否定しないのは、それが民意だということか。


     * * *



「待てぃ、キロス・コンモドゥス! 猥褻物陳列罪未遂の現行犯だ! 良い加減、パンツ一丁でホテル内を走り回るのはやめんかい!」
 甚五郎さんが物凄い勢いで、キロスさんを追いかけてる。
「きゃははは! キロス君、まだまだ元気ね〜!」
 隣でリナリエッタさんがノーブラの胸元をたゆんたゆんさせながら走ってるのが、何とも扇情的っていうか、奇怪っていうか……。
「オリバー! アベック襲撃の方はどうなった!」
 甚五郎さんが走りながら無線で問いかけると、無線機からはオリバーさんの声が。
『こっちは片付いた。今からそっちに合流するぞ』
「なるべく早く頼む! キロスのパンツ姿など、これ以上見ておれん!」
 あ、何だ、オリバーさんってば、フィーアさんのアベック襲撃事件を追ってたのね。
 それだったら、任せておけば良かったかな。
 でもやっぱり甚五郎さんとオリバーさんは真面目に、警備員の仕事やってたんだね。それなのに簀巻きにされてたなんて、ちょっと可哀想かも。
 それにしても、最近は場を盛り上げるのにプロレスをやるのが流行ってるのかしら?
 九条先生もそうだったけど、黎明華さんや黒羽さんが、白いマットのジャングルも何もなしでいきなりシングルマッチを始めちゃうもんだから、周りのひと達はびっくりしてるわ。
 でも、黎明華さんは呑みがメインだから、あんまり真面目にやってないわね。ペンギンのマスクを被って、マスク・ド・ペンギンを名乗っている黒羽さんは焼酎を毒霧代わりに噴射してるけど、ペンギンと毒霧がどう結び付くのか、謎ね。
 とかいってたら、キャンドルの火が引火して、マスク・ド・ペンギンが炎に包まれてる。
「うがぁ! や、焼ける焼ける焼ける!」
「ひゃっはぁっ! ペンギンの丸焼きなのだ〜!」
 黎明華さん、笑ってないで助けてあげなよ……。
 っていうかね、貴仁さんも一緒になって笑ってるよ。
 パートナーが火だるまになってんだから、助けようって思うのが普通の感覚だと思うんだけど……ふたりとも酔ってるしなぁ。やっぱりお酒って、怖いね。
「そこの若人! 元気が良いな! ここはひとつ、わしが面白い芸を仕込んで、プロレスに代わる宴会芸を披露させてやろうぞ!」
 いきなり、ルシェイメアさんが突撃してきた。
 何をしてるのか……って思ったら、貴仁さんのお腹に顔を書いてる。
 あれって所謂、へそ踊りってやつ?
 何だかよく分かんないけど、貴仁さんもまんざらじゃないみたい。
 黎明華さんも、異様に盛り上がってるし……へそ祭りになっちゃってるわ。
 あら、ルシェイメアさん、とうとう自分のお腹にまで顔を書き始めちゃってる。見た目は可愛い女の子なんだから、そんなハシタナイことしちゃいけないわ。
 何だか、妙に騒がしいことになってきちゃったわね。
 騒がしいといえば、マネキンさんとマイキーさんとこも、大変なことになってたみたい。
 マイキーさんとこでお酒を楽しんでた舞香さんが、何かの拍子でつまずいた別の酔っ払いにドレスのスカート部分を引き裂かれ、可愛いパンツ姿を披露しちゃってる。
「いやぁ! ちょっと、何すんのよ、このド変態! 今見たもの、全部忘れなさい!」
 うわっ、舞香さん、怒りに我を忘れて完全に暴走しちゃってるよ。
 止めに入ったマイキーさんが、最初にハイヒールアッパーキックでノックアウトされちゃった。
 舞香さんとお酒を呑んでたセリスさん、このまま舞香さんの暴走に巻き込まれるのかな……って思ってたら、違ったみたい。
 セリスさんを襲ったのは、綾乃さんだったようね。
「きゃあ! いやぁ! こっちこないでー!」
 綾乃さん、もう完全にパニクってる。
 でもその割には、物凄く手際良くセリスさんをKOして、流れるような手つきで簀巻きにしちゃってるんですけど……。
 しかも綾乃さんが仕留めた相手は、セリスさんだけじゃなかったみたい。
「うぉっ! 何だぁ!?」
 次なるターゲットは、逆さ磔にされる運命にある、宵一さん。
「きゃー! きゃー! きゃー!」
 綾乃さん、パニクってるように見えるのは、もしかしてカモフラージュ?
 男達を手当たり次第にカモって、楽しんでるんじゃないの?
 何かね、宵一さんを逆さ磔の刑に仕上げるまで、十秒とかかってないんですけど。
「どうしたぁ! 何があったぁ!?」
 キロスさんを追いかけてた筈の甚五郎さんが、騒ぎに駆けつけてきた。本当に忙しいひとね。
 あ、でも、やばい。
 甚五郎さんの背後に、誰かがお手軽簀巻きセットを抱えてゆっくり迫ってきているよ。
 って思ったら、やっぱりやられた。甚五郎さん、簀巻きにされちゃった。
 犯人は……あら、京華さんだったのね。何でまた甚五郎さんを簀巻きに、なんて思っちゃったんだろう。
 しかも京華さんってば、甚五郎さんだけじゃ飽き足らず、他の標的を探してる。
 で、ロックオンされたのは、朋美さんね。
「だからね、聡君。生徒会長たるもの、全校生徒の規範になるべき行動をだね……」
 朋美さんは、スイーツ食べ比べ選手権『バトル・オブ・スイーツ』に参戦して、がっつがつ食いまくりながら聡さんに説教してる。
 うん、まぁ、ぶっちゃけ、あんまり説得力ないよね。
 朋美さん自身が、ウエストを気にするとかいいながら、結局自分の誘惑に負けちゃってるのに。
 きっとね、京華さんのお手軽簀巻きセットの餌食になっちゃったのも、自業自得だと思うのよ。他人に説教する時は、まず自分が規範にならないとね。

 この時、私の時計は2022年12月23日の20:00頃を差していた。